中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

圧倒的な中国AI産業の特許件数。有力企業による集約化が今後の鍵

知的財産プラットフォーム「滙桔網」と調査会社「胡潤百富」は、共同で「2019中国人工知能産業知的財産権発展白書」を公開した。AI関連の特許件数を国際比較してみると、この数年で中国企業がAI分野で急速に発展していることが明らかになった。

 

中国AI企業のトップ3は「ファーウェイ」「テンセント」「百度

「2019中国人工知能産業知的財産権発展白書」は、特許件数などの知的財産権からAI関連産業の発展ぶりを俯瞰したもの。知的財産のみで産業の発展ぶりを測ることはできないものの、有力な目安にはなる。

この白書の中で、各企業のAI関連事業の競争力(企業基本情報、企業リスク度)、イノベーション度(IP保有数、IP価値、近々3年の取得数の伸び)、技術成熟度(特許取得年数)の3つを点数化し、中国のAI企業トップ100ランキングを掲載している。

これによると、第1位はファーウェイ、以下、テンセント、百度、小米、アリババと、中国テック企業の大手の名前が並ぶ。

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▲中国テック企業のAI分野での競争力トップ100のうちの上位10社。保有している特許件数や保有年数を数値化してランキングにしたもの。ファーウェイが1位となった。

 

以前はAI先進国だった日本

この白書では、「計算機視覚」「自然言語処理」「機械学習」というAI3分野の特許件数について、国際比較を行っている。ここから、ここ数年での、異常とも言える中国AI産業の進展ぶりが見て取れる。

「計算機視覚」「自然言語処理」の2分野では、特許件数の国際ランキングを見ると、富士通キヤノンソニーパナソニックなどの日本企業が上位を独占している。この点で、日本はAI先進国だということができる。

しかし、時系列での推移を見てみると、日本の特許取得件数が最も多かったのは、計算機視覚では2006年、自然言語処理では1998年となっており、それ以降減少傾向が続いている。

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▲計算機視覚(画像処理など)の特許件数トップ企業。この分野では日本は圧倒している。

 

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▲ところが、日本(緑色)は2006年以降、特許取得件数が低下をし始め、それと入れ替わるように中国が異常な伸びを示している。

 

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自然言語処理の特許件数トップ企業。この分野でも日本は世界を圧倒している。

 

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▲しかし、1998年をピークに日本は特許取得件数が低下をしている。やはり2006年以降、中国が異常な伸びを見せている。

 

ヒントン以前の日本、ヒントン以後の中国

現在のAI産業の起点となっているのは、2006年にトロント大学のジェフリー・ヒントンのチームがディープラーニングで目覚ましい成果をあげたことだ。このブレイクスルーにより、AI研究の世界は「ヒントン以前」と「ヒントン以後」に明確に分割できると言っても間違いではない。

日本の企業は、ヒントン以前の時代には世界のAI研究をリードしていたが、ヒントン以後は精彩を欠いている。中国は、ヒントン以前は、AI研究はされていないに等しい状態だったが、ヒントン以後にAI研究が進み、特にこの数年は異常とも言える進展ぶりを見せている。

 

機械学習の分野では米国と中国が独占

ヒントン以後に急速に注目された「機械学習」の分野では、この傾向がさらにはっきりとする。特許件数の国際ランキングでは、IBMを筆頭に、米国の企業と中国の大学で占められている。

近年の機械学習系の論文の多くが、米国大学と中国大学の共同研究だったり、米国大学の論文であっても、筆者に中国人名が含まれていることが多い。このような米国の大学でAIの研究をした中国人留学生が、帰国をし、中国企業に入ったり、中国の大学に籍を置いたりして、AIの種を播くという流れができあがりつつある。

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▲2006年のディープラーニング以降、注目されるようになった機械学習の分野では、米国と中国の独占状態になっている。

 

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機械学習の分野でも、中国が異常な伸びを見せている。

 

中国のAI特許は分散をしている

3つの分野で、近年の中国AI産業が取得する特許件数の数は異常とも言えるほど多い。しかし、これだけ膨大な数の特許を取得しているのに、「計算機視覚」と「自然言語処理」の2分野では、トップ10ランキングに入っている中国企業がひとつもない。

これは、特許を取得する企業の数も多く、特許が分散しているということだ。2018年に特許を出願した中国企業は、計算機視覚で3528社、自然言語処理で2343社、機械学習で4172社もある。1社あたりを単純計算すると、1件から3件程度になってしまう。

AI企業トップ100ランキングに入っている企業の創業年を可視化してみると、その多くが2006年のヒントン以後の創業であることがわかる。つまり、比較的新しいスタートアップ企業、ベンチャー企業が積極的に特許取得に動いていることが想像できる。

機械学習の分野で、国際ランキング上位を占めるIBMマイクロソフト、グーグルの3社は、自社で研究開発を行い、それを製品に結び付けている。中国のAI産業は知的財産が小さなベンチャー企業に分散をしてしまい、ワンポイントでAI技術を使ったプロダクトやサービスには強いものの、米国企業のように、それを統合して大きなサービスに育てることがまだできていない。

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▲AIトップ100企業の創業年の統計。ヒントン以後の2006年以降、AI企業が急速に誕生していることがわかる。

 

中国の課題は、特許技術の集約化、統合

一方で、IP競争力トップ10の中国企業は、いずれも「ヒントン以前」の創業だ。ヒントン以前の企業がなぜAI分野で、強い競争力を持てるのか。AIスタートアップやAIベンチャーに、積極的に投資をすることで、AI関連の知財の集約を進めているからだ。

特許件数だけ見ると、中国は米国を圧倒している。しかし、その特許が分散をしているために、米国ほどAI分野で目立ったサービスやプロダクトに結びつけることはまだできていない。

しかし、トップ企業の投資による知財の集約化を進めることで、中国のAI産業は米国に追いつき、追い越そうとしている。