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全国平均の5倍のEV普及率。人口390万人の地方都市がEVシフトに成功した理由

中国のEVシフトに急ブレーキがかかっている。2019年は、EV、PHEVの新エネルギー車の販売台数が初めての前年割れとなった。個人需要が思惑通りに伸びないことが原因だ。その中で、地方都市ながら、全国平均の5倍の普及率というEVシフトが進んでいる地方都市がある。広西チワン族自治区の柳州市だ。柳州市では、2人乗りの微型車にフォーカスして、普及施策を打っている。これが通勤用EVとして普及をしていると中国江蘇網が報じた。

 

初めて前年割れとなった中国の新エネルギー車販売

中国では強引な形でEVシフトが進んでいるが、黄色信号が点っている。2019年の新エネルギー車の販売台数は120.6万台で、前年よりも3.9%の減少となった。中国汽車工業協会が発表した2019年予測では160万台となっていて、年半ばにこの予測を下方修正して150万台としたものの、それすら達成できなかった。

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▲本来のシナリオは、法人需要が一巡する前に、個人需要を喚起することだったが、法人需要が一巡したのに、個人需要が伸びなかった。2019年は初めて新エネルギー車の販売台数が前年割れとなり、予測の150万台も大きく割り込む結果となった。

 

NEVクレジット、ナンバー制限という強引な国の施策

政策は相当に強引だ。自動車メーカーに対しては、一定割合の新エネルギー車の販売を義務付け、達成できない場合は、達成済みメーカーから販売枠を購入する必要がある。それもままならない場合は、ペナルティを支払わなければならない。いわゆるNEVクレジットと呼ばれる仕組みだ。その仕組みが2017年から始まっている。

また、ガソリン車のナンバー発行制限も行われている。北京、上海、広州、深圳、杭州、貴陽などの都市では、ガソリン車向けのナンバー発行を制限する一方で、新エネルギー車のナンバーは制限なく発行するという政策をとっている。

ガソリン車を買いたくても、ナンバーを取得するために、長い時間がかかったり、オークションで高い金額で手に入れるしかない。しかたなく、新エネルギー車を買うことになる。

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▲新エネルギー車のナンバーは緑色(上)となり、各都市によってさまざまな優遇策が行われている。

 

法人需要が一巡、個人需要が伸びない

新エネルギー車は、法人向けには順調に導入が進んでいる。バス、タクシーといった公共交通や、企業の営業車などではEVの普及が進んでいる。しかし、個人需要となると、EVは航続距離や充電施設の不足などの問題から、伸び悩んでいる。

本来、当初は法人需要で引っ張り、法人需要が一巡するまでに、個人需要を伸ばしていくという普及シナリオを描いていた。しかし、2019年は、法人需要がシナリオ以上に減少をした。前年比で、27.7%も減少をした。一方で、個人需要はシナリオ通りには伸びなかった。前年比で、0.7%の増加に留まっている。

購入補助金が年々減少していることも大きな原因だと見られている。

 

EV導入に成功している柳州市

ところがこのEVシフトが見事に成功している都市がある。広西チワン族自治区の柳州市という地方都市だ。柳州市の人口は390万人。2018年末時点での自動車保有台数は90.6万台。しかし、新エネルギー車の保有台数は4万9116台。5.4%が新エネルギー車になっている。これは北京市の3.7%を大きく上回っている。

公安部が公表している統計では、2018年末の全国の自動車保有量は2.4億台。そのうち新エネルギー車は261万台で、中国全体の新エネルギー車割合は1.09%でしかない。

このような数値からすると、柳州市の5.4%は極めて高い。しかも、柳州市ではナンバー制限を行なっていない。つまり、消費者が「仕方なく」ではなく、「望んで」新エネルギー車を購入しているのだ。

前瞻産業研究院が整理した2018年の新エネルギー車販売台数都市別ランキングでも、柳州市は地方都市ながら第9位にランキングされている。

すでに新エネルギー車関係者の間では「柳州モデル」という言葉も使われるようになり、視察が相次いでいるという。

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▲柳州市で普及をするEV。2人乗りの微型車に絞ったことで、通勤車として購入する人が増えている。

 

微型車にフォーカスした施策が成功の秘密

なぜ、柳州市ではEVシフトが成功しているのか。一言で言えば、微型車と呼ばれる小型EVの普及にフォーカスをしたのだ。

微型車は2ドア2人乗りで、前後の長さが短い。一般車の駐車場に前後して2台を止めることができる。価格もEVの中では安く、5万元(約78万円)前後で購入できる。つまり日本の軽自動車のような感覚だ。

柳州市では、公共交通が未発達であるため、自動車の利用シーンは圧倒的に通勤だ。ところが、通勤は多くの場合1人で車に乗る。5人乗りの乗用車を1人で運転して通勤するのは、道路を渋滞させることになるし、駐車場不足を招くことになる。

そこで柳州市はEVシフトの政策を利用して、微型車の普及を目指した。

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▲柳州市は、1台のガソリン車駐車場に2台のEV微型車が駐車できることから、充電設備がある微型車専用駐車場を整備している。充電ステーションはEV3台につき1ステーションというほぼ理想的な環境になっている。

 

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▲EVはバス専用レーンも通行できる、施設への専用ゲートを用意するなど、さまざまなEV優遇策をとっている。

 

注目される「柳州モデル」

具体的な施策は、特に変わったことはやっていない。

市内のバス専用レーンも通行可能にする。専用の駐車場を整備する。充電ステーションを整備するなどだ。微型車専用の駐車場はすでに1万カ所以上が整備され、充電ステーションも3:1(EV3台につき1ステーション)と理想とされる3.2:1をほぼ実現している。

EVシフト成功の要因は、微型車にターゲットを定めたことだ。その都市によって、要求される移動ツールは異なっている。それをよく分析し、自分の都市に最適な微型車に資源を集中させた。さまざまなニーズがある大都市では難しいが、地方都市ではこの「柳州モデル」がひとつの典型となっていく可能性がある。