中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

ECとD2Cが変える農業。販売価格は市場ではなく、生産者が決める

仕事がきつく、最も儲からない産業である農業が変わり始めている。D2CやECを利用して、農産物を販売する若者が登場し始めている。特に、ECサイト「拼多多」を利用して成功している例が増えていると寧夏日報が報じた。

 

激安まとめ買いサービスだけではなくなった「拼多多」

拼多多(ピンドードー)は、中国第3位の売上規模のECサービス。しかし、第1位のアリババのTmall、第2位の京東(ジンドン)とは趣が違っている。簡単に言えば、激安まとめ買いサービスだ。同じ商品を買いたい人をSNS「WeChat」で集めれば集めるほど、価格が安くなっていく仕組みだ。最終的に、タダ同然で商品が買えることもあり、ゲーム感覚で楽しむ人、安さに惹かれて使う人などにより成長をしてきた。

当初は、購買力の小さい農村や地方都市の利用者が多く、都市部の利用者は少なかった。粗悪品や偽物商品なども横行していた。しかし、運営がこのような問題に対処をするにつれ、都市部でも利用する人が増え、第3位のECサービスになるまで成長をした。今、最も勢いのあるECで、月間アクティブユーザー数ではすでに京東を抜いて、第2位に浮上している。

この拼多多が、農業を変えようとしている。

 

WeChatを使って、D2C販売を行う農民

寧夏回族自治区石嘴山市の平羅県上橋村にユニークな農民がいる。4000羽ものカモを飼育し、市場価格の相場が1羽50元(約780円)程度であるのに、128元(約2000円)で売れているのだ。

また、カモの餌にトウモロコシも栽培しているが、余った分は売却をしている。これも高い価格で売れ、1ムーあたり相場よりも500元(約7800円)も高く売れる。

しかも、普通の農民は、自分で町の市場まで運んで売るのだが、市場まで運ぶというたいへんな作業もしている様子はない。周りの農民は、みな不思議がっている。

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▲高品質のカモをD2Cで高価格で販売する袁志儒さん。WeChatを活用し、自力でD2C販売を行っている。

 

市場価格の変動により農家は困窮をする

この農民は、23歳の袁志儒さん。上橋村の出身者で、都市の大学に通っていたが、卒業後は多くの地方出身者が都市で仕事を探す中で、袁志儒さんは故郷に帰ってきて、農業で起業する道を選んだ。

袁志儒さんの家は、上橋村で4世代にわたって農業をしている農家だが、作物を作って市場に売りにいくという農業のあり方に小さい頃から疑問を持っていた。市場の売却価格は変動をする。それは農家にとってどうにも制御できないものだ。その農家にはどうしようもない要因で、農家は困窮をする。これを変えたかった。

そのため、袁志儒さんは、大学でも農学を専攻し、卒業するとすぐに上橋村の農業を変えるために故郷に戻ってきた。

 

価格を生産者自身が決める新しい農業

最初に持ち込んだのが、有機循環農業の仕組みだった。不合格になった野菜をカモの餌にし、カモの糞を畑の肥やしにする。それが無駄なコストを削ることになり、上橋村のカモの品質を高めることにつながる。

しかし、最も大きな改革は、市場を通さずに、SNS「WeChat」で購入者を直接探したことだ。しかも、価格は1羽128元と相場の倍以上。上橋村のカモは、以前から美味しいと評判で、袁志儒さんは飼料の配合を研究して、肉質を向上させる努力を続けてきた。肉質には絶対の自信を持っている。

重要なのは、市場で他人に価格を決めてもらうのではなく、生産者が自分で価格を決めることだ。つまり、農業の領域で、D2C(Direct to Costomer)ビジネスを行っている。

最初は、強気の価格設定により、売れ行きは芳しくなかった。しかし、自分でカモ料理を作り、そのおいしさをSNSで発信し続けることにより、次第に購入者がつくようになった。ある瞬間から、口コミが拡散し、生産したカモはすべて売れるようになっている。中には、レストランが大量に購入し、上橋村のカモを使っていることを売りにするところも出てきた。

現在は、地域の農民たちと一緒に合作社を起業し、生産量を一気に増やす計画を進めている。

 

拼多多を利用して、大量の農産物を売りさばく農業スタートアップ

湖北省には、拼多多を利用して、地域の農業を変えていこうとしている若者がいる。23歳の廖仔傑さんは、湖北省天門市で拼多多を活用した農業を行っている。廖仔傑さんは、南京や武漢などでEC系のウェブエンジニアをして、高収入を得ていた。その時に、農業とECをうまく結びつければ、大きな利益が出ると感じ、農業分野で起業することを思いついた。

廖仔傑さんが目をつけたのは、湖北省京山の米だった。この地の米は品質が高いことで有名で、しかも自分の故郷である天門市に近く、地理もよくわかっていた。

2016年に、友人と起業をし、京山の米を自社開発したECサイトで販売をするビジネスを始めた。しかし、現実は甘くなかった。まるで売れずに、会社の存続すら危ぶまれる状態になった。廖仔傑のECサイトの存在に気がついてもらえないのだ。

しかし、転機は突然やってきた。その頃、拼多多の人気ぶりがメディアで報道されるようになって、廖仔傑たちも、シイタケを試しに出品してみた。すると1日で1000箱も売れた。これを機に、廖仔傑たちは地元の農産物を拼多多に出品することに特化をした。拼多多では、大量に売れるのが魅力だった。

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▲拼多多を活用して、出荷できない農産物を大量に売りさばくビジネスをしている廖仔傑さん(中央)。農家に「失われていたかもしれない収入」をもたらしている。

 

情報を集めて、出荷できない農産物を売る

しかし、地元で農産物を仕入れて、拼多多で転売をするという安直なビジネスではない。地域の情報を集め、地元の農家が持て余している農産物を発見しては、それを引き取って、拼多多で大量に売る。自分たちの利益にもなるし、地元の農民を助けることにもなる。それで、ますます地元の農業情報が集まるようになるといういい循環を生んでいる。

京山の緑林鎮のある農民の鶏卵が大量に売れなくて困っていた。手をこまねいていれば、いずれ腐ってしまう。廖仔傑たちはすぐにかけつけて、拼多多で12万個の玉子を売り切った。

五三鎮のある農家では、市場価格が安すぎて、栽培していたネクタリンの収穫をあきらめていた。そのままでは腐って落ちてしまう。廖仔傑たちはすぐにかけつけて、拼多多で100トンのネクタリンを売り切った。曹武鎮では、40トンの天津栗を売り切った。

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▲拼多多のメリットは、価格を下げれば、大量に売れること。農産物を売るにはうってつけのECになっている。時間が経てば腐敗してしまう農産物を、短期間で大量に売りさばくことができるからだ。

 

失われていた収入を農家にもたらす事業

拼多多では、品質の高い農産物を高価格で販売することは難しいが、農民がさまざまな理由で出荷ができずに困っている農産物を大量に売り捌くことができる。廖仔傑さんたちは、これを利用して、地元の農民に「失われていたかもしれない収入」をもたらし、自分たちも利益を上げている。

廖仔傑たちの拼多多店舗では、1年に6000万元(約9.2億円)もの売上をあげ、地元の農民に300万元(約4600万円)の収入をもたらしている。2019年の目標は、1億元(約16億円)の売上をあげることだという。ECの活用が農業のあり方を変えようとしている。