独身の日は、アリババが育ててきた一大セール。しかし、他のECも便乗して、11月11日にセールを行っている。2019年のセールでは、テンセント系ECの伸びが目立った。特に、拼多多が大きな成長を見せて、中国第2位のECサイトに育ってきたと界面新聞が報じた。
独身の日は、アリババ以外のECにとっても掻き入れ時
2019年の11月11日の独身の日セールは、Tmallの売上が2684億元(約4.2兆円)、昨年から25.7%増という好成績をあげた。
独身の日セールは、アリババが企画をし、11年に渡り築き上げてきた一大セールだが、当然ながら他のECサイトも便乗をして、11月11日に同様のセールを行う。
一方で、スマホ決済「WeChatペイ」を擁し、アリババの「アリペイ」のライバルであるテンセントは、11月11日に何をしているのだろうか。テンセントは、自社でECサイトを運営していないので、11月11日は無関係なのだろうか。
ECサイトはないものの、出資をしているテンセント
しかし、テンセントはさまざまなECサイトに出資をしている。持ち株比率は、京東の17.8%、拼多多(ピンドードー)の16.9%、唯品会(ウェイピンホイ)の8.7%になる。
アリババも多くのECサイトに投資をしている。63のEC関連業者に投資をし、全投資企業の11.21%を占める。EC投資が多いのは当然だ。自社の傘下に収めることで、シナジー効果を狙っている。
しかし、テンセントも61のEC関連業者に投資をし、全投資企業の7.18%がEC関連と、アリババに近い規模のEC投資を行っている。テンセントは、ECに関しては、自社で運営するのではなく、投資をするという戦略なのだ。
▲2019年11月11日の各ECの売上シェア。青字のTmallと蘇寧易購の2つがアリババ系、緑字の京東、拼多多、唯品会の3つがテンセント系。シェアではアリババ 系が圧倒している。
売上シェアの伸び率ではテンセントの勝ち
このことを頭に入れて、独身の日セールの販売額シェアを眺めると面白いことがわかる。
Tmallが圧倒的に強いのは当然にしても、アリババ系、テンセント系で見てみると、アリババ系の売上シェアは70.4%、テンセント系の売上シェアは25.9%となる。
しかも、アリババのTmallは、昨年からシェアを2.4ポイント落としている。一方で、テンセント系の拼多多は3.1ポイント伸ばすという躍進をしている。
伸び率だけを見ると、テンセント系ECが好調で、アリババ系は不調だったことがわかる。ジャック・マーが、Tmallの売上について、記録を更新したものの不満が残ったと発言したのは、この伸び率の問題だ。
▲しかし、各ECの売上シェアの昨年からの増減率を見ると、Tmallは2.4ポイントも落としている。一方で、テンセント系の拼多多は3.1ポイント増と大幅に伸ばしている。
ECの台風の目となっている「拼多多」
台風の目になっているのが、拼多多だ。拼多多は、一般に「まとめ買い激安ECサイト」と呼ばれ、「都市部よりも地方都市や農村部でよく利用される」とも言われる。一面正しいが、それだけだと拼多多の本質が見えなくなる。
拼多多の創業者である黄峥(ホアン・ジャン)は、杭州市の出身で、浙江大学を卒業後、ウィスコンシン大学に留学。そのままグーグルのエンジニアとなった。グーグル中国オフィスの立ち上げに参加するために帰国し、その後、起業をするために辞職。最初に起業をしたのは、MMORPG(マルチプレイヤーRPG)の開発企業だった。黄峥は、このRPGのチームプレーをECに応用した。
▲拼多多の創業者、黄峥。拼多多は「まとめ買い激安サイト」と軽く見られることが多いが、SNSとECを組み合わせた新しいタイプのエンタメECだ。黄峥は、コストコ+ディズニーランドなどのだという。月間アクティブユーザー数では、中国第2位のECに成長するなど、無視できない成長を見せている。
チームプレーで安く買い物をするエンタメEC「拼多多」
拼多多では、普通に買い物をすることもできるが、醍醐味は、テンセントのSNS「WeChat」を使って、商品を購入するグループを作ることだ。どうやってグループを作るかは、それぞれに任されている。商品のよさをアピールする、どうしてその商品がほしいかをアピールするなどして、不特定多数の人を集めてもいい。あるいは友人などの知り合いを集めてもいい。同じような購買傾向のある人でチームを作って、他のチームと連合してもいい。人数が集まれば集まるほど、特典が増えて、安く商品を買えることになる。
つまり、RPGのチームづくりとまったく同じなのだ。黄峥CEOは、拼多多のビジネスモデルを「コストコ+ディズニーランド」だと言っている。買い物にゲーム的な要素を持ち込んだ。
▲拼多多アプリ。とにかく信じられないほど安い。購入者が増えれば増えるほど実質価格が下がっていく。WeChatを使って購入者を募って安くするなど、ゲーム的に楽しんでいる人も多い。
消費者がみずから広告とマーケティングを行う
これは販売業者からすると、広告とマーケティング業務を消費者に委託していることになる。自社は製造をするだけで、広告とマーケティングは消費者自身がやってくれて、大量の購入者を集めてくれるのだ。
このため、拼多多では商品を安く売ることができる。広告やマーケティングまで手を伸ばせない中小、零細業者にとっては、とてもありがたいプラットフォームだ。しかも、大量に売れる。
伸び率の高い地方都市から大都市へ進出
拼多多は、中国でも当初は「激安まとめ買いEC」と見られていて、都市部の人たちからは、場合によっては「貧乏人のECサイト」と言われることもあった。そのため、地方都市や農村のユーザーが中心になっていた。
しかし、都市部のEC利用はすでに飽和をして、頭打ちになっている。そのために、アリババなどは新小売というオンラインとオフラインを融合した新しい業態を模索している。
一方で、地方都市と農村のEC利用は現在でも伸び続けている。これにより、拼多多の売上は、頭打ち感の強いECの中で伸び続けているのだ。
さらに、拼多多のゲーム性が少しずつ知られるようになって、都市部でも「拼多多の隠れユーザー」が増えているという。
こうして、拼多多は、月間アクティブユーザー数では、京東を抜き、中国で第2位のECサイトに成長している。
▲調査会社QuestMobileのデータによると、月間アクティブユーザー数では、Tmall+タオバオが頭抜けた1位だが、2018年6月以降、拼多多が京東を抜いて、第2位に浮上している。
SNSとECを組み合わせた新しいEC「拼多多」
拼多多のビジネスモデルの鍵になるのは、テンセントのSNS「WeChat」との連携だ。拼多多型のECをアリババが追従しようとしても、SNSを持っていないアリババは追従のしようがない。まさに、テンセントと拼多多がタッグを組んだことで、生まれた新しいタイプのECなのだ。
勢力図が固まったと見られている中国のEC業界だが、拼多多が台風の目になり、この勢力図が大きく変わるということはじゅうぶんにあり得る。