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Tik Tokのバイトダンスが次に狙うのはオンライン教育市場か

抖音(ドウイン、Tik Tok)、今日頭条などで成功をしている字節跳動(ズージエティアオドン、バイトダンス)がオンライン教育に積極的に進出をしている。メディアでは、バイトダンスが次に狙っているのは教育市場ではないかという議論が起きていると億欧網が報じた。

 

オンライン教育市場に積極的になっているバイトダンス

バイトダンスがオンライン教育サービスに積極的に進出している。まるで、ニュースキュレーションの今日頭条、ショートムービーのTik Tokの次の柱の事業として、オンライン教育に焦点をあてているかのようだ。

実際、2018年春からは、毎月のように、教育サービスをスタートさせ、教育関連企業を買収、投資している。

メディアでは、バイトダンスが教育企業に変わろうとしているという観測まで流れるほどだ。


Who We Are

▲gogokidの教材のひとつ。小学生が英語を学ぶ教材としては、質も高い。

 

教育分野を学ぼうとしているバイトダンス

しかし、バイトダンスが自ら開発をしたものはまだひとつもない。いずれも、他社が開発したものを買収して運営をしている。

バイトダンスの張一鳴(ジャン・イーミン)CEOはこう語っている。「バイトダンスはまだオンライン教育の領域において、根源的なイノベーションを起こしていません。私たちは教育分野に深い知見があるとは言えないのです」。

現在、バイトダンスでは20以上のオンライン教育サービスを運営している。しかし、Tik Tokや今日頭条のようなバイトダンス風の斬新さは特にない。教育サービスを買収して、運営チームを統合している最中で、バイトダンスが教育領域を学ぶ段階にある。

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▲バイトダンスがリリースしているオンライン教育プロダクト。ただし、バイトダンス内部で開発したものはほとんどなく、プロダクトを買収して改変してリリースしているものばかりだ。

 

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▲バイトダンスは、オンライン教育関係の企業の買収、投資も進めている。

 

バイトダンスのイノベーションは「格差の緩和」

テックジャイアントと呼ばれる企業は、プロダクトによって大きな社会課題を解決している。アリババはECによって、商売の形態と距離という制限を打ち破り、中国経済に大きな貢献をした。テンセントは、SNSにより、中国人のコミュニケーションの制限を打ち破った。だからこそ、多くの人に利用されるプロダクト、サービスに育っていく。

では、バイトダンスは今日頭条やTik Tokで、中国のどのような社会課題を解決したのだろうか。それはアジア全域に存在する格差を緩和したことだと億欧網は指摘する。

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▲抖音(Tik Tok)は、もはや若い女の子がダンス映像を披露する場ではなくなっている。ニュース映像なども配信されるショートムービープラットフォームになっている。写真は中央電子台が配信している映像。アナウンサーの日常や、南沙諸島で取材した映像などが配信されている。

 

グローバル経済が格差を広げている

清華大学歴史学の秦暉教授は、2018年に上海で「グローバリズムが不平等を拡大させる」という講演を行った。グローバリズムは地球全体で考えれば好ましいことだが、ひとつの国の中では矛盾を生じさせる。80年代に経済のグローバル化が進むと、資本が過剰になっている欧米先進国は、労働力が過剰になっている途上国に資本を投下した。これにより、製品の価格が下がり、それを先進国に輸入することで、誰もがグローバル掲載の恩恵を受けた。先進国では物価が安くなり、途上国では所得が増え、先進国も途上国も経済が急速に発展をした。

しかし、時間とともに先進国の資本は過剰ではなくなり、途上国の労働力も過剰ではなくなった。その中で、ひとつの国の中での所得の再分配がじゅうぶんに行われなくなり、富めるものはますます富み、貧しいものはますます貧しくなる現象が起こり始めた。例えば、韓国ではサムスンヒュンダイ、LG、SK、ロッテの5大財閥の総資産は、韓国全体の資産の57%を占めている。サムスンの収入は、韓国GDPの20%にもなるようになっている。

 

富めるプロセスが途中停止し、格差の固定化が生じた

中国でも事情は同じだ。改革開放が始まり、「富めるものから富んでいけ」という政策の下、一部の者が豊になり、それが中国全体に波及をして、最終的には全員が豊かになるという考え方だった。ところが、一部の者が冨み、経済格差が以前よりも大きくなったところで、グローバル経済危機が起こり、「富む」流れが止まり、格差だけが固定化してしまった。

今日頭条、Tik Tokなどのバイトダンスの製品は、このような格差拡大を緩和させる働きをしたと指摘されている。2つのアプリで配信される情報には格差は存在しない。貧困の農村でも、都市と同じ情報を享受することができる。テレビニュース、新聞などという堅苦しいフォーマットに整えられた情報ではなく、普通の人々の生の感覚に触れることができる。自然以外何もない農村の若者が、北京の最先端の街の若者の感覚に触れることができるのだ。


Tik TokライブECには農村が多数参加

Tik TokがライブECの機能を開始したところ、バイトダンスですら意外だったのが、そのライブECの機能を使って販売を始めたのは、農村の若者たちだった。Tik Tokを使っていた農村の若者たちが、ライブECの機能を使って、生産している農産品の販売を始めたのだ。

コロナ禍によって、農産品の流通が滞った問題を解決するため、バイトダンスは「戦疫助農」という公益活動を行なった。ライブECで農産品を販売してもらうというものだ。これに地方の県長が37名も参加し、県長自らライブECに登場し、農産品を紹介し、合計で3.2億元(約48億元)の売上があった。

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▲Tik TokライブECが開催した「戦疫助農」には、県長が自ら登場し、地元の農産品の販売を行った。

 

情報格差を緩和するオンライン教育

バイトダンスは、情報の格差問題を解決しようとしており、今日頭条もTik Tokもその使命を担っている。そのバイトダンスが、オンライン教育に注目をするのは当然のことでもある。オンライン教育であれば、大都市の子どもたちも農村の子どもたちも同じレベルの教育を受けることができる。

バイトダンスの当面の課題は、教育領域でバイトダンス流のイノベーションを起こすことだ。今日頭条、Tik Tokでは、人工知能を使って、コンテンツのリコメンドシステムにイノベーションを起こし、利用者が読みたい、見たいコンテンツが次々と現れるという状況を作り出した。

バイトダンスの教育サービスにも人工知能が活用されているが、他の多くの教育サービスと大きくは変わらない。子どもたちが、Tik Tokのように中毒になってしまうほど勉強してしまう教育サービス、やればやるほどみるみる成果があがる教育サービス、そういうものを生み出せるかどうかにかかっている。

バイトダンスは、既存の事業で大きな収益を生み出しており、新たに教育サービスを展開して、さらに収益を上乗せすることに大きな意味はない。教育の領域で、バイトダンス流のイノベーションを起こし、教育格差という社会課題の解決ができるかどうか、そこが期待されている。

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▲オンライン教育サービス「大力課堂」。教師と生徒で、タブレットに書き込んだ情報をやりとりできる。