中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

長沙市でいよいよ始まったロボタクシーの運行。45台が一般乗客を乗せて走る

湖南省長沙市で、百度の「アポロ」を搭載したロボタクシーの試験運行が始まった。45台の車両を投入するという大掛かりなもので、長沙市民であれば、事前登録をすることで誰でも無料で利用することができる。一般の乗客をのせた試験運行で、問題が生じなければ、そのまま正式な営業運行に移行するとAutoR智駕が報じた。

 

世界各地で始まるロボタクシーの運行

自動運転を利用したロボットタクシーの運行が世界で始まっている。グーグル傘下のウェイモーは、カリフォルニアで試験運行を始めていて、最初の1月で6299人の乗客を乗せた。中国の滴滴出行は、2020年初めから上海でロボットタクシーの営業運行をすることを表明している。

そして、2019年9月、自動運転プラットフォーム「アポロ」を開発した百度バイドゥ)が、湖南省長沙市でロボットタクシーの試験運行を始めた。

試験運行といっても、45台の自動運転車が投入され、公道を走り、長沙市民であれば誰でもモニター登録をし、普通のタクシーとして利用できる。一定期間、試験運行を続け、問題が発生しなければ、そのまま営業運行に移行する。

f:id:tamakino:20191121131254j:plain

長沙市民であれば、誰でも事前登録することにより、無料でロボタクシーを利用できる。百度のミニプログラムから、タクシーを呼び、目的地を設定することで乗車できる。

 

自動運転に積極的な長沙市。すでに135kmの道路を開放

ロボットタクシーの最初の運用都市が長沙市になったのは、長沙市側が積極的だったからだ。昨2018年6月から、市内の公道135kmを自動運転車の試験用に開放をし、長沙を自動運転の都市にしようという戦略を立てている。

今年2019年4月には、百度と長沙先導産業投資、湖南湘江智能科技創新中心の3社が合弁で、湖南アポロ智行科技を設立し、湖南アポロが長沙市から営業免許を取得した。

f:id:tamakino:20191121131248j:plain

百度長沙市が共同出資をして、湖南アポロ智行科技を設立。湖南アポロ智行科技はすでにロボタクシーの営業免許を長沙市から取得している。写真は、湖南アポロ智行科技の車両基地

 

f:id:tamakino:20191121131252j:plain

車両基地内に並んだロボタクシー。第一汽車の「紅旗」のEVがベース。試験運行といっても、45台が投入されるという本格的なもので、営業運行への移行を予定している。

 

現在はL4。5G通信を利用したリモート監視による無人運転も視野に

走行する車両は、紅旗EV(ホンチー)に自動運転プラットフォーム「アポロ」を乗せたもの。ただし、既存の車に後乗せをするのではなく、百度と紅旗が共同開発を行い、アポロを前提とした設計にし、専用生産ラインも構築している。専用生産ラインでは、最大3.6分に1台の割合で生産ができるという。紅旗は第一汽車の高級車ブランドで、そのEV車がベースになっている。

自動運転はL4(一定条件下での自動運転)であるため、無人運転をすることはできないが、運転員ではなく、監視員が運転席に乗車をする。通常は、行き先などをタッチパネルに入力するなどの操作をするだけで運転はしない。しかし、異常時には、緊急停止操作を行う。

すでに5G通信による遠隔監視、遠隔緊急停止などの技術は確立をしているため、営業区域の5G網が整備され、遠隔技術の安全性が確認されれば、監視員は乗車せず、センターから遠隔で対応をし、無人運転となる道筋も見えている。

f:id:tamakino:20191121131316g:plain

▲ロボタクシーの路肩からの発進の様子。走行車線を踏むぐらいまで前進し、後方から走ってくる車に鼻面を見せて、注意を促すという動作を見ると、アポロの人工知能の学習はかなり成熟していると思われる。

 

f:id:tamakino:20191121131235g:plain

▲一般道路を走るロボタクシー。現在、最高速度は時速50kmに抑えられている。

 

運行時間は朝8時から午後5時まで。夜間は次のステップ

車両には、上海の禾賽科技(HESAI)が開発した40線レーザーレーダーが1基、4線レーザーレーダーが2基を中心とし、9個のカメラ、9個の超音波レーダー、2個のミリ波レーダーが搭載されている。

現在は、ロボットタクシーは朝8時から9時半の間にセンターを出発していき、午後5時前後にはセンターに帰ってくる。ただし、途中でバッテリー容量が30%を下回ると、自動的にセンターに戻ってくる。

現在は、安全を配慮して、夜間運行、天候不順日の運行は行わないが、技術的には問題がなく、夜間と天候での運行は次のステップとなる。

f:id:tamakino:20191121131257g:plain

▲現在は、運転をしない監視員が運転席に乗車をし、緊急時の対応や顧客対応を行う。事前に目的地を設定しているので、監視員はほぼ何もせず、ロボタクシーが自動的に目的地まで連れて行ってくれる。

 

開放道路の増加とともに、営業エリアも広げていく

長沙市では、市内の135kmの公道で、自動運転車の走行を認めている。その中には、高速道路も12km含まれている。

ただし、ロボットタクシーは2019年中は、この内の50kmの道路のみで試験運行を行う。2020年上半期に135km全体をカバーし、それ以降は、長沙市の開放区間が増えるとともに、運用区域を広げていく予定だ。

また、走行速度は、最高50kmに限定されていて、それ以下の制限速度の道路では交通規制に従った速度で走行する。

乗車をするには、百度アプリのミニプログラムからロボットタクシーを呼び、目的地を地図などから指定するが、WeChatのミニプログラムにも対応が予定されている。試験運行中は、無料で乗車することができる。

f:id:tamakino:20191121131334j:plain

▲ルーフ上に設置されたレーザーレーダーを基本にし、周囲の環境をモデリングして、人工知能が行動を選択する。

 

都市間の自動運転競争が始まる

ロボットタクシーに乗車をした交通警察に勤める譚甜さんは、AutoR智駕の取材に応えた。「自分が思っていたよりも早く自動運転が実用化されました。もうすでに2回ロボットタクシーに乗車しています。以前は、自動運転や無人運転の技術の実用には時間がかかると思っていましたし、また慎重であるべきだと思っていました。しかし、実際に体験してみると、思ったよりも安全であることがわかりました。ただ、私個人の感覚ですが、ブレーキはもっと優しく踏んでほしい。それぐらいですね」。

長沙市以外にも、北京市を筆頭に「自動運転都市」を目指して、都市の顔にしたいと考えている都市はいくつもある。長沙市がロボットタクシーで一歩リードをしたことで、この都市間競争もさらに過熱することになる。