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新型コロナで生まれたシェアリング従業員。中国式ワークシェアの始まりとなるか

新型コロナウイルスの影響で、都市部の飲食店は営業を停止するところが多かった。しかし、従業員の給料は支払う必要があるため、倒産をしてしまいかねない。そこで、需要が急増している新小売スーパーや生鮮ECが、飲食店の従業員を借りるシェアリング従業員が進んだ。飲食店は給与の支払いから逃れるため、倒産を回避することができ、需要が急増する新小売スーパーでは足りない人手を補えるという仕組みだと第一財経が報じた。

 

倒産の危機に直面している飲食チェーン

新型コロナウイルスアウトブレイクにより、多くの業種が打撃を受けている。特に、飲食業は売上がゼロに近くなっている店舗も少なくない。飲食チェーンなどでは、従業員の健康を守るためにも、全面休業を決めたところが続出した。外売(フードデリバリー)は、需要が急増しているが、店舗に軸足を置いている飲食チェーンは、一気に深刻な経営危機に陥っている。

売上はゼロに等しくなる。従業員は自宅待機をさせているが、基本給は支払わなければならない。それが経営危機の原因だ。

 

需要が急増した新小売スーパー、生鮮EC

一方で、急激な需要増で、人手が足りなくて困っている業種がある。新小売スーパーや生鮮ECなどだ。多くの人が外出を控えるため、野菜や肉、魚といった生鮮食料品を短時間で宅配してくれる新小売スーパー、生鮮ECに注文が殺到している。どこも前年同時期の3倍から7倍程度の需要となっている。

そこで、生まれたアイディアが「シェアリング従業員」だ。休業している飲食店などの従業員を、新小売スーパーが借りて、働いてもらう。その間の給料は新小売スーパーが支払うため、飲食店の経営危機問題は回避できる。

そして、状況が落ち着いて、飲食店が再開をするときには、従業員を返すというものだ。その頃には、新小売スーパー側も需要が落ち着き、正規の増員で間に合うようになっている。

シェアリングされる従業員にとっては、不安な中で自宅待機を強いられ、基本給しかもらえず、リストラされるか倒産するかを待つよりも、別企業であっても、似た業種で仕事をして、フルの給料をもらい、所属する企業の倒産も回避され、戻る場所も確保されるという安心感を得ることができる。

このシェアリング従業員が各企業に広がり始めている。

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▲フーマフレッシュ北京紅蓮店に出勤した、飲食チェーン「雲海肴」の従業員たち。フーマでは人手不足を解消し、雲海肴では給与負担がなくなるため倒産を回避することができる。

 

フーマを皮切りに、多くの企業が続々と採用

このシェアリング従業員が始まったのは、アリババの新小売スーパー「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)からだ。フーマフレッシュは都市型スーパーなので、春節期間は需要が小さくなる。そのため、春節期間はスタッフの出勤シフトを通常の7割まで落としていた。

ところが春節休みに入る直前、「武漢で原因不明の肺炎が流行をしている」という報道が流れて以来、需要が急増した。フーマ内部では、1月下旬からこの問題を議論し、シェアリング従業員というアイディアが生まれてきた。

北京のフーマフレッシュ紅蓮店が、休業を決めている飲食チェーン「雲海肴」に打診をしてみると、雲海肴はすぐに応じてきた。2月3日には、雲海肴の従業員の中の希望者が、フーマフレッシュに出勤をし、研修を受け、フーマフレッシュの仕事についた。

この仕組みはすぐに評判となり、2月6日には21の飲食チェーンの従業員1200人が参加をすることになった。

 

京東やレノボもシェアリング従業員制度を採用

2月7日になると、新小売スーパー「京東7フレッシュ」も続いた。さらに蘇寧、毎日優鮮など、新小売スーパーや生鮮ECなどが続々と、休業をしている企業と提携して、シェアリング従業員制度を始めた。

また、2月8日には、電子デバイス製造のレノボも、武漢合肥、深圳、成都などの工場で、シェアリング従業員制度を始めた。ただし、レノボの場合は、需要が急増したというわけではなく、地域の企業の倒産を回避するという地域貢献の意味合いが強かったようだ。

レノボのある関係者が第一財経の取材に応えた。「中小企業の工場は、規模が小さいため、可能な感染防止策にも限界があります。それでも、製造を続けなければすぐに倒産してしまいます。レノボでは、地域の中小企業を守り、そこで働く従業員の健康を守るために、この施策を実行しました」。

 

あくまでも臨時措置。元企業が再開したら従業員は戻す

各企業は、これはあくまでも臨時的な措置だということを強調している。仕組みとしては単純だが、給与水準、待遇水準など、考えなければならないことが多く存在するからだ。多くの新小売スーパーでは、所属企業の給与体系ではなく、あくまでも臨時雇用という形で自社の給与体系、待遇を適用している。さらに、無料で「感染保険」に加入するなどの措置をとっている。また、期間も最大3ヶ月、所属企業の求めがあり次第、従業員を元に戻すという契約になっている。

 

メディアは絶賛。新しいワークシェアリングとして注目される

このシェアリング従業員制度は、各メディアから好意的に受け止められている。中には、この国難の時期にあって、多くの中小企業を倒産の危機から救う「天才的なアイディア」とまで絶賛しているメディアもある。

さらに、この新型コロナの問題が終息してからも、このシェアリング従業員の制度に期待をする声がある。季節性の強いビジネスや、平日と休日での需要差が大きなビジネスがあり、そのような業界では、需要が対照的な企業と提携をして、従業員をシェアリングできないかという議論が始まっている。すでに、そこを見越して、シェアリング従業員のマッチングを行うプラットフォームサービスも登場している。

ただし、課題は多い。シェアリングされた従業員がシェアリング先の企業に転職をした場合などは問題が生じるし、給与や待遇の水準差についてもある程度そろえていく必要がある。

シェアリング従業員という仕組みが、特殊な時期の臨時的な施策に終わるのか、それとも定着をして、労働力の流動性を高める仕組みになっていくのか、現在のところまだわからない。しかし、中国式ワークシェアリングとして定着するのではないかと期待をしている人が多いようだ。