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1/3の都市で起きている「縮小都市現象」。都市の再編が始まっている

都市でも一定基準以上の人口密度、経済活動がある地域を実体都市として研究をすると、1/3の都市で人口が減少していることがわかった。大都市は周辺に拡大をするドーナツ現象が起き、地方都市は中核都市に集約される都市の再編が始まっていると中国城市中心が報じた。

 

一定基準以上の人口密度、経済活動のある実体都市の研究

都市の人口を正確に知ることは難しい。多くの国では住民票のような現住所登録を元に算出し、日本では多くの人がきちんと住民登録をしているのでほぼ正確に都市人口を算出することができる。しかし、中国では住民票(戸籍)を簡単に移すことができないので、多くの人が元の場所に戸籍を置いたまま、他都市で暮らしている。特に近隣の農村や地方都市から仕事を求めて大都市に出てきている人は多く、「○○市の統計上の人口は○○万人だが、実際は××万人を超えていると言われる」などという曖昧な言い方がされる。

そこで、百度地図慧眼と清華大学建築学院は共同して、都市の実体人口の研究を進め、その成果を公表した。すると、大都市であっても、実体人口が減少している「縮小都市」が広がっていることがわかった。

 

地図アプリから人口動態を割り出し実体都市を定義する

日本のグーグルマップと同じように、中国でも百度地図は頻繁に使われ、位置情報の照会は1日に1200億回もある。月間アクティブユーザーは11億人に達し、ほぼ全国の都市農村で使われている。

百度地図慧眼は、この百度地図から得られるデータを活用して、さまざまな研究活動、コンサルティングを行っている。百度地図の利用データを追跡すると、その人が住民登録にかかわらず、どこを生活拠点にし、どこで仕事をしているかがわかる。ここから、都市の正確な昼間人口、夜間人口、移動動態を分析することができる。

 

大きなズレがある行政区分都市と実体都市

都市人口を正確に知るための問題は、住民票の問題だけではない。行政都市範囲と実体都市範囲に大きなずれがあることも問題になる。

中国の多くの都市は、周辺の県や地方都市を併合していって拡大をしている。例えば、北京市の面積は1万6400平方キロあるが、その2/3は山地だ。人口密度、公共施設、経済活動、一人当たりのGDPなどから、実質的な都市だと呼べる地域は、1420平方キロ程度でしかない。

研究チームは、この実体都市の基準を作成し、2017年1月と2019年1月の実体都市の実体人口を、百度地図から得られたデータで比較を行った。つまり、行政区分の都市ではなく、都市実体がある場所での人口の比較を行った。1日の間で、人が激しく移動する都市のリアルな比較が行えるようになった。

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北京市と地方都市との石家庄の比較。北京市は周辺に拡大をしているので、農村までもが北京市になっているため、実体都市は行政区域の一部でしかない。地方都市の石家庄では、周辺の成長が始まっていないため、実体都市と行政区域がほぼ一致をしている。

 

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▲各都市の実体都市と行政区域。都市の行政区域は周辺部に拡大し、農村なども飲み込んでいる。そのため、都市とは言えない地域も都市面積に含まれてしまっている。百度地図慧眼と清華大学建築学院は、人口密度、経済活動などに基準を設けて、実体都市の人口動態を研究した。

 

全都市の34.9%で人口が減少している

その結果によると、全国の実体都市3022都市の増加率の平均はわずか0.8%でしかなかった。しかも、1506の実体都市は人口が減少していて、全都市数の34.9%にあたる。さらに178の実体都市では人口減少率が15%を超えるという状態になっている。

一方で、人口が増加した実体都市は1516で、平均増加率は9.4%だった。

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▲縮小都市の分布。大都市が飽和をしてドーナツ化するケースと、地方都市で衰退が始まって縮小するケースがある。

 

都市の発展時代から広域地域の発展時代に

研究チームは、実体都市の実体人口が5%以上減少している都市を縮小都市と定義をした。縮小都市は全部で217都市で、全体の7.2%にあたる。

この縮小都市の特徴は、発展が遅れた地方都市だけではなく、中国を代表する大都市も含まれている。例えば、中国で最も発展している地域として、北京を中心にした京津冀(北京、天津、河北省)地域、珠江デルタ(広州、深圳、東莞、マカオなどの三角州地帯)が挙げらるが、いずれも今回の研究では縮小都市になっていることが明らかになった。

図を見ていただけるとわかるが、中心地の実体人口が減少して、その周辺の衛星都市の人口は減少をしていない。つまり、ひとつの都市による発展はすでに飽和して、広域の都市連合による地域発展のフェーズに入っていることがうかがわれる。

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珠江デルタ地域(左)と京津冀地域(右)の人口動態。いずれも中心部では人口が減少(緑色)しているが、衛星都市では人口が減少していない(灰色)。実体都市が拡散をして、地域として発展をしている姿が見える。

 

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▲実体都市を見ると、人口が減少している縮小都市が全体の34.9%になった。大規模都市でも縮小都市になっているところがある。北京市などは、すでに中心部が飽和をしてドーナツ化現象が起きている。

 

地方の小都市は、中核都市への集約化が始まっている

縮小都市には2種類がある。違いは、実体人口は減少しているが、就業人口が増加をしている縮小都市と、実体人口、就業人口の両方が減少している縮小都市だ。実体人口が減少しても就業人口が増加をしている実体都市は、居住地域が郊外に移動をしているが、実体都市の経済は発展をしている。縮小都市といっても、衰退をしているのではなく、中心部が飽和をしてドーナツ化現象が起きていることになる。中規模都市以上で、商業地の整備が進んでいる場合、このような現象が起きる。このような縮小都市は24あり、縮小都市の11.1%になる。

一方で、実体人口も就業人口も減少している縮小都市は、地方の小都市に多く、より大きな中核都市に実体人口、就業人口のいずれも集約化が進んでいる。このような実体都市ではGDPも低下をしている。このような縮小都市は、147あり、縮小都市の67.7%になる。

 

市単位の行政は、時代に合わなくなっているとの指摘も

いずれの場合でも、縮小都市の縮減は、経済の衰退ではなく、都市の広域化に伴う現象だ。地方都市は、地方の中核都市に集約が起こり、その中核都市を中心にして大都市化をしていく。すでに大都市になっている都市では、隣接する都市との連携が深まり、広域地域としての発展が始まっている。

中国では市政府の権限が強く、都市ごとに独自政策を打ち出せるようになっているが、すでに市政府という行政単位を再考すべき時期にきていると指摘をする識者もいる。市政府同士が連携をするのではなく、より大きな都市連合政府のような仕組みを検討すべき時期にきているとする見方だ。

従来は、このような都市人口の流入、流出は、住民統計を基礎にして推計で語るしかなかった。しかし、百度地図などに代表される地図サービスを多くの人が使うことによって、実データを基礎にして語ることができるようになっている。

「地図感覚」から都市を読み解く: 新しい地図の読み方

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