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太陽エネルギーで自力飛行する「空中WiFi基地局」。大規模災害時にネット回線を提供

陝西省西北工業大学は、ソーラーバッテリー駆動の無人飛行機を開発した。この無人飛行機「魅影」は、WiFiルーターとして機能し、災害時の通信確保、屋外での学習活動などへの活用が考えられていると西安新聞網が報じた。

 

太陽光で無限に飛行ができる「空飛ぶWiFI基地局

この「魅影」(メイイン)は、西北工業大学航空学院のチームが10年がかりで開発をしてきたもの。翼長は7m、機体長は1.2m、重量16kgで、翼には太陽電池が貼られ、太陽光発電の電力を使って、太陽光がある状況下では、事実上無限に飛行することができる。

この魅影の最大の特徴は、WiFi基地局として機能することだ。携帯電話の信号を受信し、これをWiFiで地上にネット回線を提供する。500mの高度の場合、300平方kmの範囲が圏内とすることができ、1機で広範囲にネット環境を提供できる。通信距離は最大50km、巡航高度は500mから3000m、最大高度は9000m。

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▲空中を飛行する魅影。高度500mで、300平方kmの広範囲にネット回線を提供できる。

 

痛ましい四川大地震災害から学んだ西北工業大学チーム

この西北工業大学のプロジェクトが始まったのは、2008年に起きた四川大地震がきっかけだ。死者6万9197人、負傷者37万4176人、行方不明者1万8222人、避難をした人が1514万7400人と、中国最大級の災害となった。

災害規模が大きくなった理由には、建築物の手抜き工事などさまざまな要因があるが、多くの携帯基地局が倒壊し、広範囲で携帯電話が不通となったため、救護、救援が遅れたということも大きい。

西北大学では、この経験から、「空中WiFi基地局」の開発を始めた。電波は放射状に広がるため、空中に基地局を設置することで、地上の広範囲をカバーすることができる。携帯電話ネットワークの信号を受信し、これをWiFiとして提供する構想で、信号強度の問題や、飛行体などの研究をしてきた。

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▲2008年に起きた四川大地震。死者7万人という大災害だった。携帯電話が広範囲で、長期間不通となり、救助、救援に大きな支障が出たことも、被害を大きくした一因だった。

 

19.5時間連続飛行の新記録。まだまだ伸び代がある

黄土高原、チベット高原などですでに試験飛行を行っていて、スマートフォンを利用するのにじゅうぶんな強度の信号を約300平方kmに提供できることが確かめられ、また飛行時間も19時間34分を記録した。これは、現在のところ、中国の無人飛行機の連続飛行時間記録になっている。

チームの一人、西北工業大学航空学院飛行器設計専攻の博士課程学生の郭安氏によると、19時間34分の記録は、2018年秋の黄土高原で記録したもので、秋という太陽光のやや弱い時期のものであるので、条件が整えば、まだまだ記録は延ばせると言う。また、冬にはだいたい10時間程度の飛行になる。2019年初めには、チベット高原で7級の強風が吹く悪条件下のもとで16時間の記録を打ち立てている。

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▲試験中のコントロールセンターに座るチームメンバー。すでに100回以上の試験飛行が行われ、運用開発のステージに入っている。

 

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▲西北工業大学の魅影チーム。19時間34分連続飛行の新記録を作った時の記念写真。

 

運用を見据えた開発が始まっている

すでに、中国西部の高原地帯を中心に100回以上の試験飛行を行っていて、現在は運用を見据えた開発ステージに入っている。機体は折りたたみ式で小さくなり、運搬しやすくなっている。さらに、ボタンひとつで起動をし、設定した座標に自動で向かい、バッテリーが消耗してくると設定した場所に自動帰還する機能も加わっている。

また、搭載機器を赤外線カメラなどに変える機能の開発も始まり、災害支援だけでなく、野外研究、野生動物保護、歴史的遺物保護、スマート農業などさまざまな領域で活用するための研究も始まっている。

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▲試験飛行の準備に入る魅影。全長7mの翼は太陽電池になっていて、自力でエネルギーを供給する。無限に自力飛行できることが目標だ。