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Tik Tok。バイトダンスの圧倒的な広告収入を上げる仕組み

Tik Tokなどを開発したバイトダンスが、広告収入で1200億元を達成した。ネット広告市場シェアでも、百度を抜き、アリババに次ぐ第2位に躍り出ている。その理由は「Tik Tokが若い女の子に人気」などということだけでなく、従来とは次元の異なる配信最適化テクノロジーを開発し、動画配信サイトの10倍近い効率で、広告収入を稼ぎ出すことができるようになったからだと未来智庫が報じた。

 

中核テクノロジーをテキスト、ムービーに展開するバイトダンス

2012年に、最初のプロダクト「今日頭条」をリリースして以来、バイトダンスは次々とアプリ製品をリリースし続けてきた。「火山小視頻」「抖音(Tik Tok)」「西瓜視頻」、そのどれもが成功をしている。

この一連のプロダクトは、ニュースキュレーション、ショートムービー、動画共有、ライブ放送と異なっているが、実は、同じテクノロジーを組み合わせて、異なる種類のコンテンツに適用させているだけと言うこともできる。

バイトダンスは、主に3つの開発チームから構成されている。「リコメンドアルゴリズム」「UI/UX」「ABテストなどによる改善システム」の3つだ。

さらに2016年には、マイクロソフトアジア研究所の常務副院長だった馬維英を招いて人工知能ラボを設立。自然言語処理、計算機視覚、機械学習などの研究開発を行い、このラボのエンジニアは150名に達している。

このようなバイトダンスの中核テクノロジーを使って、テキスト情報を扱ったものが「今日頭条」であり、ショートムービーを扱ったものが「Tik Tok」ということになる。このような開発の仕組みから、バイトダンスは俗に「アプリ製造工場」とも呼ばれている。

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▲バイトダンスの広告収入の伸び。2016年は、シェア3%で、統計上「その他」に分類されていた。2019年は1200億元に達し、ネット広告市場でのシェアはアリババに次ぐ第2位に躍進している。

 

広告収入は1.8兆円。3年で20倍に

バイトダンスは中国のネット広告産業の中では、すでに「ジャイアント」と呼ぶのにふさわしい地位を獲得している。特に2016年の人工知能ラボ設立以降の躍進がめざましい。広告収入は2016年の60億元から、1200億元(約1.8兆円)へと20倍に膨れ上がった。2016年、中国ネット広告市場に占めるシェアはわずか3%で、統計でもようやく「その他」から脱して、バイトダンスの名前が見えるようになった程度だったが、現在では、テンセントや百度を抜き、首位のアリババに迫る勢いを見せるようになっている。

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▲2019年のネット広告市場でのシェア。バイトダンスは百度やテンセントをごぼう抜きにし、アリババに迫る勢いになっている。

 

ネット民の時間の12.5%はバイトダンスのプロダクトに使われる

この勢いを支えているのが、バイトダンスのプロダクトが消費者から圧倒的に支持されていることだ。Tik Tokは、中国国内の月間アクティブユーザー数(MAU)は、2019年第2四半期には4.8億人になっている。今日頭条は2.6億人、西瓜視頻は1.3億人、火山小視頻が1.0億人となっている。

人数だけではない。驚くべきはその占有時間だ。Tik Tokの場合、ユーザー一人平均毎日62分を使っている。動画であることが利用時間を伸ばすことにつながっている。しかも、バイトダンスのプロダクトはMAUが大きいために、全ネットユーザーの利用時間のうち、2019年9月の統計では12.5%を占有している。つまり、中国人はスマホを使ってネットを利用している時間の1割以上の時間をバイトダンスのプロダクトを使うことに費やしていることになるのだ。

 

限界がきているアルゴリズム方式のリコメンド

なぜ、ここまで中国人はTik Tokなどのバイトダンスプロダクトに夢中になり、12.5%もの時間を費やすのか。その秘密はリコメンドシステムにある。自分が読みたいニュース、自分が見たいムービーが次から次へと表示されるので、面白くなって、ついつい見てしまうのだ。

一般的なリコメンドシステムは、複数の項目を並列で並べて、利用者に選ばせるというものだ。この選択肢は、利用者の利用傾向から類似した利用者グループを想定し、その中でよく利用されている項目を推薦の選択肢として提示するというもの。アマゾンの「閲覧履歴に基づくおすすめ商品」のリコメンドや、YouTubeのリコメンドなどだ。

しかし、問題はどうしても精度に限界があることだ。アマゾンの場合、買う気はないけど商品情報だけ見たという商品まで参考にされてしまい、消費者の意図とはずれたリコメンドがされてしまうこともある。YouTubeなどでも、1人の人間が見たい動画のジャンルというのは複数あるのに、それがすべて一緒にリコメンド計算に使われてしまうため、適切なリコメンドになっていないことが多い。

 

理想通りにはいかないソーシャルグラフによるリコメンド

SNSを使ったリコメンドアルゴリズムでも似たようなことが起こる。SNSで構築されたソーシャルグラフは、同じ傾向の人が集まっているのだから、そこに適したコンテンツや広告を配信すれば、それはソーシャルグラフを伝わって拡散をし、興味のある人に適切な広告が配信され、高いコンバージョンを示すはずだった。

しかし、実際にはそうはならない。なぜなら、ソーシャルグラフは、利用者が「誰かをフォローする」という操作を行い、人手で構築しているからだ。

この時、利用者が理想的で合理的に思考して、自分と相手のコンテンツ消費傾向を分析し、類似度が高い場合のみフォローするという行動をすれば、理想的なソーシャルグラフができあがるが、実際にはそのような行動はしない。会社の上司だから、近所の人だから、有名人だからというありふれた理由でソーシャルグラフを構築してしまう。

そのため、SNSのタイムラインに流れる情報の大半は、その人にとってノイズとなり、多くの人がタイムラインに表示される情報の半数以上は見もしないで捨てている。

 

コンテンツごとにリコメンド計算を行うTik Tok

バイトダンスは、このノイズの多いソーシャルグラフを使わずに、コンテンツごとに最適な配信がされるリコメンドシステムを構築している。例えば、ある人が、Tik Tokでムービーを公開した。これは、ほぼランダムに少数の人に強制的にリコメンドされる。その小さなランダム集団の中で、どういう反応があるかを測定する。ある人はその動画を最後まで見るだろうし、ある人は途中で次の動画に移ってしまうだろう。

このリアクションにより、この動画はどのような属性の人に好まれるかを学習し、次はそのような属性を持ったより大きな集団にリコメンドしてみる。これを繰り返していって、動画を拡散させていく。つまり、コンテンツごとに毎回新しいソーシャルグラフを作っているような感覚だ。

 

拡散が効率的で、高速に拡散するTik Tok

これにより、拡散の速度が圧倒的に上がった。固定されたソーシャルグラフを利用するSNSでは、今日アカウントを取得したばかりの人が、大量のフォロワーを獲得するということはまれだ。多くの場合、コンテンツの内容よりは、結局はフォロワー数の多い影響力を持ったインフルエンサーが取り上げるかどうかで、拡散の速度と量が決まってしまう。

そこに広告というビジネスが絡むと、インフルエンサーは消費傾向や属性を無視して、企業からの報酬で情報を発信するようになるし、その報酬を得ようとしてフォロワーを購入して、影響力が大きいかのように見せかけようとする人が出てくる。こうして、ソーシャルグラフのノイズは時間とともに増えていくことになる。

しかし、バイトダンスのプロダクトの場合、コンテンツの内容とそのリアクションの分析のみによって拡散をしていくので、内容さえ面白ければ、昨日動画をあげたばかりの女子高生が、明日にはスターになっているという爆発力が生まれる。

利用者にとっても、ノイズの少ないリコメンドがなされるので、ついつい時間を費やしてしまうということになる。

 

単位時間に動画共有サイトの9.46倍の広告収入を稼ぐTik Tok

バイトダンスのプロダクトが強いのは、これだけではない。広告メディアとして圧倒的に強いのだ。

バイトダンスの抖音(Tik Tok)とSNS「ウェイボー」、動画共有サイト「ビリビリ」の広告収入を比較してみる。Tik Tokは500億元、ウェイボーは107億元、ビリビリは8億元と大きな差がついている。しかし、ユーザーの1日の平均使用時間はそれぞれ60分以上と大きな違いはない。ただし、DAUには大きな差がある。

そこで、広告収入の効率を見るため、広告収入を(DAU×平均使用時間)で割った数値を計算してみる。つまり、ユーザー1分あたりの使用で、どのくらいの広告収入を上げているかを計算する(収入は年、DAU、使用時間は日なので、ビリビリを1とした相対値に変換している)。

ビリビリを1とすると、ウェイボーは単位時間で3.05倍、Tik Tokは9.46倍もの広告収入を上げていることがわかる。Tik TokはDAUが大きいだけでなく、単位時間で稼げる広告収入が圧倒的に高いのだ。

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▲Tik TokとSNS「ウェイボー」、動画共有「ビリビリ」の広告収入効率を比較したもの。1人のユーザーの単位時間あたりの広告収入では、Tik Tokはビリビリの9.46倍の広告収入を稼ぎ出す。配信最適化の精度が上がり、コンバージョンが高くなっているからだ。

 

コンバージョンも高いTik Tok

さらに、国盛証券の推定によると、広告配信率はTik Tokの場合、5%から10%とやや高めだが、ウェイボー、ビリビリも5%程度であり、突出して高いというわけではない。

しかし、eCPM(1000インプレッションあたりの広告収入)は、Tik Tokは、ウェイボーの5倍以上、ビリビリの10倍以上ある。

なぜ、eCPMが高いのか。理由は単純だ。Tik Tokは広告クリック率が高く、コンバージョン率が高い。広告クリック率は3-4%、コンバージョン率はそのうちの4-5%と推定されている。

つまり、広告を見た人の多くが、反応をして商品の購入などをしていることになる。広告が必要としている人に効率よく配信されているからだ。

 

コンテンツと広告コンテンツを区別しない

Tik Tokの広告にもさまざま形式があるが、主流になっているのはインフィード広告だ。これは一般の投稿ムービーと同じように、広告主が15秒程度の動画を作成して、配信するというものだ。ユーザーからは、一般の投稿ムービーとほぼ同じ感覚で見ることができる。タップをすると、広告ページや外部サイトなどへの誘導画面が現れる。

形式がコンテンツと同じであるばかりでなく、配信先を決める方法もコンテンツと原則的に同じだ。まず小規模のランダム配信をして、どのようなユーザーが反応するのかを学習して、拡散をさせていく。

つまり、コンテンツと広告を原則として区別をしない。もちろん、広告主が、ターゲットにしたい消費者が歓迎しそうな内容にする工夫をする必要はあるが、投稿コンテンツと同じように、その広告コンテンツを求めている人に配信をしていくことができる。これにより、コンバージョンもあがっていく。

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▲Tik Tokの広告例。見た目は一般的な投稿動画と変わらない。しかし、スワイプやタップなどリアクションをすると、広告画面に移動する。広告コンテンツも一般のコンテンツと同じように、興味のある視聴者に最適配信されるため、コンバージョンも自然に高くなる。

 

配信の最適化がバイトダンスの中核テクノロジー

つまり、バイトダンスのプロダクトの広告収入が大きいのは、コンテンツと広告を同列に扱い、いかにその「コンテンツ/広告」を求めているユーザーに的確に配信するかという技術開発に集中をしていることによる。

現在、社員数は約4万名だが、そのうちの半分の2万名が何らかの形で、この配信最適化に関わっているエンジニアたちだ。ウェイボー、ビリビリはいずれも4000名規模の企業だが、ウェイボーで配信最適化に関わっているのは1000名程度で、全体の1/4、ビリビリでは200名で、全体の1/20でしかない。

コンテンツと広告を同列に扱い、配信最適化に注力をすることで、ユーザーにとっては「見たいコンテンツが次から次へと出てくる」ユーザー体験となり、広告主にとっては「高いコンバージョンが得られる」ことになる。

 

配信最適化技術をテキスト、ムービーと展開していく

しかも、サービスごとに開発をするのではなく、配信最適化、人工知能、UI/UXなどの中核技術は共通して開発をし、それをニュース、ショートムービー、動画などのコンテンツと組み合わせることで、異なるアプリを生み出している。

従来の「ユーザー数が多ければ広告収入も増える」「SNSソーシャルグラフを使って効率的に広告を配信する」という手法から脱して、「機械学習により配信を最適化する」という新しい発想を生み出し、手法として確立したのがバイトダンスだ。「若者に大人気」というだけでなく、広告メディアとしても従来とは次元の異なる効率を実現している。

BAT(百度、アリババ、テンセント)のうち、広告収入においては百度を抜き、すでにBは百度バイドゥ)ではなく、バイトダンスのBになりつつある。2016年から急成長をしただけでなく、今後もバイトダンスの勢いは止まらないと見られている。