中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

健康コードで進む職場復帰。SARSから多くのことを学んだ地方政府とテック企業

中国で感染拡大が止まり、職場復帰が進んでいる。武漢市以外の都市では、95%以上は経済活動が復帰している。迅速な復帰が可能になったのは、感染拡大時にも経済活動の火を絶やさず、健康コードの導入により速やかな職場復帰が可能になったからだ。中国は20年前のSARSから多くのことを学び、それが活かされたと華商韜略が報じた。

 

閉じこもるしかなかった20年前のSARS感染拡大

2003年1月31日、広州市茘湾区の海鮮市場で店舗を経営する男性が高熱が続いたため、中山大学大学付属第二病院に搬送をされた。4日後、救急搬送に携わったスタッフ、放射線科主任などを含む治療にあたった医療関係者、合計30名がSARSに感染していることが判明した。

この当時、濃厚接触者を調査する方法は、患者に行動履歴を聞き取る調査しかなかった。医療機関ですら感染防止に対する意識は低かった。そのため、一人の患者が起点となって、医療機関クラスターが発生するという事例が相次いだ。結局、この一人の患者から130人が感染し、3人が死亡し、中山第二病院は、事実上閉鎖状態となった。

情報を伝達する手段も貧弱だった。テレビのニュースや新聞が主な情報入手手段であり、全体状況は報道されるものの、自分が住んでいる町の状況は、街角にある黒板に掲示される告知と口コミで知るしかなかった。

当時は生鮮ECもなく、外売もなく、人々は外出することを怖がったが、郵便局と生鮮市場、スーパーなどにはいかざるを得ない。人々は恐怖の中で生き延びるしかなかった。

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▲2003年のアリババ。社員からSARS感染者が出たため、社員全員が在宅勤務となった。その最中、アリババはEC「タオバオ」をリリース。アリババの成長が始まっていく。

 

新型コロナでは「経済活動の迅速な復帰」がテーマに

2020年、状況は大きく変わっている。スマートフォンに感染状況がリアルタイムで表示され、地域の状況もわかるようになった。生鮮ECや新小売スーパー、外売(フードデリバリー)、ECなどが普及し、外出をしなくても生活をしている状況になっている。

中国でも感染防止の観点は重要視されているが、テック企業は同時に、「経済活動を止めない」「止めてしまった経済活動はいち早く復活させる」ということを考えていた。

 

マスクの高値販売を排除して、マスク販売を維持

感染防止関連の商品が市中から消えた。マスク、アルコール、手袋、体温計などは各店舗に入荷しても、待ち構えている来店客によって数十秒でなくなる。多くの人が、確実に購入できるECでマスクなどを購入することになった。

EC「淘宝」(タオバオ)でマスクを販売するある業者は、売上が通常の1万8000倍になり、9000万元(約13.8億円)分のマスクを販売した。しかし、出荷能力の限界を超え、発送が遅れに遅れた。ある業者は、昼間に4つのマスク工場の在庫を確保してタオバオでの販売を始めたが、夕方には在庫が底をついたという連絡を受け、注文の一定数をキャンセルせざるを得なかった。また、掲示したマスクとは異なる質の悪いマスクを発送した店舗もある。

タオバオでは1月下旬に「マスクの高額販売禁止」を各業者に通達しており、利用者には万が一高額のマスク、劣悪品などを購入してしまった場合は、タオバオが差額あるいは全額を補償することを通知した。アリババは、消費者からの補償申請に基づいて業者を調査、57万件の取引について問題ありと判定し、その取引を行った15の業者をアカウント凍結、タオバオへの出店を永久に禁止する措置をとり、そのうちの5業者を悪質だと判断して、警察に捜査を依頼した。

このような措置をとったため、2月の頭からは、品薄状態は続いたものの、安心をしてタオバオでマスクが購入できるようになった。

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▲市中の店舗からは、マスクやアルコールなどの感染防止関連の商品がほぼ消えた。入荷をしてもすぐに売り切れてしまう。しかし、ECでは品薄状態ではあるものの購入ができていた。

 

シャッターの裏側で営業活動を維持

感染が拡大する中で、多くの店舗が休業することになり、開店をしていても来店客はほぼゼロという状態が続いた。タオバオは、そのような商店のために、通常の審査手順を簡略化して、わずか5分でタオバオ上に開店ができる措置をとった。2月になると、毎日3万店がタオバオで開店をして、閉店している店内から、店主みずからライブ放送で商品を紹介して販売する活動を行なった。

飲食店の損害は、春節の1週間だけで5000万元(約7.7兆円)以上と推定されている。多くの飲食店が事実上の休業となった。しかし、需要が急増した外売(フードデリバリー)に多くの飲食店が活路を見出し、店舗は閉めてもキッチンは稼働し続けた。ウーラマでは春節期間に新規加盟店が20万店増え、従来対応していなかった飲食店も外売に対応をした。

店舗は閉店していても、シャッターの裏側では経済活動の火を絶やさなかった。

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▲一般の商店は閉店せざるを得なかったが、多くの店舗がタオバオに出店をし、経営者みずから商品を紹介するライブ放送を行った。店舗は閉めても、経済活動は止めなかった。

 

健康コードで速やかに職場復帰

2月11日、浙江省とアリババは共同して「健康コード」を公開した。これは位置情報を基本に、その人の感染リスクを「緑」「黄」「赤」で評価するものだ。市内のクラスター発生箇所や感染者が立ち寄った場所にいたことがあるかどうか、滞在した場合の時間はどれくらいかにより、感染リスクを判定し、赤になると14日間外出が禁止される。地下鉄、オフィスビル、商店、空港など10の公共施設に入ることができなくなる。感染リスクがさほど高くないと判定された場合は黄色になり、7日間の外出禁止となる。外出禁止期間は、毎日体温を測ることが義務付けられる。問題がない場合は緑色になり、外出が可能となる。

感染拡大が収まりの兆しを見せ始めた2月、注目されたのが「職場復帰」だ。多くの職場が、職場復帰の条件として、健康コードが緑色であることを要求したため、多くの人がこの健康コードを利用した。

杭州市では、2月11日だけで1000万人が利用し、3月頭までに200都市以上で、健康コードが利用されている。

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浙江省とアリババが共同開発した健康コード。スマホの位置情報履歴から、クラスター発生箇所に行ったことがあるかどうでリスク度を判定する。黄色、赤では地下鉄に乗ることもできず、自宅隔離状態となる。リスクのない緑色の人から職場復帰が進められた。

 

4年前に行政のオープンデータ化を進めていた

アウトブレイクの最中でも、経済活動を完全には止めることなく、終息が見えてくるともに経済活動を復帰させていくことができた。華商韜略は、このようなことが可能になったのは、2016年に始まった「十三五計画」があったからだと解説している。

十三五計画とは第13次5カ年計画のこと。この中に「デジタル政府」「デジタル中国」という項目が含まれている。

浙江省では、この十三五計画を受けて、68の政府機関のデータをオープン化をした。「クラウド浙江政府」と称して40以上の部門のシステムのクラウド化を進めた。これにより、アリババなどのテック企業が、政府のデータを利用することができるようになり、マスクの高値販売禁止やタオバオでへの迅速な業者登録、健康コードなどの開発が速やかに進んだ。

2003年のSARSアウトブレイクでは、浙江省を始めとする多くの地方政府がパニック状態になった。アリババも社員に感染者が出て、社員全員をテレワークにするという措置をとっている。政府もテック企業も、このSARSから多くのことを学んだ。それが今回の新型コロナウイルスでは活かされている。