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アリババが自動運転シミュレーションを公開。自動運転の実現が加速

アリババの最先端AI研究機関「ダモアカデミー」が、自動運転のシミュレーションテストプラットフォームを公開した。コンピューター内で自動運転の人工知能を学習させることができ、公道走行と組み合わせることで、自動運転の実現が加速する。アリババ はダモアカデミーが技術提供し、傘下の菜鳥で無人カートを実用化することを目指していると榕樹下的学習が報じた。

 

先端技術を開発するダモアカデミー

ダモアカデミーは、人工知能などの最先端技術を研究するアリババの研究機関。新型コロナウイルス感染拡大期には、機械学習により肺のCTスキャン画像から新型コロナであるかどうかを20秒で、96%の精度で判定するシステムを公開して話題になった。

そのダモアカデミーが、自動運転のためのシミュレーションテストプラットフォームを公開した。

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▲アリババダモアカデミーのシミュレーションプラットフォーム。1日で800万kmに相当する走行実験が可能になる。

 

シミュレーションで人工知能を高速学習させる

このプラットフォームは、現実の道路環境をコンピューター内で再現し、なおかつ自動車や歩行者を自由に動かし、さまざまな道路環境を再現できるというもの。雨、雪などの天候条件や照明のよくない状況など、さまざまな環境をわずか30秒で作り出すことができ、自動運転の人工知能はこのプラットフォーム上で学習を進めることができる。

シミュレーション学習のメリットは、人為的にさまざまな道路環境を作り出すこともあるが、最も大きなメリットは、時間を早回しして学習を進めることができることだ。ダモアカデミーのプラットフォームでは、1日で800万kmに相当する走行を学習することができ、これを公道で行おうとすると数十年はかかることになる。

世界で最も自動運転車の公道走行を行っているグーグル傘下のウェイモーでは、2019年には148台の車両を使って、233万kmの公道走行を行っている。走行距離だけを比べれば、ダモアカデミーのプラットフォームは、ウェイモーの3.4年分をわずか1日で学習できることになる。

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▲菜鳥では配送拠点でも人工知能による自動化が行われている。このお掃除ロボットのようなデバイスが、荷物の配送先コードを読み取り、自動で仕分けをしていく。

 

シミュレーションと公道走行を組み合わせて開発

このようなシミュレーションテストプラットフォームは、自動運転を開発している企業はどこも開発をしている。ウェイモーは2017年にCarcraftを開発し、2018年には百度が、2019年にはテンセントがTADSimを開発している。さらに、ファーウェイ、インテルマイクロソフトなども開発を進めている。

自動運転の試験走行は、このようなシミュレーションプラットフォームと公道走行を組み合わせて開発をしていくのが主流になっている。プラットフォームで、現実ではあり得ない状況を学習させ、また計算の時間軸で走行させることで、大量に学習を進める。その結果を公道で実際に走って学習成果を確認する。

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▲グーグル傘下のウェイモーが開発したCarcraft。公道走行と合わせて、自動運転に最も近い位置にいるが、中国の百度なども追い上げてきている。

 

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▲テンセントが開発したTADSim。コンピューター内で自動運転人工知能を高速学習させることができる。

 

アリババは無人カート配送の実現を優先

自動運転をどのような分野に応用するか、各社さまざまな展望を持っているが、アリババの場合は、末端物流の自動化を最も重要視している。アリババの傘下には物流企業の菜鳥網絡科技がある。菜鳥(ツァイニャオ)は、無人配送カート、ドローン配送、無人配送センター、AI電話などの実用化を進めている。この菜鳥に対して、基礎技術を提供しているのがダモアカデミーだ。

菜鳥では、成都市の未来園区、河北省の雄安新区などのテックパーク(技術工業団地)などに無人カート基地を設置し、実際に無人配送を行っている。道路環境が整備されているテックパークなどで、運用走行を始め、次第に一般の街中に拡大をしていく予定だ。

ダモアカデミーのシミュレーションプラットフォームにより、この動きが加速されると見られている。

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成都市未来園区の無人カート基地。菜鳥はすでに無人カートによる配送の実用化に迫りつつある。