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住宅価格が高騰する深圳市と東莞市。マンション投資に振り回されるファーウェイ社員

ファーウェイの本拠地である深圳市、研究施設がある隣接する東莞市は、住宅の価格がいまだに上がり続けている。ファーウェイのある社員は、マンション投資で利益を出そうとマンションを購入したが、政策などに振り回されて、利益を得るのは簡単ではなかったと騰訊網が報じた。

 

深圳市から1時間の距離にあるファーウェイ松山湖基地

木さん(仮名)は、2010年に大学を卒業後、すぐに華為(ホワウェイ、ファーウェイ)に入社し、数年後に数十万元の貯蓄ができたため、東莞市松山湖にマンションを購入した。

ファーウェイは、2014年9月から松山湖基地の建設を始め、深圳からそちらに移転する予定だったからだ。敷地面積は130ヘクタール(東京ドーム約28個分)という広大なもので、建物はすべてヨーロッパのお城風で、敷地内を移動するための高山列車風の電車まで走っている。深圳市からの慰留もあって、本社まるごと移転はしていないものの、研究部門を中心に移転が始まり、最終的には3万人のファーウェイ社員がここに勤務する予定だ。

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▲ファーウェイ松山湖基地内の移動に利用できるシャトル列車。スイスの高山列車風のデザインになっている。

 

投資と住居の両得を狙ってマンションを購入した木さん

そのため、木さんは、松山湖基地近くのマンション「万科金域松湖」の一室を購入した。松山湖のマンション価格が急騰するのを見越して、投資を目的としていた。しかし、木さんにはマンションのローンを払いながら、賃貸住宅の家賃を払うまでの余裕はない。

そこで、松山湖のマンションに住み、勤務地である深圳市坂田に1時間ほどの通勤時間をかけて通おうと考えた。数年後、自分が松山湖基地勤務になれば、歩いて通えるようになるし、深圳市勤務が続くのであれば、値上がりしたマンションを売却すればいいと考えた。どっちに転んでも悪くない。


华为东莞基地曝光

▲ファーウェイの松山湖基地。広大な敷地に、ヨーロッパのお城風の建物が並んでいる。敷地内を移動する路面電車も高山列車風になっている。

 

結局6年後にマンションを売却

松山湖のマンションは2013年8月に購入し、98平米3室2LDK(ゲスト用のLDKがある)で、1平米単価は9800元、価格は約98万元(約1500万円)になった。

勤務地の深圳市坂田までは、バスで1時間ほどかかるが、この万科金域松湖マンションには、ファーウェイの専用通勤バスの路線となっている。専用バスであるためにゆったりと座っていける。1時間ほど、ノートPCを膝に置いて、簡単な仕事をすることができる。

将来、松山湖基地勤務になれば、歩いて通勤することもできるし、自転車通勤もできる。

しかし、木さんは、2019年にこのマンションを売却して、深圳市坂田にマンションを購入することになった。

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▲木さんが購入した松山湖、万科金域松湖マンション。3室2LDKという豪華なもので約1500万円だった。

 

東莞市の規制により価格上昇が鈍る

第1の計算違いは、松山湖のマンション価格が思ったほど上昇しなかったことだ。

東莞市では、ファーウェイの移転に伴い、周辺の住宅価格が暴騰すると見て、2017年4月から住宅販売数の規制を始めた。この影響で、松山湖周辺の住宅市場は停滞し、マンション価格の上昇も抑えられた。

中国人の感覚では、マンションを購入するということは、住みながらも価格が上がり続ける資産を買うことだ。それが価格が上がらないため、長期に持つには適さない資産だと感じられた。

そこで、2019年4月に270万元(約4000万円)で売却をした。6年住んで、約170万元(約2500万円)の利益を得た。木さんにとっては、これ以上価格は上がらないと見ていたので、あきらめのつく利益だった。

 

深圳市のマンションは上がり続けていた

第2の計算違いは、勤務地付近の深圳市坂田付近のマンションは、規制などないために価格が上昇し続けていたことだ。

マンションを購入した2013年当時、坂田のマンションは1平米2万元が標準で、松山湖の2倍の価格だった。木さんが購入したのと同じ広さのマンションを坂田で購入しようとすると、200万元(約3000万円)ほどが必要になる。2019年には600万元(約9000万円)ほどになっていた。

松山湖のマンションを売った資金では、とても坂田のマンションを買うことはできない。買うのであれば、広さや駅からの近さなどを大きく妥協しなければならない。

 

売却後に東莞市の規制が緩和される

第3の計算違いは、マンションを売却した直後、東莞市の規制が緩和され、松山湖のマンション価格が急上昇したことだ。

木さんのマンションは340万元(約5100万円)ほどまで価格が上昇した。あと1年売却を遅らせたら、木さんはより大きな利益を得ることができた。242万元(約3600万円)も利益を出すことができたのだ。

それどころか、勤務地近くの坂田にマンションを購入しておけば、ローンが少し苦しくなるものの、400万元(約6000万円)の利益を出すことができた。しかも、会社の近くなので、歩いて通勤することができるのだ。

木さんは、坂田にマンションを買うのでも条件を大きく妥協しなければならないし、今さら松山湖にマンションを買おうにも資金が足りない。自分の中では、大きな利益を出すはずの計画だったのに、どこにもマンションが買えないという状態になってしまった。

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▲深圳市、東莞市のマンション価格の推移。わずか6年で3倍の価格になる。テック企業が集まる都市でマンション価格が上昇する現象は世界的に起きており、非テック企業の人の住宅環境を圧迫している。

 

ファーウェイは社員に3万室のマンションを提供

さらに、木さんに追い討ちをかけることが2018年に起きている。従業員の住宅問題が切迫していると感じたファーウェイは、松山湖に3万室の社員用マンションの建設を始めた。このマンションは、ファーウェイ社員であれば、5年間賃貸で住むことができる。しかも、内装済み、家具付きだ。

5年間賃貸で済んだ後、依然としてファーウェイ社員であれば、わずか8500元(約13万円)でそのマンションを購入することができ、ファーウェイ社員以外に転売をすることも可能になる。

社員に住宅を提供するだけでなく、一種のボーナスでもある。

 

社員の買い込みに住宅を提供するテック企業

多くのテック企業が、社員の囲い込みに必死になっている。コストをかけて優秀な社員を雇用しても、数年で転職されては割が合わない。そこで、待遇面だけでなく、福利厚生面で長期勤続社員を優遇する策を取っている。

このような社員住宅を低価格で提供し、しかも一定年数勤続すれば、資産として売却などもできるようにするということはファーウェイだけでなく、アリババやテンセントも同様のことを行なっている。

木さんは、自分で利益を出そうと、いろいろ考えて行動した結果、最も利益が小さくなる道を選んでしまった。ではどうしたらいちばんよかったのかと考えると、いまだに正解がわからない。マンションを買わなければ、賃貸の家賃を支払い続け、利益も出なかったのだから、損はしていない。270万元の利益で満足するしかないと自分を納得させている。