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5000を超える公的機関のTik Tokアカウント。人気は警察と軍関係

Tik Tokの本家「抖音」の公的機関の公式アカウントが5000件を超えている。広報ビデオよりも短く、親しみがあるため、多くの人が閲覧をし、広報の目的を効果的に達成できるからだ。その中でも人気なのは、警察と軍関係の公式アカウントだと娯楽資本論が報じた。

 

5000以上の公的機関が参加する中国版Tik Tok「抖音」

Tik Tokの本家、中国の「抖音」(ドウイン)はもはや若者がダンス映像を披露する場所ではなくなっていて、ショームービー共有のプラットフォームになっている。ショートムービー版YouTubeといった感覚だ。

この抖音に昨2018年ごろから、公的機関の公式アカウントが次々と開設されている。警察や軍隊などが目立ち、日頃市民から遠い存在である公的機関が、自分たちの活動や広報を発信し、親しみを持ってもらおうというものだ。以前から公式サイトや動画共有サイトでこのような活動は行われていたが、より広く拡散させるために抖音を利用する機関が増えている。

抖音の運営会社であるバイトダンスでは、すぐにこの傾向を察知した。2018年8月には「公的機関メディア成長計画」を公表し、このような公的機関の公式アカウントをサポートする施策を始めた。この成果もあり、2018年末の段階で、公的機関の公式アカウントは5724件にもなった。

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▲2018年の公的機関の公式アカウントのファン数ランキング。警察や軍関係の公式アカウントが上位を占めている。従来の広報ビデオは、あまりにもきちんとしすぎたものであったため、警察官や兵士が普段の感覚で出演するショートムービーに新鮮さを感じている人が多いのだと思われる。


コント仕立てで防犯意識を高める動画

その中でも人気になっているのが、吉林省の地方都市、四平市公安局が運営する「四平警事」アカウントだ。すでに128件の動画を公開し、ファンの数は1400万人を超えている。どの動画も平均で70万から80万の「いいね」を得ている。

四平市は、長春市の南側に位置する人口300万人程度の地方都市にすぎない。その公安の動画が人口の4倍以上ものファンを獲得した理由は、面白いからだ。ほとんど警察コントになっている。

基本的なパターンは、ちょっと間抜けな2人の犯罪者が登場して、警察官に取り調べを受けるというもの。2人は警察官の追及を逃れようと知恵を絞るが、自ら墓穴を掘ってしまう。ショートコントとして楽しめるだけでなく、撮影は実際の四平市公安の建物や装備を使い、コントのネタも実際に起きた事件を元にしているなど、公安の広報ビデオとしてもちゃんと成立している。暇つぶしに見て、笑っているうちに、公安の仕事を理解するという内容だ。

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▲四平市公安局の公式Tik Tokアカウント「四平警事」。警察コントを中心に、公安局の広報映像も混ぜられ、ファン数は1400万人を超えている。人口300万人の四平市の広報としては大成功だ。

 

普通の広報ビデオでは市民に伝わらない

四平警事がここまでファンを獲得するのは簡単ではなかった。四平市公安局でも、以前から公式サイトや動画共有サイトを使って、広報ビデオを公開する活動は行っていた。しかし、それはごく常識的なものだった。警察官の仕事を紹介するビデオや、市民との交流会の様子を真面目に紹介するものなどだった。

当時から広報ビデオを担当していた四平市公安局の董政警務補助員は言う。「公安局の中を走り回って、同僚や上司にファンになってもらうようにお願いしました。それでもファンは45人でした」。つまり、内部の人間が義務的に見ているだけの広報ビデオだったのだ。

 

考えが甘かった「Tik Tokで公開すればファンがつく」発想

2018年6月になって、四平市公安局の上層部でこの広報ビデオの件が問題になった。まったく広報ビデオとして機能していないということが問題にされた。そこで、四平市公安局は、董政補助員にすべての決裁権を与え、広報ビデオを改革するように命じた。

董政補助員が考えたのは、Tik Tokに公式アカウントを作ることだった。理由は単純で、当時本人がTik Tokに夢中になっていたので、多くの人が見ているTik Tokに広報ビデオを流せば、今よりは多くの人に見てもらえるだろうと考えた。

しかし、考えが甘かった。2ヶ月経っても、ようやく100人程度のファンがついただけだった。

 

プロの司会者とつくった警察コントが大受

そこで、董政補助員は、四平市では有名なローカルFM局の司会者、呉爾渥に相談をした。呉爾渥は答えた。「警官コントをやればいいじゃないか!」。しかも、呉爾渥はノリノリで、自ら出演するという。

2人はすぐに警官コントのビデオをスマートフォンで撮影した。呉爾渥が酔っ払いの運転手となり、3人の警官に飲酒の検査を受けるというものだ。コントとしては、酔っ払いの運転手が飲酒検査を受け、数値がオーバーしているのに「酔っ払っていない」と言い張るありがちなものだが、中国的なシャレが織り込まれている。

この運転手は、車に乗っている時に歩行者を怒鳴る。これは中国語では習慣的に「牛を吹く」と表現される。そして、飲酒検査は「気を吹く」。つまり、牛を吹いていた運転手が、気を吹くことになるというシャレになっている。それでいて、酒酔い運転をすると、どのような危険があるのか、どのような取り締まりを受けるのかがわかる広報ビデオにもなっている。

このショートムービーは69万回再生され、1.7万の「いいね」を獲得した。

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▲最初に公開した警察ショートコント。酔っ払いが酒気帯び検査を受けるという単純なものだが、中国語のシャレが折り込まれている。コントでありながら、どのように酒気帯び検査がされているのか広報ビデオとしても機能している。

 

テンポのよさがショートムービーの秘訣

手応えを感じた董政補助員は、さらに地元で有名な映画俳優である張浩に声をかけた。張浩は「四平青年」「二龍湖浩哥」「二龍湖愛情物語」など、ネット映画、ネットドラマに主演をしている俳優だ。

張浩が加わることで、呉爾渥と張浩による「間抜けな二人の犯罪者」と、それを取り締まる警察官、董政というスタイルが確立し、3人は次々と警察コントを発表していった。人気はうなぎのぼりに高まり、1400万人のファンを獲得するに至った。

ただふざけているだけでなく、現実の事件をモチーフにし、公安局の仕事も紹介し、広報ビデオとしても成立しているため、公安局の上層部も満足しているという。

董政は言う。「Tik Tokに公開するビデオは長くも1分間。最初の5秒で、登場人物の関係がわかるようにしなければなりません。テンポのいいリズム感がユーザーを惹きつけるのです」。

 

ファン数100万人を超える北京SWATアカウント

バイトダンスが公開した「2018年ビッグデータ報告」では、公的機関の公式アカウントのファン数のトップは「四平警事」になっている。その他、公安局もあるが、多いのは軍事機関だ。人民解放軍もさまざまな広報活動を行っており、そのTik Tokの公式アカウントが人気になっている。

その中でも人気なのが、北京市のテロ対策隊の公式アカウント「北京SWAT」だ。こちらはコントなどの演出は不要だ。隊員の日常訓練、狙撃演習、実践演習などのストレートなショートムービーを公開し、人気となり、ファン数は100万人を超えている。

四平警事と北京SWATの成功を見て、公安、人民解放軍のみならず、交通局や地方政府もTik Tokの公式アカウントを公開し始めている。公的な広報も、退屈な公式ビデオではなく、テンポのいいショートムービーの時代に移ろうとしている。

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▲北京SWATの公式アカウント。日常の訓練風景や隊員の普段の様子など、従来の公式広報ビデオでは演出されてしまうような内容が、素の状態で紹介されている。そこが人気になっているようだ。