中国移動研究院は「5G典型応用事例集」を公表した。5G通信が各産業にとってどのような応用が可能であるかを解説しているばかりでなく、付録では69の事例集を紹介している。
5Gも最初は「少し早い4G」
5Gのメリットは、「高速」「多接続」「低遅延」の3つだが、5G通信開始直後から、3つのメリットすべてを享受できるわけではない。
5Gに使われる周波数帯は、国によって異なるが、3帯域ほどあり、高い周波数帯を使うほど、3つのメリットを発揮できるようになる。しかし、高い周波数帯を利用するには、機器の開発にも時間がかかり、さらに光と同じように遮蔽物に遮られやすいので、基地局を密に設置しなければならない。
そこで、各国とも低い周波数帯からスタートさせるのが常道だ。この場合、高速、それも4Gに比べて数割程度の高速化のメリットしか得られず、多接続、低遅延は発揮できない。この2つについては、より高い周波数帯を使うようになってからのことになる。
5Gの各産業への影響は「低遅延」が最も大きい
「5G典型応用事例集」では、各産業にとって、「高速」「多接続」「低遅延」の影響力の大きさをまとめている。
これを見ると、圧倒的に影響力が大きいのが低遅延で、特に自動運転の遠隔監視などに期待をされている。監視員が複数台を同時に監視し、問題が発生した場合は、遠隔操作で緊急停止させるという考え方だ。
娯楽と教育の分野では、高速の影響力も大きいことから、5Gのメリットは、まずこの2分野から感じられるようになる。
▲5Gの各分野への影響度。左から「大容量」「多接続」「低遅延」。色が濃いほど影響度が高い。
網羅的に紹介されている中国の5G事例
この事例集では、69の具体的な5G活用事例を紹介している。一部、海外の事例も含まれているが、多くは中国国内の事例だ。
それぞれについて、簡単な説明しかされていないが、気になるものを調べて深堀するのにいい情報になっている。
スマート行政
・広州市南沙区5G電子行政センター
・寧波市5Gスマート税関
・広州中級人民法廷5Gスマート法廷
▲寧波市のスマート税関。360度カメラ撮影映像がリアルタイムで画像解析され、停泊している船舶、コンテナなどの情報を計測する。
スマート防犯
・雄安新区5Gスマート防犯
・ボアオアジアフォーラム5G+ARスマート防犯
・浙江省5Gスマート消防
▲ボアオアジフォーラムでは、警備員がかけているスマートグラスに、情報がAR表示される。車両、関係者などを見ると、そこに具体的な身分情報などがAR表示される。
スマート都市インフラ
▲成都市道路橋梁監督管理サービスセンターでは、検査車両が巡回をしながら道路設備の4K画像を撮影し、リアルタイムで自動的に亀裂などの問題箇所を発見する。
スマートオフィス
・北京SOHO5Gスマートオフィスビル
環境保全
・千島湖5Gスマート水源管理
・合肥市5G環境観測プラットフォーム
▲千島湖では、ドローンで水資源の管理をしている。撮影画像から、水位、汚濁、水草の繁茂などを人工知能が自動的に発見する。
スマート製造
・杭州汽輪動力集団5G+3Dスキャン検査システム
・浙江新安化工5Gスマート製造
▲杭汽輪動力集団では、製造機械をレーザーで測定し、それを3Gモデルに自動変換し、理想状態との差異を発見することで点検を行なっている。従来、2日から3日かかる点検作業が、3分から5分で終わるという。
リモート操作
・包頭市5Gスマート鉱山無人運転車
・兗鉱5Gスマート鉱山
・新松5Gクラウドスマートロボット
▲包頭鋼鉄では、白雲鄙博鉱山区で、無人自動運転トラックを運用している。ドライバーは乗車せずに、作業員が遠隔監視を行い、異常がある場合には停止をさせる。
スマート工業パーク
・恒明集団5Gスマート産業パーク
・威海5G産業パーク
スマート農場
・淄博臨淄区禾豊5Gスマート農場
・上海領新5Gスマート農業
▲淄博臨淄区の禾豊5Gスマート農場では、山東理工大学が開発したシステムを利用して、小麦、とうもろこしなどの耕土、植え付け、農薬散布などを自動化している。中国初の無人農場を実現している。
スマート遭難救助
・成都大邑西嶺雪山5Gスマート遭難救助
▲成都の大邑西嶺雪山では、遭難者をドローンが感知し、探し出す。発見すると、360度カメラ映像を送り、状況を把握し、救出計画を立てることができる。
スマート畜産
・広西揚翔5Gスマート養豚
スマート養殖
・威海市愛倫湾5Gスマート海洋牧場
高精細ライブ放送
・中央電視台5G新メディアプラットフォーム
・山西太原全国青年運動会5Gライブ
・天津津雲5Gメディア
▲山西省太原で開催された第2回全国青年運動会では、視聴者が好きなアングルで見られるライブ中継が行われた。
エンターテイメント
・湖南省5Gスマート博物館
・湖北省博物館5Gアプリ
・南昌八一起義記念館「5G+VRライブ展」
▲湖南省博物館では、5Gを利用したさまざまな展示が行われている。銅鐸に触れると、その音色が聞こえるというもの。
スマート劇場
・深圳大地映画館5G
リモート診断
・鄭州大学第一附属病院5Gリモート診断
リモート手術
・人民解放軍総合病院5Gリモート手術
・安徽省蚌埠市5Gリモート手術指導
▲解放軍病院では、5Gによる遠隔手術が行われた。海南島にいる脳外科医が、北京の手術室にいる患者に、DBS治療により、頭部に刺激装置を埋め込むという手術をロボットを遠隔操作することで行なった。
スマート救急治療
・浙江大学第二病院5G救急車リモート診断
▲浙江大学第2病院では、救急車で搬送されている患者のデータ、映像を見て、センターにいる医師が適切な処置を指示するという遠隔救急医療が行われている。
自動運転
・上海汽車集団C-V2Xコネクティッドカー自動運転
・長城汽車5Gリモート運転
・南寧5Gスマート交通管理
・江蘇省無錫C-V2Xコネクティッドカーモデル地区
スマート公共交通
・宇通5G無人運転公共バス
・深圳地下鉄5G運行監視
▲宇通は、鄭州の鄭東新区スマートアイランドの路上で、5G無人運転バスを運行している。L4自動運転だが、監視員が遠隔監視を行い、異常が生じた場合は停止をさせる。
スマート鉄道
・広州深圳香港高鉄5Gスマート駅
スマート空港
・北京大興5Gスマート空港
・沈陽法庫5Gスマート空港
スマート港湾
・舟山港5Gスマート港
スマート物流
・蘇寧物流5G無人配送車
・林安物流5Gスマート物流
▲蘇寧物流は、南京市で無人配送車の試験運用をしている。無人配送車には360度カメラが備えられ、監視員が遠隔監視を行い、異常があった場合は停止をさせる。
スマート銀行
・浦発銀行5Gスマート支店
・工商銀行5Gスマート支店
・建設銀行5Gスマート支店
▲浦発銀行では、i-Counterを導入している。ATMのような端末は、4K映像でスタッフと結ばれ、投資相談などの専門スタッフに適宜つながる。申請処理などもその場で行える。
バーチャル銀行
・鳥瞰智能5Gバーチャル銀行
スマート観光地
・嵩山少林5Gスマート観光地
・楽山観光地5G+ドローン編隊ダンス
・湖州5G+スマート旅行データプラットフォーム
▲嵩山の少林寺では、園内に入る顔認証や4K映像により監視映像により園内の治安を保っている。また、VRによる観光案内なども提供している。
▲楽山では、2019年の中秋に300台のドローンを使ったドローンダンシングのイベントが行われた。
スマートホテル
・深圳華僑城洲際ホテル5Gスマートホテル
スマート教育
・広東実験中学5Gスマート授業
・蘇州星洲学校5G+MRスマート授業
・北京郵電大学5G+4Kリモート授業
▲蘇州星洲学校では、5G環境が整備され、VRグラスをかけて、バーチャルな地形図を体験するなどの授業が行われている。
▲北京郵電大学では、講師が遠隔地にいて、全身をリアルタイムで投影し、授業を行うというという遠隔講義が試験されている。教室内にはロボットが配備され、講師のアシスタントを務める。
スマート学校
・北京市半大学5Gスマート学校防犯
スマート電力
・国家電力投資集団5Gスマート太陽光発電
・福建莆田供電5G送電網監視
・南方電網5G送電網自動化