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突発的な需要が生まれた新小売スーパーと生鮮EC。越えなければならない5つの課題

新小売スーパーと生鮮ECの需要が急増をしている。すでに過当競争となり、淘汰の時期に入っていたが、この突発需要で、再び新小売の競争が激しくなっている。今起きているのは、既存小売の新小売化だ。しかし、越えなければならない5つの課題があると電商報が報じた。

 

ECは死に、新小売が始まっている

2003年、SARSアウトブレイクが中国に広がったとき、人々は外出することを控えるようになり、そこからアリババの「淘宝」(タオバオ)、京東などのECが生活の中に定着をした。

2020年、新型コロナウイルスアウトブレイクが中国で起き、やはり人々は外出することを控え、野菜、肉、魚などの生鮮食料品を配送してくれる新小売、生鮮ECが、どこも昨年同時期の3倍から7倍の盛況となった。

生鮮食料品をECで扱うという試みは2012年頃から行われている。しかし、さまざまな問題があり、なかなか普及の軌道に乗せることができないでいた。そこに2016年に、アリババのジャック・マーが「ECは死に、新小売が始まっている。その変革は私たちの想像を超えている」と発言し、「新小売」という新しい概念が知られるようになった。

新小売とは店舗での販売も、ECでの販売も行い、消費者はその時の都合に合わせて、利便性の高い購入方式を選ぶことができるというのが基本。平日は、帰りの地下鉄の中でスマートフォンから注文し宅配してもらう、休日は、店舗に行き、自分の目で商品を確かめることができる。

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▲「新小売」はジャック・マーの造語。「ECは死に、新小売がやってきている。その変革は私たちの想像を超えている」。EC業界のリーダーであるジャック・マーのこの発言は衝撃的だった。新小売とは、店頭在庫を「店頭/EC」で購入することができ、「店頭/宅配」で受け取れるスタイル。都合に合わせて、「店頭で買い、宅配してもらう」(重たい水や食用油など)など自由に組み合わせることができる。

 

2018新小売元年、2019淘汰

アリババは、2017年に、新小売スーパー「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)の展開を始め、これに京東、永輝などが続き、特に2018年は、新小売スーパーが出揃う「新小売元年」となった。

しかし、新小売スーパーの運営は簡単ではない。数々の課題があり、それを克服していけないプレイヤーは消えていくことになる。これにより、2019年にはすでに淘汰の時期に入り、新小売スーパーは「フーマフレッシュ」、店舗を持たない生鮮ECでは「毎日優鮮」がトッププレイヤーとなり、それ以外のプレイヤーはどこも苦戦をすることになった。

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▲大手スーパーチェーン「永輝」が始めた新小売スーパー「超級物種」。10都市80店舗の展開だが、フーマフレッシュに押されて苦しんでいた。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大で突発的に需要が増し、成長するチャンスが生まれている。


2020定着のための5つの課題

そこに、新型コロナによる突発的な需要が生まれ、新小売と生鮮ECにとって、大きなチャンスが生まれた。2003年にSARSによってECが定着したように、新型コロナによって新小売、生鮮ECが定着する可能性が高くなってきた。

しかし、新小売、生鮮ECには5つの大きな課題がある。これを克服できるプレイヤーは新型コロナをきっかけに成長軌道に乗せることができるが、克服できないプレイヤーは再び苦戦をすることになる。

 

1)顧客獲得コストが高い

伝統的な小売と異なり、新小売は会員ビジネスだ。会員になってもらい、スマホを使って注文をしてもらう。そのために、まず会員になってもらわなければならない。会員になってもらうには、広告やプロモーションを行い、さらに新規会員への優待クーポンなどを配布する必要があり、1人の新規会員を獲得するのに経費がかかる。

伝統的な小売業でも、新規顧客の獲得のために、広告チラシを配布するなどの、新規顧客獲得コストは必要だが、生鮮小売の場合、顧客は周辺の地域住民だけであるため、新規顧客獲得コストはさほど大きくはならない。

独立系の新小売、生鮮ECの場合、新規顧客獲得コストは1人200元程度になるという。200元をかけて、顧客を獲得したら、200元以上の利益を生む買い物をしてもらわないと意味がない。

ECであれば、新規顧客獲得コストをある程度かけることができる。家電製品や化粧品、衣類といった単価の高い商品が中心になるため、獲得コストの回収までの時間が短い。しかし、新小売、生鮮ECの場合は、野菜や日用品といった単価の低い商品が中心になる。獲得コストを回収するのに時間がかかるため、ただ新規に会員になってもらうだけでなく、継続的に利用してもらう必要がある。

ECよりも利益を出すためのハードルは高い。

 

2)商品の標準化が難しい

新小売スーパー、生鮮ECが扱う商品は生鮮食料品だ。生鮮食料品は、商品の標準化が難しい。産地、鮮度などにより商品価値が大きく変わってしまう。家電製品であれば、型番さえ同じであれば、どこで購入しても基本的には同じものだが、生鮮食料品は店舗によっても、商品によっても異なる。

この難しい標準化をして、それを消費者に伝えない限り、スマホ注文が伸びていかない。フルーツ小売チェーン「百果園」では、糖度、鮮度などさまざまな指標で、果物を分類し、5等級から10等級以上に分類をして販売し、新小売化に成功をしている。一般の生鮮食料品についても、このような標準化が必要になってくる。

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▲新小売化を進めている果物チェーン「百果園」。百果園では、以前から、果物をさまざまな指標で細かく等級に分けるという標準化を行っていた。このため、ライバルよりも早く新小売化を進めることができ、成果を上げている。

 

3)温度管理をした物流網の構築

ECで扱う家電製品や衣類と異なり、生鮮食料品には消費期限がある。しかも、温度管理をしながら運搬しなければならない。この温度管理物流にはコストもかかり、構築には時間がかかる。フーマフレッシュは「店倉合一」、毎日優鮮は「前置倉」という形式を採用しているのは、この最適な温度管理物流を構築するためだ。この物流を最初に確立しておく必要がある。

 

4)短時間配送をしなければならない

多くの新小売スーパー、生鮮ECが地域内に1時間以内の配送をしている。ECのような翌日配送ではうまくいかない。明日の献立を今日決める人は少ない。しかも、生鮮食料品は宅配ボックスに入れるわけにはいかず、再配達にも工夫が必要になる。そのため、最適解は、「注文してから待っていられる時間」である30分から1時間で配送することが必要になる。しかも、昼時と夕飯前に注文が集中する。

この短時間配送の体制をいかに構築しておくかが大きな課題となる。

 

5)ユーザーのミスマッチ

スマホで注文するECを好むのは、40歳以下。しかし、この世代は、基本的にスーパーに寄って食材を買って自宅で料理をするという習慣が薄く、外食をしてしまう。同じスマホ注文を利用する場合でも、新小売や生鮮ECではなく、外売(フードデリバリー)を使ってしまう。

このような世代に、いかに利用してもらうか。そして、40歳以上の世代にいかに新小売、生鮮ECを利用してもらうかが大きな課題になる。

フーマフレッシュは、店舗でも購入できるため、40歳以上の利用も多く、また若い世代でも子どものいるファミリー層に狙いを定めている。一方で、生鮮ECの毎日優鮮は、加工食品などすぐに食べられる食材を多く扱い、単身者に浸透しようとしている。このような、どのユーザー層を狙っていくかという戦略が必要になる。

 

既存小売の新小売化が目立ち始めている

新小売スーパーでは「フーマフレッシュ」、店舗をもたない生鮮ECでは「毎日優鮮」がトップランナーとなっているが、既存の小売チェーンが新小売化に乗り出す例が相次いでいる。果物チェーンの「百果園」、豚肉小売チェーンの「銭大媽」、百貨店「銀泰百貨」などの新小売化が話題になっている。

ミニプログラムの登場で、宅配ECの構築のハードルが大きく下がり、小さな地域チェーンでも新小売化に乗り出す小売業も目立ち始めている。ジャック・マーの予言「ECは死に、新小売が始まる」が現実になろうとしている。