中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

中国のIT革命の起点となったタオバオ。初めての出品は2台の日本製カメラ

中国のIT革命は、2003年に開設されたアリババのEC「タオバオ」から始まる。ここからスマートフォン決済「アリペイ」が生まれ、中国人の生活は様変わりをした。そのタオバオで最初に売れたのは2台の日本製カメラだったと九零的新媒が報じた。

 

宝探し感覚で楽しまれた「タオバオ

中国の現在のテクノロジー革命の原点は、2003年のECサイトタオバオ」だ。個人でも商店でも商品を出店し、購入できるCtoC型のEC。当時すでに米国にはeBayが存在していたので、大いに参考にしたのだろう。

このタオバオが、中国ではエンターテイメントとして受け入れられた。当時の中国では、粗悪品、偽物商品なども多数出品されていたが、そういうものをつかまされてしまうのも楽しみのひとつだった。タオバオ(淘宝)とは宝探しの意味。川の砂をザルに入れて、砂金を見つけるようなイメージの言葉だ。まさに、「タオバオ」することが娯楽のひとつになった。

 

粗悪な出品人を排除するための仕組み「アリペイ」

しかし、次第にPCで注文をして、宅配で届けられるという利便性が注目されるようになった。特に2002年に中国南部で起きたSARSアウトブレイク以降、買い物にいかずECを使う人が激増した。こうなると、宝探しなどとは言っていられない。粗悪品、偽物商品が大きな問題になった。

そこで導入されたのが「アリペイ」だった。アリペイは当初、タオバオ内で使えるポイント通貨だった。消費者はまずアリペイポイントを購入し、そのポイントを使って商品を購入する。出品者はアリペイポイントで代金を受け取る。しかし、商品にクレームがあった場合は、アリペイの現金化ができなくなるという仕組みだった。

 

アリペイは決済を超えた生活プラットフォーム

このアリペイは、他のECサイトでも導入されていった。そして、それが街中の商店でも採用されるようになり、現在、現金よりも使われる主要な決済手段になっている。

アリペイは、現在ではキャッシュレス決済として有名になっているが、その出自はネット決済手段だった。そのため、アリペイアプリの中からは、ほとんどのものが購入できる。例えば、新幹線、特急、航空機のチケットは、アリペイアプリの中から検索をし、座席の空き状況も見ることができ、購入、決済ができる。電子チケットとなるので、スマホと身分証を持って駅や空港に行けば乗ることができる。その他、外売(フードデリバリー)、光熱費、各種ショッピングなどがアリペイアプリの中からできるようになっている。

アリペイは、通貨を電子化したというだけでなく、生活サービスそのものを電子化した。これが中国のIT生活革命の本質になっている。

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▲アリペイのメイン画面。「火車票機票」のアイコンから、新幹線、列車、飛行機のチケットが購入できる。アリペイに実名登録していれば、別アカウントは不要で、決済もアリペイから自動的に行われる。電子チケットとなるので、そのまま駅や空港に向かえばいい。その他、光熱費の支払い、タクシーを呼ぶ、フードデリバリー、証明書の申請など、生活関連の大体のことは、アリペイの中からできるようになっている。

 

タオバオに最初に出品されたのは2台の日本製カメラ

この原点であるタオバオに最初に出品をした人は、山西省出身の崔衛平という人だ。崔衛平は若い頃、日本に留学した経験があり、音楽プレイヤーなどの日本製品を輸入する仕事をしていた。当時、崔衛平の元に日本製のカメラがあったが、お客の中にカメラを買う人はなく、放置したままになっていた。

その時、崔衛平はタオバオというウェブサービスが開設されたことを知り、早速、登録をしてみて出品してみた。この2台のカメラが、タオバオの最初の出品となった。

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タオバオに最初に出品をした崔衛平氏日本製品を輸入して販売するビジネスをしていた。アリババは崔衛平氏に1.5億円の融資枠を与えている。

 

アリペイ導入後になってようやく売れる

このカメラに興味を持つ人は何人も現れたが、取引は成立しなかった。カメラは当時の中国人にとっては、相当に高価な商品でもあった。崔衛平という未知の人をすぐに信用することはできなかったからだ。

2003年5月に出品された2台のカメラは数ヶ月間売れなかった。10月になって、タオバオはアリペイの機能をリリースした。それでようやく取引が成立をした。

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▲アリババの前身となる企業を北京で創業した頃のジャック・マー。一介の英語教師なのに、語る夢のスケールだけは大きく、多くの人が詐欺師の類だと感じたという。この映像でも「私は中国で最大のウェブサイトを作ることができるのです」と豪語している。それは数年後、本当のことになる。

 

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▲ジャック・マーが最初にビジネスにしようと考えたChinaPages。中国企業の紹介を掲載し、海外企業と繋ごうと意図したもの。中国企業から掲載料を取るビジネスモデル。しかし、1件も契約が取れない空ページの状態で営業活動をしたため、どこからも相手にされなかった。会社は解散をすることになるが、後にビジネスモデルを変えて、Alibaba.comで成功する。

 

小米の創業者、雷軍も出資を断った地方のスタートアップ「アリババ」

この頃は、タオバオそのものすら信用していいものかどうか怪しかった。なぜなら、アリババなどという不思議な名前の企業は、中国人のほとんどが聞いたことがなく、実際、当時のアリババは、ジャック・マーを中心にした10人程度のスタートアップ企業にすぎなかった。

アリババのビジネスは、あまりにネットサービスに寄りすぎていたため、ジャック・マーは銀行を走り回って、資金を借りようとしたがすべて断られていた。銀行は、ネットの未来価値を正しく評価できなかったのだ。

この頃、後に小米(シャオミー)を創業することになる雷軍が、ソフトウェア大手金山軟件のCOOを務めていた。ジャック・マーは雷軍を訪ねて、出資を求めたが、金山軟件はアリババへの出資を断っている。

タオバオに出品をし、アリペイを使って売れたという経験は、崔衛平にとっても自分のビジネスを成長させるきっかけになったが、アリババにとっても自分たちのタオバオがちゃんと機能するということを知ることができた大きな経験となった。

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最初の出品者に与えた融資枠1.5億円

アリペイの中には花唄という機能がある。いわゆる消費者金融機能だが、どちらかというと、クレジットカードの機能に近い。花唄の限度額は、社会信用スコア「芝麻信用」によって自動的に定められるが、アリペイの残金と花唄の限度額の合計が表示され、利用者には「今使える金額」が知らされる。利用者はその範囲内で買い物をし、花唄で借りた分に対しては毎月自動的に返済が行われていく。

借金といえば借金なのだが、手持ち資金と信用資金を合わせてアリペイの財布の中に表示するという、今までにない新しい消費スタイルの試みだ。

アリババは、タオバオに最初に出品してくれた崔衛平に感謝をし、この崔衛平の花唄の限度額を特別に1000万元(約1.5億円)に設定している。これは花唄の限度額の中でも最高額だという。

当時は、杭州市という地方都市で創業したスタートアップに、カメラを出品してみたら売れたという小さな出来事でしかなかったが、ここから中国のIT革命が始まった。今から振り返れば、大きな事件だったのだ。