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高級人材に起こり始めているUターン、Jターン現象。人材は新一級都市へ

中国の大学生は、誰もが北京、上海、深圳、広州などの一級都市での就職を希望する。しかし、一級都市の人材が供給過多になり、新一級都市との給与格差も縮まってきたことから、大都市の大学卒業者が地方の新一級都市に職を求める現象が起こり始めていると趣排行が報じた。

 

高級人材の飽和が始まった大都市

中国のテック企業の拠点と言えば、北京(百度、小米、バイトダンス、京東)、上海(拼多多)、深圳(テンセント、ファーウェイ)、広州(網易)などの一級都市が中心。しかし、地方都市にすぎなかった杭州を拠点とするアリババの成功により、地方都市を拠点とするテック企業が増え、人材も一級都市から、このような新興の新一級都市に流れる傾向が生まれている。

就活サイト「猟聘」は「2019上半期高級人材就職現状ビッグデータ報告」を公開した。これによると、著名大学の卒業者の年収は上がり続け、一級都市ではすでに高級人材(大学院卒業者や優秀な学部卒業者)が飽和をしている。これにより、高級人材が新一級都市と呼ばれる杭州成都武漢重慶西安などに流れ始めている傾向が明らかになった。

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▲各業種別の人材の需給関係。テクノロジー関連は需要が多いのに、供給が少ない人材不足になっている。そのため、報酬が増え続けている。その他の業種では概ね供給過多になっている。

 

ファーウェイでは、新卒高級人材に報酬3000万円の例も

中国テック企業の高級人材の年収は今でも上がり続けている。ファーウェイの任正非が発信した内部文書によると、ファーウェイでは2019年の新卒生から、研究職、幹部候補生など8名の高級人材を採用する計画で、その報酬は89.6万元(約1360万円)から201万元(約3000万円)であるということが報道され、世間の大きな話題になった。

これは特別な例だとしても、有力大学の卒業者の年収は上がり続けている。各大学とも、初任給50万元(約760万円)以上の高級人材の割合が高くなってきている。

各大学によって、学部の関係から、就職する業界には違いがある。北京大学中国科学技術大学では、3割以上がテック企業に就職する。清華大学も1/4以上がテック企業だ。復旦大学では金融業界が多く、同済大学では不動産や建築業界が多い。これは復旦大学には金融系の、同済大学には建築系、土木工学の優れた学部がある関係だ。

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▲各有名大学の卒業者の年収分布。10万元(約150万円)から20万元(約300万円)が多いが、50万元(約760万円)以上の高級人材の割合も多い。特に清華大学の卒業者は報酬が高い傾向がある。

 

中高級人材で顕著な地方都市への人材拡散現象

このような状況の中で、中級人材、高級人材の新一級都市への移転が始まっている。中国でも、一般人材はどの業種でも人手不足だが、中級人材、高級人材はすでに飽和状態にある。特に不動産、金融、製造、化学などの旧経済業種において顕著だ。例外なのは、成長し続けているテクノロジー関連ぐらいだ。

また、年ごとに中高級人材の需給を見ると、北京と上海ではすでに過剰供給になっている。成長空間が残されている深圳、広州ではまだ供給不足だが、すでに杭州などの新一級都市でも供給不足が起こり始めている。

新一級都市は、地方の中核都市で、成長の過程にあるが、経済規模はさほど大きくないため、以前は中高級人材の需要がさほど強くなかった。しかし、成長が軌道に乗り、いよいよ需要が増え、供給不足気味になり始めている。

このような状況から、一級都市の著名大学を卒業した中高級人材が、新一級都市で職を求めるというJターン現象が起き始めている。

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▲都市別の中高級人材の需給関係。すでに北京、上海では供給過多になっている。そのため、中高級人材が不足している杭州以下の新一級都市へ人材が流れ始めている。

 

報酬格差も減少。生活実感はほぼ同じ

この中高級人材の拡散の背景にあるのは、報酬の格差が縮まってきたことがある。各都市の中高級人材の平均月給は、1位は北京の2万2306元(約34万円)だが、新一級都市トップの杭州でも1万7503元(約27万円)と格差は小さくなっている。新一級都市は、物価が安く、生活費も抑えられるため、生活感覚はあまり変わらなくなっている。

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▲一級都市、新一級都市の平均給与。数値的にはまだ格差は残っているが、新一級都市は家賃や物価が安いため、生活実感としては大きな違いはなくなってきている。新一級都市では、中心部を再開発している例が多く、そのような場所に住めば、生活の利便性も大都市とあまり変わらない。格差が縮まったことが、新一級都市への人材拡散の要因のひとつになっている。

 

新一級都市の中でも二極化が起き始めている

ただし、新一級都市すべてが中高級人材を惹きつけているわけではない。新一級都市各都市の中高級人材の流入率を見ると、最高は杭州の8.82%だが、天津や東莞のようにマイナスとなり、むしろ流出をしてしまっている都市もある。

流出が多いのは青島、蘇州、東莞、天津で、近隣に大都市がある新一級都市では流出の傾向があるようだ。

テクノロジー関連では、どの新一級都市も流入をしているが、電子通信、交通貿易、金融の3分野については、却って大都市に流出をする傾向にある。

新一級都市とは、以前は二級都市であったものが、成長が著しいために、二級都市の分類にはそぐわなくなった都市のことだ。しかし、その中でも、成長には濃淡がある。杭州のように一級都市と肩を並べる都市もあれば、二級都市に逆戻りしかねない都市もある。新一級都市も二極化していくのだと見られている。

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▲各新一級都市の中高級人材の流入流出量。同じ新一級都市でも、杭州や寧波、長沙、西安などは中高級人材が外部から流入しているが、青島、蘇州、東莞、天津などではむしろ流出をしている。