中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

中国のユニコーン企業量産時代が終わる。変化する投資家、起業家の意識

中国のユニコーン企業の増加数が鈍化をしている。2018年には増加数で初めて米国の後塵を拝した。企業が自社事業とのシナジー効果が得られる企業に投資をするようになり、起業家も上場できる状況になればさっさと上場するようになったことが要因だと中国新聞網が報じた。

 

上場せずに事業をじっくりと育てるユニコーン

ユニコーン企業とは、「創業10年以内」「企業価値が10億ドル以上」「未上場」の条件を満たす企業のこと。

上場をして広く資金調達をしなくても、投資資金でじゅうぶんに事業展開、拡大ができている場合、上場の必要性を感じない。上場をして、意思決定プロセスを複雑にするよりは、スピード感のある経営をしたいという場合が多い。

また、ユニコーン企業の評価は近年過大になっているとも言われ、事業が安定しないうちに上場をすると、公開市場での評価がかえって下がってしまうケースも増えている。そのため、上場にはじっくりと取り組みたい。

つまり、投資資金を潤沢に集めることができ、じっくりと事業構築に取り組んでいる。それがユニコーン企業だ。

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▲中国のユニコーン企業企業価値ランキング。アントフィナンシャルはスマホ決済「アリペイ」の運営元、バイトダンスは「Tik Tok」の運営元、滴滴出行はライドシェア企業。

 

中国のユニコーン企業増加率が初めて2位に転落

その中国のユニコーン企業の数の伸びが鈍化をし始めている。

2018年末のユニコーン企業は、CB Insightのデータを基に恒大研究院が整理したリストによると、世界で313社。その中で米国が151社、中国が88社となっていて、中国は第2位になっている。

しかし、中国のユニコーン企業の増え方が鈍化している。2018年、米国で新たに誕生したユニコーン企業は53社だったが、中国は32社に止まった。ユニコーン企業の増加率では、中国は2014年以降圧倒的な1位だったが、初めて、米国に次ぐ第2位となった。

一方で、ユニコーン企業の平均企業価値は、中国は59.6億ドルと相変わらず高い。つまり、中国のユニコーン企業の成長が鈍化しているということだ。既存のユニコーン企業は企業価値を増加させているものの、新しいユニコーン企業が生まれづらくなっている。

なお、ユニコーン企業の企業価値は、投資資金や事業価値、資産などから推定をするもので、中には投資情報を非公開にしている企業もあるため、ユニコーン企業数、企業価値などは、調査会社によって異なってくる。しかし、他の調査会社の統計を見ても、同じように中国のユニコーン企業の成長が鈍化している傾向が現れている。

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▲各国の2018年のユニコーン企業数。中国はユニコーン企業数では第2位だったが、増加率で米国を上回っていた。それが増加率でも第2位になった。

 

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▲米国(赤)と中国(緑)のユニコーン企業の増加率。2015年までは、中国の増加率が圧倒的だったが、2018年に米国を下回ることになった。「中国ユニコーン企業報告:2019」(恒大研究院)より引用。

 

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ユニコーン企業の企業価値の平均では中国がまだ圧倒的な1位。世界平均を中国が押し上げている。数は少ないが巨大ユニコーンが存在するということだ。「中国ユニコーン企業報告:2019」(恒大研究院)より引用。

 

投資する企業は、自社事業関連に集中投資

ユニコーン企業の成長の鈍化の要因は、投資する側の意識の変化が大きいと言われている。

中国で、投資の世界での三巨頭はBAT(百度、アリババ、テンセント)ではなく、ATD(アリババ、テンセント、京東)と呼ばれる(京東の発音はjingDong)。ATDを始めとする企業は、以前は事業会社なのか投資会社なのかわからなくなるほど、さまざまな領域に投資をしていた。この潤沢な投資資金を得て、スタートアップ企業は成長ができ、ユニコーン企業が続々と生まれてきた。特に2014年は、ユニコーン企業が4倍に増えるという急成長をした。

しかし、2017年に仮想通貨とシェアリングエコノミー関連が行き詰まり、ここから企業の投資意識が変わった。投資先を精査するだけでなく、自社の事業とシナジー効果が得られるスタートアップ企業に投資をするようになっていったのだ。

ATDの現在の投資案件の上位を見ると、それぞれに自社の事業との関連がある領域ばかりになっている。

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▲投資を活発に行う事業会社はATDと呼ばれるアリババ、テンセント、京東の投資規模。BATに含まれる百度は投資よりも研究開発に軸足を置いている。

 

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▲ATD各社は、自社事業とシナジー効果が得られる領域の企業に投資するようになっている。

 

上場できるなら、さっさと上場する起業家たち

また、スタートアップ企業側も意識が変わってきている。投資資金を得ながら成長をしていくよりは、上場できるなら上場して、市場から資金を得た方がいいと考える企業も現れている。モバイルオーダーカフェ「ラッキンコーヒー」、ソーシャルEC「拼多多」(ピンドードー)などはいずれも創業3年以内で上場をしている。米ナスダック市場が中国スタートアップ企業の上場に積極的なことも要因のひとつになっている。

ちなみに日本にユニコーン企業が少ない(CB Insightsの調査では、Preferred Networks、スマートニュース、リキッドの3社)のは、投資環境や起業環境が他国に比べて整っていないということもあるが、東証マザーズに上場しやすいということも大きく影響している。

 

ユニコーン量産時代が終わった中国

いずれにせよ、中国がユニコーン企業を量産する時代は終わった。投資元はシナジー効果の得られるスタートアップに投資をするようになり、スタートアップは資金調達を企業と市場の2つを見ながら考えるようになっている。それは、ある意味、健全な姿に落ち着いたということでもあるのだ。