中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

配送崩壊を起こしていた生鮮ECと新小売。新規参入も相次ぎ、競争はさらに激化

新型コロナウイルスの感染拡大により、生鮮食料品を宅配してくれる生鮮EC、新小売スーパーの需要が急増をした。しかし、配送スタッフを補うことが難しく、どの生鮮EC、新小売スーパーとも配送遅延が常態化をした。需要が急増したことで、既存スーパーの生鮮ECへの参入も始まり、競争はさらに激化する。鍵は「効率的な配送」だとGPLP犀牛財経が報じた。

 

突発的な需要に対応しきれなかった生鮮EC

新型コロナウイルス感染拡大期の1月から3月まで、生鮮食料品を宅配してくれる生鮮ECや新小売スーパーに突発的な需要が生まれた。どの生鮮EC、新小売スーパーも平年の3倍から7倍の需要が生まれた。

これに対応をすることは簡単ではなかった。16都市に展開する生鮮EC「毎日優鮮」では、通常「最速30分、2時間以内」の配送をしていたが、感染拡大期には4時間以内配送に切り替えざるを得なかった。それでも遅延が生じた。また、8都市で展開する生鮮EC「ディンドン買菜」では、通常「29分以内」の配送をしていたが、感染拡大期には2時間半配送に切り替えたが、やはり遅延が生じた。

f:id:tamakino:20200518142952p:plain

▲中国の感染拡大は、春節休みから本格化をした。外出が制限される中で、生鮮EC、新小売スーパーの需要が急増した。フーマは、毎日5万人規模の新規登録があった。

 

予約制に移行せざるを得なかったフーマフレッシュ

最も対応に支障が出たのは、アリババが220店舗を展開する「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)だった。フーマは、都心部を中心に展開する新小売スーパーであるため、例年、春節休みの期間は需要が下がる。そのため、春節期間はスタッフシフトを通常の7割まで落としていた。そこに感染拡大による急激な需要増が起こったため、混乱が生じた。

全面休業を決めた飲食チェーンから従業員を借りる「シェアリング従業員」などの試みを行なったが、物流、販売、配送のあらゆる面で人手が足りない。結局、一部の店舗では、午前0時から当日分の予約を受けて、当日内に配送する方式に切り替えたが、わずか数分で商品が売り切れてしまうなど、消費者には不満が残る対応になってしまった。

 

帰りは空で走る非効率な生鮮ECの即時配送

このような配送遅延の最大の要因は、配送がまだまだ非効率であることだ。各戸への配送は、一般的に電動バイクで行われ、一度に10件前後の配達を受け持つ。店舗で商品を積み、電動バイクで配送をし、店舗に戻り、再び商品を積み、配送をするということを繰り返すが、店舗への帰りは、電動バイクは空で走ることになる。ここの効率が悪い。

さまざまな飲食店の飲食物を配送する外売(フードデリバリー)では、このような「空で走る」状態はあまり起こらない。Aという飲食店でピックアップ、Bでピックアップ、そしてAを配達し、次はCをピックアップし、Bを配達するというように、ピックアップと配達を繰り返すため、電動バイクが空の状態になることは少ない。このため、配送効率が高い。

f:id:tamakino:20200518142958j:plain

▲飲食物を配送する「外売」は、商品ピックアップと配達を効率的に組み合わせるプラットフォームが完成している。このため、配送員のバイクは空になることがなく、効率的な配送が可能になっている。配送拠点が密に存在するほど、配送は効率的になる。

 

配送拠点を増やすことで配送効率を高めるフーマ

すでに配送効率を高める試みは行われている。フーマは、半径3km以内が1店舗が担当する配送地域だが、この配送地域をモザイク状で並べることで市内全域をカバーしている。A店のスタッフは、A店の配送だけをするのではなく、効率を重視して、B店で商品をピックアップし、A店の配送地域に配送するなどのクロスオーバーを行っている。

しかし、それにも限界がある。解決をするには、配送拠点=倉庫を増やして、ピックアップできる場所を密にしていく必要がある。

そのために、フーマフレッシュよりも機動力のあるミニ店舗「フーマmini」、倉庫だけの施設「フーマ小站」を増やそうとしている。

f:id:tamakino:20200518143001p:plain

▲フーマフレッシュの上海市の配送地域の様子。配送地域をモザイク状に組み合わせることで市内全域をカバーしている。配送スタッフは、隣の配送地域の配達をすることもあり、クロスオーバーすることで、効率的な配送を実現しようとしている。

 

ミニ店舗を大量出店することで全体効率を高める

フーマが3月に発表した「ダブル100計画」は、2020年内にフーマフレッシュを100店舗増やし、同時にminiと小站を合計100カ所増やすという内容の計画だ。また、倉庫のみで消費者が来店をして買い物をすることはできない「フーマ小站」は、将来的には買い物ができる「フーマmini」に転換をしていくという。フーマフレッシュのレギュラー店舗は4000平米以上の広さがある大型店舗だが、フーマminiは300平米から500平米で、レギュラー店舗の1/10の規模になる。生鮮食料品を置いているコンビニ感覚の店舗だ。

フーマの利用者を、都心から郊外にまで広げる拠点とするとともに、商品ピックアップ拠点としても活用し、配送効率を高め、顧客満足度を上げる必要がある。

 

フーマ黒字化を阻む「配送コスト」「商品ロスコスト」

現在、フーマフレッシュは黒字化が達成できていないばかりか、店舗展開などを積極的に行っているため、赤字幅はむしろ膨らんでいるフェーズにある。それは当初から織り込み済みであったものの、黒字化への出口戦略が明確になっていないとも指摘をされている。

ひとつは、無料による30分配送を行っていながら、販売価格は一般スーパーと同じか、むしろ安い。この配送コストをどうやって吸収するかという問題がある。

もうひとつは商品ロス率の問題で、これはフーマだけでなく、どこのスーパー、生鮮ECでも抱えている問題だが、昼と夕方の買い物ピーク時の販売量に合わせて商品を入荷すると、それだけ商品ロスが生まれる確率も高くなる。この商品ロスを減らす工夫も必要になってくる。

 

既存スーパーも新小売に参入。リピーター確保が鍵に

さらに大きな問題が、リピーターの確保問題だ。配送コストの吸収、商品ロスによる損益を吸収をする最も素直な方法は、客単価を上げていくことだ。そのためには、「○○元以上購入すると、××元割引」といったタイプのクーポンを発行して、客単価を高める方向に誘導していく必要がある。しかし、他の生鮮EC、スーパーも同様のクーポンを発行するため、多くの消費者が、最も得になる生鮮EC、スーパーを場合によって使うため、リピーター、固定客の確保が難しい。

このような課題は、フーマだけのものではなく、生鮮EC、新小売スーパー、新小売化を進める既存スーパーのすべてが抱えている問題だが、新小売スーパーというジャンルを制したいフーマにとっては、ライバルに先んじて解決していかなければならない。

すでに既存スーパーの永輝スーパーは、新小売化を進め、ミニ店舗を500店舗出店している。ウォルマート、大潤発などの既存スーパーも新小売化、ミニ店舗展開を始めている。さらに、ECサイト「京東」や「美団」などが生鮮ECに参入をしてきている。

生鮮ECの分野は、フーマが先頭を走る形で競争が進んできたが、新型コロナウイルスの感染拡大により需要が急増をしたため、他の生鮮ECも売上が立つようになり、次への投資が可能になり、さらに既存スーパー、ECなどの他業種からの参入も続いている。「フーマ一強」が崩れかねないフェーズに入ってきた。

フーマの「ダブル100計画」は、そこを意識したものだと見られている。再び、生鮮ECの業界の競争が激化することは間違いない。