日常のほとんどの支払いをスマホ決済で行う中国。大規模な家計支出調査により、家計の支出は16.01%増え、同時にエンゲル係数(家計中の食品消費比率)は1.65%下がったことがわかったと毎日経済新聞が報じた。
キャッシュレス決済で、家計支出は16%増えた
この調査は、北京大学デジタル金融研究センター、上海交通大学中国金融研究院、浙江大学インターネット金融研究院、中国人民大学中国普恵金融研究院、アントフィナンシャル研究院の5者が共同で設立した「デジタル金融開放研究プロジェクト」が行ったもの。
その結果、スマホ決済を利用する家庭の家計消費支出は16.01%増え、一方でエンゲル係数は1.65%減ったことがわかった。
最も伸びたのは食費。しかし、エンゲル係数は下がる
増加した支出を項目別に見てみると、生活必需品で最も増加したのは、面白いことに食品だった。エンゲル係数は下がっているので、生活必需品以外の項目が大幅に伸びていることになる。
必需品以外の項目では、教育、文化、娯楽の伸びが大きかった。また、その他の商品、サービスの消費が最も大きく伸びている。
▲生活必需品の支出の伸び。最も多かったのは食費だった。しかし、非生活必需品の伸びが大きいので、エンゲル係数はむしろ下がっている。
▲非生活必需品は、すべての項目で支出が高い伸びを見せている。このため、エンゲル係数が下がっている。
貯蓄に回していたお金が消費に回っている
このようなことから、従来貯蓄に回していたお金を、スマホ決済になると消費をしているのではないかと思われる。それが長期的な家計にとって、プラスの作用を及ぼすのか、マイナスの作用を及ぼすのかは、調査報告では触れられていない。
しかし、香港大学の馮教授、アジアグローバル研究所の陳主任は、21世紀経済報道の取材に応え、スマホ決済を利用すると「1万元を消費するのと、1000元を消費するときの、心理的な差」が、現金の場合に比べて小さくなることを指摘している。スマホ決済が社会に浸透していく中で、この心理的な問題は大きな課題になっているという。
収入が低い家庭ほど、支出の増加率が高い
各家庭の収入別に見てみると、低収入の家庭の方が支出額の増加が大きく、エンゲル係数の低下幅が大きい傾向にある。また、農村と都市を比べても、農村の方が支出額の増加が大きく、エンゲル係数の低下も大きい。
この結果をどう受け取るかはさまざまだ。消費力の小さな家庭は、より消費をするようになり、ますます貧しくなってしまうのか、それとも、今まで消費力の小さかった家庭が消費をするようになり、少なくとも消費面だけを見れば、格差が縮小しているとみるのか、意見は分かれている。
▲収入別にみると、低収入の家庭ほど支出の伸びが大きい。消費に関しては、格差は縮まっている。
▲農村と都市を比較しても、農村の方が支出の伸びが大きい。消費面での格差が縮まっていると見るか、資産面での格差が広がっていると見るか、議論が続いている。
豊さとは資産なのか、消費なのか
それを明らかにするには、豊さとは「資産を多く持っていること」なのか「消費をたくさんできること」のいずれなのかということを明確にする必要がある。古い伝統的な社会では、資産を多く持っていることが金持ちの条件だった。そのため、相続をすることにより、金持ちの家系と貧しい家系が生まれ、格差の固定化が起きていた。しかし、消費をすることが金持ちの条件であれば、個人の努力などにより、収入を増やし、消費を増やすことは可能だ。
スマホ決済によって、消費額が増えるのは、誰もが感じていることで、今回の調査によっても、それが事実であることが裏付けられた。それが私たちの社会にとって、いい影響を及ぼすのか、悪い影響を及ぼすのか、さらなる調査研究が望まれる。
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