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急速に増える「プライベート映画館」。なぜか大学の近くに集中する理由

中国の各都市で、プライベート映画館が急増している。個室で映画を見られるというもので、カップルやグループでの利用を見込んでいる。しかし、なぜか大学のそばに集中することが多く、個室の中で何が行われているかわからず、社会問題化しようとしていると一起拍電影が報じた。

 

プライベート映画館が1万6000軒

中国の各都市で、プライベート映画館が増えている。3時間100元前後(約1500円)で個室を借りることができ、ゆったりと映画を楽しむことができる。多くの場合、食べ物や飲み物などを注文することができる。2人で映画を見る場合と比べて、少し割高になるが、周りを気にすることなく、楽しめるので、決して高いという感覚はない。

プライベート映画館は、2013年には100軒程度しかなかったが、2018年には1万6000軒に達し、特に学生の多い大学近辺に集中しているという。

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▲あるプライベート映画館の個室。チープだが賑やかで、女性が好みそうな内装になっている。この感覚は、日本のラブホテルとよく似ている。

 

安全基準をクリアしていない非合法プライベート映画館も

この1万6000軒という数字はプライベート映画館の業界団体が補足をしているものだけで、実態はその数倍以上はあるのではないかと言われている。なぜなら、プライベート映画館の営業は合法とも非合法とも言えないグレーなものだからだ。

中国では2017年3月から「映画産業促進法」が施行されていて、映画館を営業するには政府が定めた設備や安全設備の基準をクリアしなければならない。このようなプライベート映画館は、マンションやオフィスビルなどの一室を利用したもので、規定をクリアしていないものも多い。そのため、多くは、バー、喫茶店、ビリヤード場などとしての営業許可を取得し、「映画も放映している」体裁を取っている。

このような営業形態をとっているため、放映する映画も権利処理されていない海賊版であることがほとんどだ。

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▲プライベート映画館のメニュー。ほとんどが誰でも使える映像配信系アプリ。日本で言えば、NetflixやHuluが利用できる感覚だ。それでも大学生たちが利用するのは、プライベートな空間を求めているからだ。

 

人件費が安く済むプライベート映画館

プライベート映画館は、ネットカフェやカラオケ(KTV)から改装しているパターンが多いという。なぜなら、運営スタッフが少なくて済むからだ。KTVでは技術スタッフが必要で、さらに盛り上がる場所なので騒ぎも起こり、警備スタッフも必要になる。また、大量の接客スタッフも必要になる。接客スタッフは、違法なカラオケ店では性的なサービスも提供するが、健全店でも一緒にカラオケを楽しむコンパニオン、料理やドリンクを届けるスタッフなどが必要だ。消費金額が大きいので、繁盛をすれば大きな利益が期待できるが、客が少ないと固定費がかかるために損失も大きい。

ネットカフェは、接客スタッフは不要だが、しばしばネットにトラブルが起きるので技術スタッフは必要。一方で、プライベート映画館では、多くの場合、大型のスマートテレビを設置するか、タブレットをプロジェクターに接続しているだけなので技術スタッフも不要。同規模のネットカフェを運営するには常時7人のスタッフが必要だが、プライベート映画館であれば5人で済むという。

 

恋人たちにラブホテル代わりに使われている

プライベート映画館で見られる映画は、動画サブスクサービスで見られるものばかり。日本で言えば、HuluやNetflixのようなサービスを使えるだけで、新作映画が放映されていることはほとんどない(海賊版を放映し、新作映画が見られることをウリにしているところもある)。つまり、自宅やスマホで見られる映画が見られるだけだ。それでなぜ多くの人が利用するのか。

個室の中でどのようなことが行われているかは、誰も見ることができないが、利用者のほとんどは学生カップルで、場所によっては同性愛カップルもよく見かけるという。つまり、恋人たちのラブホテル代わり、個室喫茶代わりに使われているのだ。

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▲安全基準、海賊版、個室内の風紀など、プライベート映画館は多くの問題を抱えている。当局も警戒を強めていて、営業停止になるプライベート映画館も増加している。

 

大学生に不足をしているのはプライベートな空間

中国のホテルは、未だに利用するのに身分証の提示が必要で、すでに形骸化しているとはいうものの、法律上は、未婚の男女が同室に泊まることはできないことになっている。大学生は今でも学生寮に入ることが原則になっていて、学生寮は4人から6人が同室になる。プライベートな空間はほとんどない。そのため、若い恋人たちは、プライベート空間を求めている。その需要がプライベート映画館を生んでいる。

しかし、営業許可の問題、放映する映画の版権処理の問題、個室内部での風紀の問題など、問題は多く、各都市の当局は警戒を強めている。実際、海賊版映画を提供していた、営業許可書に不備があるなどの理由で、営業停止になるプライベート映画館も出始めている。