中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

始まる学校再開。安全確保の決め手は「マスク顔認証」「遠隔体温測定」

中国では、新型コロナウイルスの感染拡大が終息をし、武漢市を除けば経済活動がほぼ平常通りにまで戻ってきている。しかし、その中で再開が遅れていたのが学校だ。その学校再開が3月下旬から始まり、感染拡大の激しかった湖北省でも5月6日から順次再開される。そこで導入が進められているのが「マスク付き顔認証」と「赤外線体温測定」の機能を備えたAIロボットで、AIロボットメーカーにとっては大きな商機となっていると智東西が報じた。

 

高校3年生から順次学校を再開

中国で学校の再開が始まっている。新型コロナウイルスの感染拡大が比較的少なかった地方では3月下旬から、一定程度の感染拡大が見られた北京、上海、広東などでは4月27日から、感染拡大が厳しかった武漢市を含む湖北省でも5月6日から、学校の授業が再開される。

まずは、高校3年生から授業を再開し、順次、他の学年に広げていく予定だ。高校3年生は、大学受験が控えているため、いち早く授業を再開する必要がある。大学進学のための全国統一試験である「高考」も7月7日、8日に実施されることも発表された。

感染拡大中、オンライン授業が行われていたが、ある生徒はiPadなどで勉強できるが、ある生徒は旧式の小さなスマートフォンでしか勉強できない。経済的に余裕のある家庭では、有料のオンライン講座を受講したり、プライベートのオンライン家庭教師を利用するなど、教育の公平性の問題が指摘されていた。

 

専門家も再開を支持。しかし、じゅうぶんな対策が必要

中国教育部では、専門家会議に、SARS新型コロナウイルスで指導的役割を果たした鐘南山博士などの医療の専門家を招き、意見を聞いた。その会議は、ネットでライブ中継され、鐘南山博士を始めとする医療の専門家は、「学校の再開を積極的に支持する」と発言した。

しかし、学校関係者、父兄の間では、生徒が密集する教室で、再び感染拡大が起こるのではないかという不安がある。鐘南山博士は、学校再開を支持する一方で、「じゅうぶんすぎる対策をとる必要がある」とも述べた。

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▲中国教育部が開催した専門家会議には、感染症対策のリーダー的存在の鐘南山博士を始めとする3人の医療専門家が意見を述べ、学校の再開を積極的に支持をした。

 

AI+ロボット関連の業界には大きな商機

各学校で導入が進んでいるのが、AIロボットだ。マスクをしたままでも顔認証ができる、赤外線により体温測定ができ、発熱者を発見するとアラートを発するというもので、海康威視、宇視科技、大立科技、高新興、紫光華智などのセキュリティテック系のメーカーを始めとして、優必選、雲従科技、澎思科技などのスタートアップが開発をし、納入を始めている。

この教育セキュリティ市場の規模は、2019年には4300億元(約6.5兆円)を突破しているが、新型コロナウイルスの感染拡大により、「部外者を学内に入れない」「発熱している関係者を学内に入れない」というニーズが高まり、大きな商機が得られる熱い市場になっている。

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杭州市の浜江実験小学校では、マスク顔認証と体温測定を同時に行う機器を導入した。タブレットで動作し、ワイヤレス接続されるため、導入コストは(システムを除けば)数万円。設置に必要な作業時間も1時間程度だ。簡単なことで、大きな効果を上げることができる。

 

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▲教師側では、測定中の様子がリアルタイムで画像で監視することができ、自動的にデータが収集される。認証中の生徒に音声で指示を出すこともできる。

 

各地方政府、各学校がAIロボットを続々採用

具体的な対策は、各学校の実情に合わせて行われているが、赤外線による遠隔での体温測定を行い、発熱している関係者を発見することが中心になっている。

杭州市の浜江実験小学校では、顔認証システムが導入されているが、マスクをしたままでも顔認証ができるもので、同時に体温測定も行われる。

昆明市第三中学、昆明滇池中学では「智巡士」と呼ばれるAIロボットが校門付近を巡回している。遠隔で体温測定を行い、万が一発熱している人を発見するとアラートを発する。同時に、社会的距離を取るようにアナウンスを流す。

杭州市恵興中学では、教師が教室に向かう途中に、赤外線体温測定器を設置し、教室に向かう前に必ず体温測定をすることを義務付けた。

江西省南昌青山湖地区では、マスクをつけたまま顔認証を行い、同時に体温測定をするシステムを導入した。認証と測定に必要な時間は0.1秒なので、関係者は指定された場所を歩いて通過するだけで、認証と体温測定が行われる。

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昆明市の中学では「智巡士」と呼ばれる体温測定ロボットが導入されている。赤外線により体温を測定し、発熱をしている人を発見するとアラートを発する。

 

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海南市では、マスクをしたまま顔認証が可能で、同時に体温測定も行うゲートが設置されている。

 

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杭州市の第二中学では、すでに顔認証ゲートを導入済みであったため、顔認証システムをマスクのまま可能になるようにアップデートし、赤外線による体温測定装置を連動させた。

 

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江西省では、マスク顔認証、体温測定が同時に0.1秒で可能な機器を導入した。関係者は立ち止まらずに通過するだけで、顔認証と体温測定ができる。

 

アフターコロナの平常時を見据えた導入

このようなシステムは、新型コロナウイルスの感染拡大期だけでなく、多くの学校がその後の「平常時」にも利用することを想定している。顔認証により、部外者を学内に入れないというセキュリティは以前から求められている。新型コロナウイルスが終息しても、インフルエンザなどの感染拡大による学級閉鎖、学校閉鎖は毎年起こっているため、発熱している生徒をいち早く発見することで、学校の運営と生徒の健康を守ることができるからだ。

 

ICカードベースの既得権益を打破するチャンスになっている

また、この商機は、学校ビジネスの既得権益を打ち破るチャンスでもあるという見方もある。

学校のセキュリティテックは、以前からICカードの導入が進んでいた。学生証をICカード化し、登下校時にタッチをして管理するというものだ。しかし、ICカードはコストがかかる。生徒と関係者全員に、IDの異なるカードを発行する必要があり、それを毎年更新していかなければならない。業者にしてみれば、毎年一定の収入が入ってくる「おいしいビジネス」になっている。

そのため、提供企業は、その地域の有力者と結びつき、ICカードのビジネスに影響を与える新しい仕組みの導入が阻まれるという状況も存在をしていた。

しかし、ICカードは登下校を管理できるだけで、体温まで計ることはできない。しかも、カードを忘れてくる生徒もいれば、他人にカードを貸してしまうこともある。

現在導入されているAIシステムでは、顔がカードになる。体温も測定できる。今後、新たな機能が必要になったら追加をしていくことができる。

新型コロナウイルスの感染拡大は、この既得権益を打ち破るという意味でも商機になっている。

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北京大学では、学内関係者のスマホの位置情報から、学食の混雑度をリアルタイムで集計し、ウェブで公開をしている。学生は混雑している学食を避け、空いているところを利用することで、感染リスクを下げることができる。

 

北京大学では学食の混雑度をリアルタイム表示

北京大学では、スマートフォンの位置情報を利用して、7つある学食の混雑度をリアルタイムで表示する試みを行なっている。感染拡大期になってから開発されたシステムだが、開発そのものは難しくない。一方、これを見て、各学生が混雑する食堂を避け、分散してくれ、感染リスクを下げられるという効果は大きい。

ICカードではこういうことができない。教育機関も、セキュリティテックをアップグレードするいい機会だと捉えている。