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ホテルの客室が狙われる。巧妙になる4K盗撮カメラ

中国の各地で、ホテルの客室での盗撮事件が起きている。中央電視台財経チャンネルの番組「経済半小時間」が、この問題を取材したところ、想像以上に蔓延していることが大きな話題になっている。

 

ユニクロの試着室に盗撮カメラ事件

中国で盗撮事件が続いている。深圳市の龍華ICOモール内のユニクロで買い物をしていた女性が、試着室の中に盗撮カメラが仕掛けられているのを発見した。その女性は言う。「試着室の中で着替えていたら、鏡の中にボタンのような小さな黒い点を見つけたんです。触ってみると熱を持っていることがわかりました。おかしいと思って、引っ張ってみるとカメラだったのです」。

まさかスタッフが仕掛けとは思えないが、悪質な客が仕掛けるにも、それなりの工作が必要になる。スタッフは気がつかなかったのか。現在、龍華公安が捜査に入っている。

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▲ピンホール型の盗撮機。壁に埋め込み、小さな穴を開けておけば、なかなか気づかれない。工作のしやすさから、洋服店の試着室が狙われている。

 

ホテルの客室も盗撮されやすい場所のひとつ

ホテルの客室での盗撮事件も、以前から時々起きていた。しかし、大きな問題にならなかったのは、そもそもが隠しカメラがわかりやすく、客が気がつくことが多かったからだ。ホテルにクレームを入れると、ホテルはだいたい「私たちは知らない。前に泊まった客が忘れていったものではないか」ととぼけるが、カメラは撤去される。気分は悪いものの、盗撮は免れる。

盗撮カメラは、ワイヤレスで映像を盗撮主のPCなどに飛ばさなければならないので、電源を必要とする。コンセント近くに設置されているか、内蔵バッテリー動作の場合はバッテリー切れになっていることも多い。画質も悪い。そういった事情で、盗撮事件は起きているものの、大きな問題になることは少なかった。

 

現在では4K映像も簡単に撮影できる

ところが、テクノロジーの進化によって、盗撮テクノロジーも大きく進歩した。多くのホテルにはWiFiが整備されているので、映像はインターネット経由で送られる。カメラもピンホールのような小さな穴となり、なかなか気づかない。省電力であるために、内蔵バッテリーでも長時間動作する。しかも、現在の盗撮装置の多くが4K映像の撮影が可能になっている。

宿泊客が気づかないうちに、鮮明な映像を長時間撮影され、その映像がネット上で密かに売買されている。

 

道端で売っている数々の盗撮機器

中央電視台財経チャンネルの番組「経済半小時」は、この問題を取材した番組を放映した。多くの市民が、鮮明な4Kの盗撮映像が撮影できることに驚き、大きな話題となっている。

記者は、まず深圳市の華強北(ホワチャンベイ)で、盗撮機器を買い求めることから始めた。華強北は、中国の秋葉原とも呼ばれる電気街で、だいぶ少なくなったとはいうものの、未だに小さなパーツ屋が軒を連ねている。盗撮機のような特殊な電子機器を買うのであれば、華強北に行くというのが常識だ。

盗撮機の販売は、当局の規制もあり、ECサイトも違法商品として、出品を規制している。当然、一般的な電気店では販売されていない。華強北でも手に入るのだろうか。記者は不安な思いで華強北を尋ねると、すぐに盗撮機を見つけた。通りに立っている中年女性が盗撮機を販売していたのだ。

その女性は1枚の紙にまとめたカタログを持っているだけで、盗撮機そのものは持っていない。公安や城管に咎められても、「カタログを拾っただけ」と言い逃れをするためだろう。盗撮機を買うという話がまとまると、販売をしている人物を紹介してくれる。

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▲深圳市の華強北の路上では、手にカタログを持った女性が普通に盗撮機を販売していた。

 

コンセント型の盗撮機も

指示されたカフェで待っていると、いかにも電気店の店員風の男が現れた。警戒をして、店舗に連れていかず、カフェで販売交渉をするようだった。その男が出してきた商品は、壁用のコンセントのような電子機器だった。見た目はコンセントだが、コンセントではない。中央の穴の奥にカメラが仕込まれている。

この装置は、壁に貼り付けるだけでコンセントとしては機能しない。しかし、壁掛けテレビの横の壁に貼り付けておけば、不審に思う人は少ない。バッテリー駆動で充電も可能。内部にはSDカードのスロットがあり、映像はこのSDカードに保存をされる。

記者が試し撮りをしてみると、映像は鮮明で音声もきれいに入っている。

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▲コンセント型の盗撮装置。壁に貼り付けておけば、ほとんどの人が気がつかない。中央の穴にカメラが収められている。

 

違法であるのに堂々と販売されている盗撮機

さらに、記者は華強北を歩いて、盗撮機を販売している店を見つけた。太平洋安防市場という防犯機器を販売している店が集まっている市場の3階の3C96の位置にある店だ。先ほどのコンセント型の盗撮機が説明なしに展示してあった。

話を聞いてみると、記者が買った盗撮装置とよく似ているが、性能は大幅にグレードアップされていて、この店の商品では4K映像が撮影できる。WiFiにも対応していて、盗撮映像をスマホでリアルタイムに見ることも保存することもできるという。

華強北の電子世界2号店3階の「飛揚デジタル」という名前の店では、盗撮ができるスマートウォッチや万年筆型の盗撮装置が販売されていた。

店主によると、このような商品の販売は違法で、工商局の職員が巡回にくるときは、販売をせず、商品も隠してしまうのだという。店主は言う。「ここではどの店も盗撮装置を売っています。法律によって販売が禁止されていることは知っていますが、この儲けるチャンスを誰も逃したくありません。当局の巡回の頻度は多くなり、厳しくなっていますが、店主の隠し方も上手くなっています。だから、販売が続いているのです」。

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▲華強北の店舗では、万年筆型などさまざまな盗撮機が販売されていた。

 

人民日報も注意喚起をする事態に

このような状況を受けて、人民日報のウェイボー公式アカウントは、盗撮に関する注意喚起を行った。どのような盗撮装置があるかを紹介したものだ。

それによると、キャラクターバッジ、ライター、コンセント、フック、煙感知器、スニーカー、飲料缶、シャンプー、ティッシュボックス、電動歯ブラシWiFIルーター、万年筆、ヘアドライヤー、テレビ、照明の壁スイッチ、時計、ACアダプター、杖などに仕込まれている盗撮装置が発見されている。

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▲人民日報が公式ウェイボーで注意喚起を行う事態に。このような機器に盗撮カメラが仕込まれていることが多いという。場所は、ホテルの他、バスの中、スーパーなどが多いという。

 

スマホカメラを使って、盗撮カメラは発見できる

また、特に盗撮が多いのはホテルの客室で、盗撮カメラをスマホを使って発見する方法を紹介している。それは、客室のカーテンを閉め、電気を消して、真っ暗な状態にして、スマホのカメラであらゆるところを見てみる方法だ。

真っ暗にしか映らないが、もし盗撮カメラがあった場合、光の点として映る。最近のカメラは、撮影するときに、赤外線を発して鮮明な映像を撮る仕組みになっているため、その赤外線にスマホのカメラが反応するのだ。ただし、古いタイプの盗撮カメラでは赤外線を使ってないものがあり、この方法では発見できない。

また、通風孔の奥、コンセントの穴の中などは、スマホの懐中電灯の光をあてると、カメラレンズが反射して見つけることができる。

特に天井から見下ろす位置、顔の高さから水平に撮影できる位置、膝の高さからやや上向けに狙う位置などに多く盗撮装置が仕掛けられている。場所としては、ベッド付近と浴室が多い。

また、バスの車内、スーパーなどにも盗撮装置が仕掛けられている例がある。

 

意外に軽い盗撮の罰

盗撮装置を使って、重大な結果を招いた場合は、中国の刑法により、2年以下の懲役または社会奉仕活動となる。さらに、中国治安管理処罰法では、盗撮行為そのものに5日以下の拘留または500元以下の罰金、盗撮内容のプライバシー侵害度が大きい場合は、10日以下の拘留または500元以下の罰金となっている。

盗撮行為は、その罰が意外に軽い。まだまだ盗撮事件は起こりそうだ。