2019年9月に、創業者のジャック・マーが引退をして以来、アリババの経営層の人事が大きく動いている。データテクノロジーと農産物小売を重視するために、張勇CEOが大規模なアリババ改革を行っていると雷鋒網が報じた。
アリペイ開発の立役者がグループCTOに
2019年12月、アリババCEOの張勇(ジャン・ヨン、ダニエル・チャン)は、社員全員にメールを発信し、経営層人事の変更を発表した。
人事異動の目的は、権力を各部門のキーマンに集中させ、アリババという企業の構造をシンプルにすることだと見られている。
その中でも、注目されているのが程立CTOだ。アントフィナンシャル(螞蟻金服)CTOからアリババグループ全体のCTOとなり、しかも直属上司は張勇CEOになっている。張勇CEOがテクノロジーを重視していることが窺われる。
程立CTOは、2005年というアリペイ黎明期にアリペイに入社し、アリペイの決済システムを構築した中心人物。その功績により、アントフィナンシャルのCTOを務めていたが、2016年にはアントフィナンシャルの国際事業グループのCOOを兼務し、ビジネス面での経験も積んできた。
▲程立グループCTO。アリペイ開発の中心となったエンジニア。アリババグループ全体のCTOに抜擢された。
▲アリババの主な人事異動。丹念に見ていくと、アリババがデータテクノロジーと農産物に注力しようという姿が見えてくる。
アリママ、フーマもシナジー効果の得られる構造転換
また、アリババのもつビッグデータを分析し、企業に提供をするアリママは、タオバオTmall(EC事業)の下に位置づけられることになる。また、新小売スーパーを伸ばしているフーマフレッシュもB2B事業グループの下に位置づけられることになる。B2B事業グループは、農村タオバオやスマート農業なども事業も手掛けているため、フーマの生鮮食料品の仕入れなどでのシナジー効果を狙っているのだと思われる。
複雑怪奇だったアリババとアントフィナンシャルの関係
長い間、複雑になっていたアリババ とアントフィナンシャルの関係もすっきりとしたものになった。
アリババは、ECサイト「タオバオ」のEC内通貨として、2003年にアリペイを開発した。2004年にはアリペイはアリババの子会社として独立したが、さまざまな金融サービスを提供するため2014年にアントフィナンシャルを設立し、アリペイはその子会社という体制ができ上がった。
しかし、それまで規制がなかったスマートフォン決済にも当局の規制がかけられるようになり、決済業者の免許を取得する必要が生まれた。その取得条件のひとつに「100%内資であること」というのがあり、アントフィナンシャルがアリババの子会社であると、この条件に反することになる。
なぜなら、アリババの大株主は創業者のジャック・マー、日本のソフトバンク、米国のヤフーであるため、外資企業といってもよかったからだ。アリババが直接アントフィナンシャルの株を保有すると、アントフィナンシャルは100%内資ではなくなり、決済業者の免許取得に問題が生じるかもしれなかった。
▲胡暁明アントフィナンシャルCEO。アリペイを運営するアントフィナンシャルも、明確にアリババのグループ企業として位置付けられ、世代交代をした。
間接的な統治関係にあったアリペイ関係企業
そこで、アリババとアントフィナンシャルは実に複雑な関係になってしまった。株を保有せずに、アリババが統治をし、適正な利益を得るにはどうしたらいいのか。
アントフィナンシャルの大株主は、「杭州君瀚株式投資」「杭州君澳株式投資」の2社だ。この2社で、アントフィナンシャルの株式の8割近くを保有していた。
この2社の株主は、ジャック・マー個人が保有する投資会社だ。つまり、アリババが直接株式を保有することができないので、ジャック・マー個人が、投資会社を経由してアントフィナンシャルの株を保有することで、アリペイを統治してきた。
利益については、アントフィナンシャルは、設立時に、アリババと契約を交わしている。それは、利潤の37.5%を、アリババに対してアリペイ関連の知的財産使用料、技術使用料として支払うというものだ。
これで、アントフィナンシャルの株式を保有しているのとほぼ同じ利益を、アリババは得ることができていた。
▲複雑怪奇だったアリババとアントフィナンシャルの関係。決済業者の免許の取得条件である「100%内資」をクリアするために複雑な関係になってしまった。今回、アリババがアントフィナンシャルの株を33%取得し、「アントフィナンシャルはアリババグループ企業」「アリババのアリペイ」と言うことに何の差し支えもなくなった。
アリババが1/3の株を保有する健全な関係に
しかし、仕方がないとは言え、あまり健全な姿とは言えない。いったいアントフィナンシャルはアリババの子会社なのか、グループ関連企業なのか、あるいはまったく無関係な企業なのか。アリババですら、過去、言葉を濁すことがあった。
この問題も解消された。アリババは、子会社を通じて、アントフィナンシャルの株式の33%を取得したと発表している。これはアントフィナンシャル設立時の協議の中で決められていたことで、状況が許す環境が生まれたら、アントフィナンシャルが新規に株式を発行し、それをアリババが取得する。使用料の支払いの仕組みは解消するというものだ。
これにより、「杭州君瀚株式投資」「杭州君澳株式投資」の株式比率は50%程度まで低下したという。
これにより、「アントフィナンシャルは、アリババグループ企業」と言うことに何も問題がなくなった。アリペイは、運営はアリペイ、その親会社はアントフィナンシャルだが、そのまた親会社がアリババなので、「アリババのアリペイ」と呼ぶことにも何も問題がなくなった。つまり、本来、あるべき姿にようやく戻ったのだ。
▲張勇CEO。海外ではダニエル・チャンと呼ばれる。経理畑出身であることから、堅実な経営をするのではないかと見られていたが、ジャック・マー引退後、矢継ぎ早にアリババを改革し、攻めの経営者であることを証明している。
ジャック・マー後の新生アリババ体制の構築
ジャック・マーが引退して以来、香港上場、大掛かりな人事異動、グループ構造の改善など、張勇CEOは、矢継ぎ早やに構造改革を進めている。人事異動から、張勇CEOがテクノロジー全般、ECとデータテクノロジー、農産物生産と新小売を重視していることも見えてくる。
張勇CEOは、社員全員に宛てたメールの中で「アリババの従来の習慣を、未来のために改革するのに、最も適した時期」だと述べている。