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京東新小売スーパー「七鮮」が新業態を展開。新小売コンビニを目指す

オンライン、オフラインの購入体験を融合した新小売スーパー。この分野では、アリババのフーマフレッシュが圧倒的な強さを見せているが、ライバルたちも追従している。その中で、京東は「七鮮」を、地域住民、オフィスワーカーに的を絞った2業態を新たに展開した。スーパーというよりは、コンビニに近い業態で、今後、コンビニ領域の競争が激化することが予想されると零售老板参考が報じた。

 

独走するフーマの追走を始めた京東のセブンフレッシュ

オフライン購入体験とオンライン購入体験を融合する「新小売スーパー」。消費者はTPOに合わせて、「店頭購入/スマホEC購入」「持ち帰り/宅配」を自由に組み合わせて利用することができる。

1)スマホ注文、宅配

2)店頭で購入、持ち帰り

という従来の購入体験だけでなく、

3)店頭で購入、宅配(重い荷物を持って帰らなくていい)

4)スマホ注文、持ち帰り(レジに並ばなくていい)

などの購入方法が可能になる。

この新小売スーパーでは、アリババの「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)が圧倒的に強いが、アリババと同じくECサービスの京東(ジンドン)が「七鮮」(セブンフレッシュ)、蘇寧易購が「スーフレッシュ」を展開。また、チェーンスーパーの永輝(ヨンホイ)が「超級物種」を展開して、フーマと競っていた。

しかし、フーマを追いかける3社の成績は芳しくなく、フーマの一人勝ちと見られていた。

しかし、京東は「七鮮生活」(セブンフレッシュライフ)、「七范児」(セブンファン)の2業態を新たに展開、さらに2025年には、雑貨のMUJIとコラボした業態の展開も計画している。

このままフーマの独走は許さないという京東の挑戦が始まっている。

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▲京東の新しい業態「セブンフレッシュライフ」。面積は標準的な地域スーパーと同じで、宅配もする。スーパーというより、大型コンビニ感覚だ。

 

新小売スーパーのキモは宅配EC比率

フーマが頭抜けているのは、宅配EC率の高さだ。多くの店舗で60%以上を達成していて、70%を目標に掲げている。宅配率が高ければ、単位面積あたりの売上はいくらでも上げていくことができ、すでに同規模スーパーの4倍近くになっている。2018年には、スーパー、コンビニチェーンストア売上ランキングで、店舗数が200店舗規模と少ないのに、18位まで上がってきている。

フーマは現在26都市200店舗+を展開し、売上高は200億元(約3000億円)を超えている。これは中国ウォルマートの1/4、ドラッグストアのワトソンズとほぼ同じだ。

追従する「セブンフレッシュ」「スーフレッシュ」「超級物種」が苦戦をしているのは、宅配EC比率をあげられないことだ。宅配ECを伸ばすには、配送スタッフを抱えなければならない。しかし、配送スタッフは固定費となり、外部委託をすればコストがかかる。配送部門に思い切った投資ができないため、積極的に宅配EC率を伸ばしていくことができない。「宅配もやっているスーパー」になってしまい、既存のスーパーと明確な違いが打ち出せていない。各チェーンは宅配EC率を公表していないが、各メディアによると20%から30%の間であるようだ。

 

規模の小ささが遅れをとっている要因

もうひとつ、フーマの強味が、その規模だ。SKU(商品種別)は6000程度と一般の地域スーパー並みだが、店舗面積は1万平米が標準になっている。フードコートが用意され、販売されている食品を使った料理が安価で提供されている。

一方、他社の新小売スーパーは、5000平米以下が多く、SKUは3000程度。つまり、新小売スーパーというより、新小売コンビニに近い感覚なのだ。

これが利用者の使いづらさを生んでいる。例えば、夕飯の食材を買いに出かけても、必要なものすべては揃わない。そのため、結局、普通のスーパーにもいかなければならなくなる。だったら、最初からウォルマートカルフール、永輝といった既存スーパーに行った方がいいと誰しもが考える。

フーマとその他の新小売スーパーの違いは、一言で言えば、投資の本気度の違いだ。

 

地域住民をターゲットにした北京店「ライフ」

セブンフレッシュは、このような問題を解決するために、立地に合わせて「ライフ」と「ファン」の2業態へ分割する試みを始めた。ライフは住宅地のファミリー層を狙い、ファンは商業地区のオフィスワーカーや単身者を狙う。SKUはいずれも3000程度だが、対象とする顧客を明確にすることで、それに合わせた品揃えにする。

セブンフレッシュライフの1号店は、北京市回龍観に開店した。面積は500平米と小さいが、その地区で必要とされる3000SKUに絞り込んでいる。また、宅配エリアは半径1.5kmと小さく絞り、なおかつ78元以上の購入で無料、それ以下の場合は配送費6元となる。

さらに住宅地ならではのサービスとして、宅配便やクリーニング、光熱費の支払い、宝くじなどの扱いもする。

また、10%は直営店になるが、90%はフランチャイズを募集するのだという。

感覚的には、新小売スーパーというよりは、日本のコンビニに近い。実際、営業時間は24時間が基本に設定されている。日本のコンビニに、生鮮食料品が置かれ、宅配もするといった業態だ。

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▲コンビニではお馴染みになっている「おでん」も販売している。

 

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▲お惣菜なども充実させ、地域の人を取り込もうとしている。

 

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▲SKUは3000程度とコンビニ並みだが、対象顧客を絞り込むことで、それに合わせた品揃えにしている。

 

オフィスワーカーをターゲットにした北京店「ファン」

セブンファンの1号店は、北京市のオフィス街「北京銀河SOHO」内に開店した。こちらは950平米と広目で、しかも500平米がフードコートになっているのが特徴だ。SKUは3500程度だが、酒類、つまみ類が揃えられ、店内にバーも設置されている。朝はオフィスワーカーの朝食店として、昼はカフェとして、夜はバーとして使われることを想定している。

宅配エリアは半径3km。オフィスビルが多い地区なので、配送の効率はよく、注文単価も高くなることから、ライフよりも広く設定されている。

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▲「セブンフレッシュファン」は、オフィス街に出店し、軽食が食べられるコーナーも設けている。

 

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▲「セブンフレッシュファン」は、オフィスワーカーをターゲットにすぐに食べられる食品、飲料を充実させている。

 

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▲軽食コーナーでは、韓国料理やお酒も提供される。朝昼は軽食、午後はお茶、夜はお酒と時間によって提供する商品を変えていく。

 

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▲夜にはライブも行われ、バーとしても機能する。

 

京東は新小売コンビニを目指すのか

さらに、第4の業態として、無印良品とコラボをする大型店も計画中だという。

京東のこのような展開がうまくいくのかどうかは、もちろん誰にもわからない。しかし、メディアや専門家は好意的だ。なぜなら、「新小売スーパー」というジャンルでは、フーマフレッシュがすでに圧倒的な地域を築いてしまったため、これから正面対決をしていくというのは相当に難しい。消耗戦になるのは明らかで、体力のあるアリババに勝つことは極めて難しい。

セブンフレッシュの今度の業態転換は、敵をフーマフレッシュからコンビニ変えたということだ。対コンビニということであれば、京東が持つ強力な物流と、「宅配もする」という新小売機能を活かすことで、既存コンビニに対して優位に立てる。京東は、すでに無人運転カートやドローンを使い、部分的な無人配送を始めている。住宅地では難しくても、オフィス街ではこのようなテクノロジーをいち早く投入することも可能になる。

セブンフレッシュが業態転換をしたことで、新小売スーパーよりも、既存店も巻き込んだコンビニの競争が次のステージに進みそうだ。

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▲京東は独自の物流網を持っていて、それが京東の強みになっている。その強みを生かして、小規模店を多数展開していく戦略ではないかと見られる。テクノロジー開発にも積極的で、自動運転カートによる配送は、すでに北京市の一部などで実施している。

 

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▲京東は、ドローン配送も地方ですでに始めている。都市部でも、ドローン配送と自動運転カートを組み合わせた無人配送の仕組みを開発中だ。