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20代に広がる「新消費」は、新しい消費スタイルか、それともただの借金生活か。変わる若者の消費意識

スマホ決済やそれに付属する金融サービスにより、「先消費、後払い」という新しい消費スタイルが広がっている。しかし、「未来の収入を先取りして、平準化して消費する」合理的な消費方式なのか、企業の都合に騙されているただの借金生活なのか、たびたび議論になっていると投中網が報じた。

 

未来の収入を先取りして消費する「新消費」

アリババの創業者、ジャック・マーは、2016年に、10年以内に起こる変化として、5つの「新」を挙げた。「新製造」「新技術」「新金融」「新小売」「新エネルギー」だ。アリババは、この5つの領域で、新しいビジネスを興すという戦略を定めている。

その結果、消費者、特に若い世代には「新消費」と呼ばれる現象が起こり始めている。スマートフォン決済「アリペイ」などのクレジット機能を利用して、分割払いやリボ払いに近い形で消費をするスタイルだ。

これは伝統的な消費感覚から見れば、借金消費になる。しかし、新しい消費感覚から見れば、未来の収入を先取りして消費する、消費の平準化だ。伝統的な見方はストック型の消費(貯蓄をしてから使う)が好ましいと考え、新消費の見方はフロー型の消費(流入する収入を支出する)が好ましいと考える。

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▲ネットで広まるミーム画像。「買う!買う!買う!」というもの。消費欲の強さを表したもの。この消費欲を満たしてくれるのが「新消費」だ。

 

信用スコアにより、借金のハードルが下がっている

この新消費の鍵となっているのは、スマホ決済「アリペイ」や「WeChatペイ」に付属している社会信用スコアの精度が上がってきたことがある。このような信用スコアは、決済の履歴、友人関係などから、信用スコアを算出するもの。基本的には、借金をするときの限度額、利息などを算出するための基礎データとなっている。

この信用スコアの精度が上がってきて、いわゆる「貸し倒れ」が起りづらくなってきた。信用スコアに基づいて表示される借金可能限度枠は、金融業者から見れば「貸してもだいじょうぶな限度額」だが、消費者から見れば「借りてもだいじょうぶな限度額」になっている。

この安心感から、若者には「先消費、後支払」という新しい消費スタイルが広がり始めている。

もちろん、人によって意見はさまざまだ。企業の都合に騙されているという人もいれば、新しい消費スタイルが始まったと見る人もいる。

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▲アリペイの「花唄」。開くだけで、信用スコアから貸出限度額が表示される。この信用スコアの精度があがってきたため、消費者から見ても、この限度額が「借りても返せる額」になっている。


思い立ったら、まず商品を買ってしまう

この「新消費」は、95后と呼ばれる95年以降生まれ、つまり20歳代前半に特に広がっている。

重慶市の21歳の大学生、廖洪偉は、自転車に乗ってチベットに行こうと思い立った。2600kmもある道のりだ。これは彼の成人式だった。大学を卒業する前に何かを成し遂げておきたかった。

そのために、ECサイトで899元(約1万4000円)のクロスバイクを買った。12カ月の分割払いだった。「お金はアルバイトをして返せばいい、でもチベットに行く夢を実現するのは今でなければならない」。

彼のような若者が増えている。彼が本当にチベットに行くかどうかはわからない。しかし、思い立った時に消費をし、後で支払う「新消費」が広がっている。

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▲分割、金利0という広告は、あちこちで見かける。勢いが弱まったとは言え、経済成長が続く中国では、お金があっても分割払いを利用し、手元のお金は理財商品に回し、利息を稼ぐのが当たり前になっている。

 

収入の大半を趣味に使う「八坑少女」

23歳の趙文博さんは、自分のことを「八坑少女」と呼ぶ。8つの趣味にハマっている女性という意味だ。JK、ロリータ、漢服、コスプレ、漢元素(伝統中国テイストのワンピースなど)、フィギュアなど、現在中国の20代の間での流行にずっぽりとハマっている。

その彼女が最近ハマり始めたのが「盲盒」だ。街中にある自動販売機や、スマホアプリのクレーンゲームなどで購入するが、箱の中に何が入っているかわからないガチャガチャ感覚の玩具商品だ。多くの場合は、フィギュアが入っている。価格は高く、ひとつ30元から60元(約930円)程度が相場の価格帯。人気となり、一人で大量に購入し、いらない「盲盒」をフリマサイトやSNSで販売するという若者が増えている。

趙文博さんも毎週、大量に購入し、すでに給料の中から小遣いとして使える額を超えてしまっている。「先消費、後支払」を使って、借金を膨らませながら、盲盒を集めている。

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▲若者の間で流行っている「盲盒」(マンフー)。どのフィギュアが入っているかはわからないというガチャ感覚の商品。シリーズをコンプリートしたいという人が続出している。

 

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▲盲盒はこのような自販機で販売されている。被ったものは、友人と交換するか、ネットで売ってしまう。

 

ガレージキット、スニーカー、スマホゲームにお金を使う

中国でアジア最大のデジタルエンターテイメント展示会を主催するチャイナジョイは、中国の20代前半の若者が最もお金を使う趣味を公開している。それによると、ガレージキット、流行のスニーカー、スマホゲーム、スマホカメラ関連グッズ(自撮り棒やレンズ)、コスプレとなっている。

生活に必要なものよりも、精神的な満足感を得るものの方が重要になってきている。ウェブメディア「第一財経」の調べによると、20代前半の若者の34%が服を買う時には、4カ所以上のEC、店舗を見て周り、48%の若者が化粧品や美容関連品を買う時には、4カ所以上のEC、店舗を回るという。自分の興味のある商品に対しては、時間もお金も惜しみなく使う。

 

90%の若者が、分割払いを意識している

中国新経済研究院とアリペイが公開した「90后金銭感覚報告」によると、20代前半の若者の90%が、消費をする時に分割払いの利用を考えるという。一方で、投資信託などの理財商品の平均利用開始年齢も23歳に下がってきて、親の世代から比べると10年も早くなっている。

大幅値引きのセールが行われているのであれば、手元にお金がないからといって我慢をして、お金ができてから買うよりも、今、分割で買ってしまった方が得だと考える。「スマートフォンが12ヶ月分割の無利子キャンペーンをやっているのであれば、お金があっても分割払いしに、そのお金で理財商品を買う」というのが新消費のスタイルだ。

 

新しい消費スタイルか、借金消費か、議論は続く

このような新消費を肯定するか否定するか、それは将来の収入が上がっていく確率次第だ。20代前半は、人生の中で最も稼げる額が少ない時代だ。しかし、自己投資を最もしなければならない時期であり、同時に物欲もいちばん強い時期だ。将来の収入を先に使って、自己投資や物欲を満足させ精神的な充足感を得るというのは、それが破綻をしない限り、合理的な消費方法かもしれない。

ウェブメディア「南方都市報」の新消費をする20代前半の若者に対するアンケートでは、80%以上の人が過去3年で収入が増えたと答えている。しかも、その中の43.06%の人は20%以上収入が増えている。収入が増えていき、失業などの事故が起こらなければ、この新消費は問題ないどころか、生涯の収入を平準化して使うという合理的な消費手法になる。

「八坑少女」の趙文博さんは言う。「今は、お金を使って、時間と経験を買っているのです。お金を使えば、他人の経験から学んで自分のものとすることができます」。

若者消費が伸びているのは、オタク文化圏の商品だけではなく、社会人教育や資格取得などの教材、セミナーなども伸びている。

新消費は、ただの野放図な借金消費なのか、それとも合理的な新しいスタイルなのか、各所で議論が続いている。

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