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すべての小売業は新小売になる。ジャック・マーの予言が、現実になり始めている。地域スーパーも新小売化

2016年にジャック・マーは「ECの時代は終わり、すべての小売業は新小売になっていく」と発言した。当時、その言葉を信じる人は少数派だった。多くの人が、少数の伝統小売が生き残り、ECが中心になり、そこに新小売が加わる程度と考えていた。しかし、昨年から既存小売チェーンが新小売化を進める事例が相次ぎ、地域スーパーまで新小売化を進める状況になっている。「すべては新小売になる」が現実になろうとしていると新小売OMOプラットフォームが報じた。

 

新小売という考え方を広めた新小売スーパー「盒馬鮮生」

新小売とは、オンライン購入体験とオフライン購入体験を融合する小売形式。OMO(Online Merge Offline)とも呼ばれこともある。アリババは新小売スーパー「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)を全国に230店舗展開し、単位面積当たりの売上は既存同規模スーパーの4倍と驚異的な売上を上げている。

230店舗展開というのは、大手スーパーと比べると1桁少ない数字になる。大手スーパー「華潤」は3200店舗、「永輝スーパー」は1300店舗を展開している。それでも、フーマフレッシュは、中国チェーンストア経営協会が発表するスーパーの売上ランキングですでに2018年に18位にランキングされている(2019年ランキングは未発表)。

 

「すべての小売りが新小売になる」ジャック・マーの予言

この新小売という考え方は、2016年にアリババが杭州市雲栖で開催したコンベンションで、アリババの創業者ジャック・マーが始めて言及した。

「インターネット時代になり、伝統的な小売業はECに圧迫されています。未来では、オフライン小売とオンライン小売は深く結合し、さらに物流、マーケティングビッグデータクラウドなどの新しいテクノロジーを利用するようになり、新しい「新小売」という概念を構築していくことになります。ECの時代は終わり、伝統的な小売は改革され、すべての小売業は新小売にアップグレードされることになるでしょう」。

この当時、多くのビジネス系メディアが「新小売ってなんだ?」という記事を多数掲載した。2017年7月に、アリババが「フーマフレッシュ」の展開を始めると、多くのメディアが「これが新小売か」と注目をした。そして、フーマフレッシュは結果を出し続けながら成長をしている。

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▲銀泰百貨店でも新小売化をしたため、店舗では商品の購入相談をする顧客の割合が増えた。スタッフは、顧客のデータと専門知識で商品を紹介していく。消耗品買いの顧客がECに流れ、店頭から減ったため、スタッフは「売り子」から「コンシェルジュ」の業務に割ける時間が増えた。これによりユーザー体験が向上し、銀泰百貨店は売上を伸ばしている。

 

「すべての小売りが新小売になる」現象が始まっている

しかし、多くのメディアが、ジャック・マーの「すべての小売業は新小売になっていく」という発言には疑問を呈していた。伝統的小売りが先細りになり、ECが中心になり、そこに新小売が加わる。ECと新小売が並存するというのが普通の人が描く未来像だ。

しかし、ジャック・マーは、ECすら衰退し、すべてが新小売になっていくと予言した。にわかに信じられない話だ。

しかし、2019年後半から、伝統的小売が新小売化するということが起き始め、今度はじわじわとECを圧迫する現象が起き始めている。ジャック・マーの予言通りのことが起き始めているのだ。

 

すでに成果を上げている銀泰百貨と百果園

アリババと提携をしている銀泰百貨店が新小売化を進めている。特に化粧品が好評で、オフィスワーカーが消耗した化粧品を購入するのに、オフィスへの配送を利用している。店舗では、消耗品購入の客が減り、スタッフは化粧品のアドバイスという本来やるべき仕事に集中ができるようになっている。

また、全国で4000店舗を展開する果物チェーン「百果園」も新小売化を進め、さらに独自にソーシャルECの要素も盛り込み、新規顧客の掘り起こしに成功している。

消費者から見れば、宅配と店舗を自分の都合によって好きな買い方ができる。店舗側から見れば、決まった商品を購入する人を宅配に流すことにより、店舗では購入アドバイス、提案といった体験を重視した接客が可能になる。

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▲果物小売チェーン「百果園」では、WeChatミニプログラムを使って新小売化をしている。スマホ注文ができる他、共同購入をするソーシャルECを始めて、地域の新規顧客を掘り起こしている。

 

店舗でもスマホでも顧客とつながれる新小売

新小売は、店舗とECの並列ではない。宅配ECは、地域店舗の在庫から地域配送をする。店舗売上と宅配EC売上のすべてが店舗に集約されるため、店舗は対面とスマホで地域の顧客とつながることができる。店長は、地域の需要を正確に知ることができ、適切な施策を打つことができるようになる。消耗品の補充買いは宅配ECに流し、接客が必要な購入は店頭で受けることができる。店舗スタッフが「売り子」から「コンシェルジュ」にアップグレードできる。

大手チェーンが店舗展開をして、中央倉庫を基本にしたECを並列させた場合、EC注文は本部が一括して扱うことになり、地域店舗は対面でしか地域の顧客とつながることができなくなる。店舗の機能を低下させてしまうことにつながりかねないのだ。

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▲地域スーパーながら、スマホ注文は29分配送を行う。制服もなくカジュアルな格好での配送は、地域スーパーならではの気軽さ。


地域チェーンに向いている新小売

そのため、新小売は、地域性の強いスーパー、日用品などの小売業に適している。しかし、地域性の強い小売業というのは、資本力が乏しいために、新小売化をするといっても簡単ではない。この問題を解決したのが新小売プラットフォーム「全球蛙」の事例だ。

山西省の地域スーパー「美特好」(Meet All)は、太原市を中心に50店舗ほどを展開している。地元では有名なスーパーだが、全国展開をするまでのポテンシャルはない。

それが同じ、山西省の投資企業「大昌」、不動産業「陽光地産」と共同して「全球蛙」を設立し、美特好の新小売システムの開発、運営を行っている。つまり、単独では新小売化は難しいので、地域連合で新小売化をしていこうというのだ。

地域のスーパーを新小売化するということは、その地域の生活の利便性があがる。利便性が高い地域の不動産は人気が出て価格が上昇する。高級住宅地になれば、その他の生活サービスも需要が増える。地域の利便性を上げることが、その地域企業の利益になるという考え方だ。

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▲地域スーパー「美特好」のスタッフたち。スマホタブレットを見る時間が増えた。新小売化をしたため、物流や在庫などがすべてデータ管理をされるようになったためだ。

 

地域連合で構築した新小売プラットフォーム「全球蛙」

全球蛙の機能は、フーマフレッシュとほぼ同じだ。スマホから注文した商品は、店舗に属する配送スタッフが29分宅配をする。店舗では、「QRコード購入」に対応をしている。商品を手に取って買うのであれば、自分でスマホで商品のQRコードを読みこむ。最後にスタッフにチェックをしてもらい、間違いがないことが確認されると、WeChatペイで自動的に決済される。

消費者はレジに並ばなくていいというメリットがあり、美特好は購入行動のデータが取得できる。

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▲地域スーパー「美特好」が地域の企業と共同して開発した新小売プラットフォーム「全球蛙」。今後、このような地域連合の新小売化が増えていくと思われる。

 

地域チェーンの新小売化が始まっている

テクノロジー的には取り立て特筆するようなことはないが、地域スーパーが地域連合を作り、新小売化を進めたという点が大きい。新小売は、消費者のユーザー体験を一変することは明らかだが、それには売り場だけでなく、決済や仕入れ、物流といった小売業のすべてをアップグレードする必要がある。新興企業や大手ならともかく、地域の中小規模のチェーンストアには簡単ではないと見られていた。

しかし、全球蛙のような地域連合による新小売化の事例が登場してきている。この流れは、今後、加速をしていきそうだ。

地域の中小規模の小売業まで、新小売化が始まっている。ジャック・マーの「すべての小売業は新小売になっていく」は、決してホラ話ではなく、実現が始まっている。