中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

南京大学図書館が、利用カードをミニプログラム化。議論される図書館の役割分担

南京大学の図書館が、一般向けに開放されると中国江蘇網が報じた。しかし、大学生を中心にその是非が議論になっている。特に一般の人も書籍を借りられるという報道が流れたため、大学生たちから学習や研究に支障が出るという声が上がっている。

 

アリペイと合同で、入館カードをスマホ

スマホ決済アリペイを運営するアリババ傘下のアントフィナンシャルとアリペイは、南京大学と「スマート図書館戦略合作フレームワーク」に合意をした。入館カードをアリペイのミニプログラム化する。アリペイの認証などの仕組みを使って、図書館をより利用しやすくする。

南京大学の他、南京工業職業技術学院、中国鉱業大学など江蘇省大学図書館23カ所がシェアリング協定を結び、将来は、一般人でも大学の図書館を自由に利用することができるようになるという。

f:id:tamakino:20200127112757j:plain

▲南京大学図書館。入館証のスマホ化で、一般にも開放するという報道が流れたため、学生の間で議論になっている。

 

一般の人も大学図書館を利用できるという報道内容

利用は、スマホ決済「アリペイ」のミニプログラム「海囤学習」から、利用登録をし、オンライン貸し出しカードを取得する。このQRコードで、入館、貸し出し、返却などができるようになる。

利用をするには、最初に200元(約3100円)のデポジットを支払う必要があるが、退会する時に返却される。利用料は各図書館によって異なるが、入館閲覧は無料、貸し出しは数元の手数料がかかる見込み。将来は、有料の宅配にも対応する予定だという。

 

大学生たちから不満の声があがる

しかし、この報道が流れると、大学生たちを中心に反発の声が上がった。その声の多くは、一般人も書籍を借りられるという部分だ。重要な書籍、論文は学生たちの間でも争奪戦になっており、一般人も借りられるようになると、さらに借りづらくなり、研究や学習に支障が出かねないというもの。

これに対して、南京大学図書館は、南京大学の電子掲示板で公式コメントを出した。報道には誤解があり、今回の合意は南京大学生の利便性を考えたもので、一般に開放するかどうかはまだ何の決定もしていないというもの。

 

テック導入を積極的に進める南京大学図書館

南京大学では、以前からテック導入を積極的に進めていた。書籍のある場所を教えてくれるロボットもすでに導入され、現在は第4世代のロボットが導入されている。すべての書籍にはRFID電子タグが付けられていて、このロボットは書棚をスキャンして、きちんと並べられているかを検査する。乱れている場所があると、職員に通知をする。

従来は、人がラベルを見て整理をしていたため、整理に追われるのが日常だった。その後、書籍に電子タグを入れ、職員がハンディー端末でスキャンをして、棚の乱れを検査していたが、これでも作業量が負担になっていた。

ロボットによる自動化により、職員は、乱れている箇所に行き、整理をするだけでよくなった。図書館が閉館した夜にロボットを動作させ、翌日開館前に書棚の整理をするというのがルーチン業務になっている。

f:id:tamakino:20200127112737p:plain

▲稼働している第4世代の図書整理ロボット。書棚の乱れを調査し、その場所を図書館員に通知をする。

 

f:id:tamakino:20200127112718p:plain

▲従来は図書館員がハンディ端末でサーチをしていたが、読み取りミスも多く、手間もかかっていた。

 

f:id:tamakino:20200127112727p:plain

▲この問題を解決するために、南京大学の研究チームがロボット開発を行った。

 

f:id:tamakino:20200127112710p:plain

▲南京大学図書館では、すべての書籍にRFID電子タグがつけられ、ロボットがアームを伸ばして、書籍が整理されているかどうかを確認する。

 

ICカード方式の問題を解決するスマホ入館証

南京大学によると、今回のアリペイとの提携は、一義的には南京大学生の利便性を考えてのものだという。これまではICカード付きの図書館カードを学生に配布をしていた。これにより入館、貸し出しなどが行える。

しかし、図書館カードを忘れたために利用ができないという問題があった。また、学生間で、カードの一時的な貸し借りも行われている。これを放置すると、学生ではないものが拾ったり、盗んだりしたカードで図書館を利用し、書籍を借り出し、盗むという事件も起きかねない。

この問題を解決するために、図書館カードをスマホ化することが目的だったという。スマートフォンであれば忘れることはなく、貸し借りもまず行われなくなる。また、ほとんどの学生が利用しているアリペイのミニプログラムを利用することで、学生に新たなアプリをインストールする面倒をかけずに済む。

一般に開放するという話は、将来の計画として議論はされているものの、南京大学ではまだ具体的な決定は何もしていないという。

f:id:tamakino:20200127112746p:plain

▲ロボットを開発した南京大学の学生チーム。図書館は1100年もの長い間、書籍の整理を人手で行ってきた。この問題を解決した。


議論される大学図書館公共図書館の役割分担

記事のコメント欄やQ&Aサイトなどでは、この問題について議論が高まっている。生涯教育に貢献するのも大学の使命のひとつだという肯定的な意見から、大学は学生の教育機関であって、その妨げとなるような施策は望ましくない、一般の人は公共の図書館を利用すべきだという否定的な意見もある。

特に、南京市の公共図書館では、アリペイミニプログラム「書服到家」を利用して、オンラインカタログから本を選ぶと、自宅まで配達してくれるサービスを始めている。一般の人は公共図書館を利用し、大学図書館はあくまでも学習と研究のためにあるべきだという意見が多い。

この議論がどのような結論に落ち着くかはまだわからないが、大学図書館公共図書館などの役割が何であるか、学生、市民が議論をするいい機会になっている。

f:id:tamakino:20200127112754j:plain

▲南京市の公共図書館は、「書服到家」という宅配サービスを行っている。スマホで本を検索して、自宅まで配送してくれるサービスだ。