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中国統一の交通カードがApple Payに対応。乱立していた乗車方式は収束されるか

2018年に、北京と上海の公共交通(バス、地下鉄など)の交通カードがApple Payに対応していていたが、2020年4月より深圳と広州が加わり、また、近日中に仏山にも対応する。

日本のSuica+Apple Payと同じように、改札にタッチをするだけで地下鉄に乗り降りできるようになる。交通カードも全国相互乗り入れがほぼ完了し、利便性が高くなってきている。交通カード、QR乗車などさまざまな方式が乱立していた公共交通の乗車が交通カードに統一されていくきっかけになる可能性もあると新城記が報じた。

 

カード、QRNFCの乗車割合は4:4:2

中国では、小米(シャオミ)のmi Pay、ファーウェイのHuawei Pay、WeChatミニプログラムなどもNFC乗車に対応をしているが、今ひとつNFC乗車が増えていかない。

プラスティックの交通カードを利用するか、QRコードをかざして乗車する人がまだまだ多い。すべてに対応している北京市の朝のラッシュ時の体感では、カード:QRNFCの割合は4:4:2ぐらいの感覚だ。

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▲深圳市発行の交通カード。最近ではさまざまなデザインのものが登場している。右下の「交通連合」のロゴがあるカードは、全国ほぼすべての都市でそのまま利用できる。このカードもApple Payに登録できるようになった。

 

乱立の原因は、交通カードの統一が遅れたこと

中国の交通カードの分野は、日本に比べて大きく遅れている。遅れているというより、さまざまな方式が混在をしてしまったため、迷走をしている。一部の都市では、顔認証乗車も導入されている。

日本では、交通カードのほとんどが相互乗り入れされているため、Suica1枚で全国どこでも公共交通が利用できる。また、Apple Payやアプリを利用することで、NFC乗車が可能になる。

ところが、中国ではNFCカードが1999年から普及が始まったものの、公共交通の運営元である市政府交通局ごとによる発行だった。そのため、市内でしか使うことができず、他の都市に行った時は、その都市の交通カードを購入しなければならなかった。

2012年から、交通カードを統一するプロジェクト「全国城市カード互聯互通」プロジェクトが始まったが、標準規格などの策定に手間取り、なかなか統一が実現しなかった。統一がようやく本格化したのは2018年になってからのことだった。

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Apple Payに登録をした深圳市の交通カード。NFCなので、交通カードと同じように、改札にiPhoneをタッチするだけで乗車することができる。

 

チャージ不要、他都市でも使えるQR乗車が普及

この間に、QRコードスマホ決済が普及をし、各市交通局はQRコード乗車への対応を始めてしまった。改札を改造してQRコードスキャナを設置し、アリペイやWeChatペイの乗車コードを読み込ませることで乗車ができるというものだ。

このQRコード乗車は、それまでの交通カードに比べて2つの利点があった。ひとつはチャージの手間が不要になったことだ。交通カードは、駅の窓口やチャージ機でチャージをしておく必要がある。残高が足りない時は改札でエラーが出る。

このエラーは非常に面倒なことになる。なぜなら、地下鉄に乗車するときは、まず手荷物検査を受けなければならない。日本の空港と同じようなX線検査機が置いてあり、それを通さないと改札に行くことができない。ようやく改札にたどり着いて、エラーが出た場合は、そこから引き返して、駅の窓口に行ってチャージをするところからやり直しになるのだ。バスの場合は、現金で払うことになるが、現金ではお釣りを出さないルールになっているので、乗車賃が支払えない場合は、そのバスに乗ることができなくなる。

QRコード乗車であれば、自動的にアリペイやWeChatペイから支払われるので、日々の支払いをするアリペイやWeChatペイの残高がゼロになっているということは滅多にあることではない。ここが歓迎された。

もうひとつは、他の都市でも利用できるということだ。スマホ決済の乗車コードのコーナーでは、全国のほとんどの都市の交通カードがそろっているので、ダウンロードして開通させておくだけで、他都市に行ってもQRコード乗車ができる。しかも、位置情報から適切な交通カードを自動的に選んでくれる。

このようなことから、QRコード乗車を使う人が増えていった。

 

QR乗車の遅さは許容をしている中国人

ただし、QRコード乗車は、日本人の感覚からすると欠点がある。それは、NFCに比べてスキャンに時間がかかるため、改札で一度立ち止まってかざす必要がある点だ。Suicaに慣れた日本人にとっては、ものすごく遅く、不便に感じる。

しかし、面白いのは、多くの中国人はこのQRコード乗車の遅さを不便とはあまり感じていないことだ。乗車するときは、まず荷物検査を受けなければならないので、人が分散し、改札が混雑するということはあまりない(荷物検査のところで渋滞する)。降りるときは改札が渋滞することがあるが、それでもイライラしている人はものすごく少ない。みな、スマホを見たり、友人とお喋りしながら、列が進むのを待っている。あまりにのんびりしすぎて、改札のところまできてから、思い出したようにスマホを取り出して、アプリを起動して、それから乗車コードを表示するという人もしばしば見かけるが、その人に対して文句を言ったり、にらみつけたりするような人は滅多にいない。

この辺は、中国人の国民性だ。よくよく考えれば、改札が渋滞をするといっても、時間にしたらせいぜい数十秒のことで、意味のないことにイライラするのはかえって損だと考えているのかもしれない。

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▲日本のSuicaと同じように、スリープ状態であっても、先端をかざすだけで交通カードで決済される。また、AppleWatchの決済にも対応している。

 

ようやく交通カードが統一。カードの利便性も高くなった

一方で、2018年からようやく始まった交通カードの統一は進み、現在275都市で、同じ交通カードで乗車ができるようになっている。日本のSuicaとほぼ同じ状態になったわけで、これ1枚あれば全国どこでも乗車できる。チャージの手間はあるが、多くの都市でスマホからチャージできる仕組みが整っており、擬似的なオートチャージも設定できるようになっている。カードはカードで便利になっている。

一方、Apple Payの場合、5都市に対応をしていて、この5都市ではApple Payでの乗車ができるが、その他の都市では改札がApple Payに対応していないため、別の決済手段を使わなければならない。

また、交通カードではなく、銀行カードによる乗車に対応している都市もある。天津、武漢、ハルピン、南京、大連などの16都市だ。この都市では、Apple Payによる乗車ができるが、交通カードではなく、銀行カードを表示してタッチをしなければならない。

 

乱立が収束しない公共交通

これは、テクノロジーが急速に発展し、しかも「とにかく先に運用してから考える」中国特有の問題かもしれない。交通カード、QRコードNFCという3つのテクノロジーがそれぞれに利便性を競って進化をしているため、どれも一長一短になってしまい、どれかひとつに収束をしていかないのだ。

消費者向けサービスなどでは、このような競い合うことでの多様性が、新たな利便性を生み、次へ新しい進化を生み出していく原動力になっているが、公共交通の乗車賃の支払いのようなものは、そこそこの利便性が確保されていれば、どのような方式でもかまわない人がほとんどだ。できるだけひとつの方式に揃えてしまった方が、交通局側の業務効率も上がっていくことになる。

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▲プラスティックの交通カードを使う人もまだ多い。多くの都市で、スマホからチャージができる仕組みが提供されていること、さまざまなデザインの記念カードが発売されていることなどが理由だ。チャージの問題さえ解決できれば、実はカードがいちばん利便性が高かったりする。

 

決済ではアリペイ、WeChatペイに収束。乱立は解消

日本でもキャッシュレス決済の比率が上がってきているが、この店ではこの方式が使える、あの店ではこの方式が使えないという煩わしさが、現金回帰への圧力となる可能性もあるどころか、「買い物は面倒」という心理を生み、特定の商店以外では消費を避けるということにもつながって行きかねない。中国では、この対面消費の世界では、「アリペイかWeChatペイ」という収束状態になっていて、消費者が戸惑うことは少ない。

同じキャッシュレス決済と言っても、それぞれの国で、乱立している領域と収束している領域が異なっている。どの領域で乱立による進化を期待するか、どの領域で収束による利便性と効率を期待するか、考えていく必要がある。