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外売を活用して、個人食堂で年商7000万円。成功の秘訣は「変わること」

北京の裏通りにごくありふれた食堂「小厨小菜」はある。しかし、外売を活用し、1日に1000件以上の出前をさばき、年商は7000万円という個人食堂としては異例の売上を上げている。その秘訣は、時代の変化に合わせて変わっていくことだと老板商業学が報じた。

 

外売の普及で、撤退する飲食店、成功する飲食店

中国の都市部では、美団(メイトワン)、餓了麼(ウーラマ)などの外売(フードデリバリー)が定着をしている。日本のウーバーイーツと同じように、さまざまな飲食店の料理が注文でき、出前をしてくれるサービスだ。飲食店から配送料を取ることで収益を上げている。

最近では、配送手数料が上がりつつある。以前は10%以下であったものが、最近では20%前後に高騰している。このため、外売から撤退する飲食店もあるほどだ。

一方で、外売を活用することで、大きく成長した飲食店もある。北京市大鐘寺にある食堂「小厨小菜」も成功組だ。現在では、毎月5万件の外売り注文があり、月の売上は50万元から60万元にもなる。閑散期もあるが、それでも年商は500万元(約7000万円)を超えている。

しかし、小厨小菜は立地も悪く、個人営業の食堂にすぎない。なぜ、成功できたのだろうか。

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▲李さんの食堂「小厨小菜」。北京市の裏通りにあり、とても流行っている食堂には見えない。しかし、ウーラマを活用し、1日に1000件以上の出前があり、年商は7000万円を超えるという個人食堂としては異例の売上を上げている。

 

儲からない食堂で、出前に挑戦した店主

小厨小菜のオーナーは、1983年に安徽省で生まれた李某(仮名)。18歳から働き始め、2011年に北京市に「小厨小菜」を開いた。

李さんは、小さい頃から映画が好きで、香港や日本の映画を見ていた。その中で、出前や仕出し弁当の習慣を見ていて、それが強く印象に残っているという。18歳から上海の食堂で働き始め、ウェイターからコックになった。しかし、その店は桂林ビーフンの専門店という特殊な店であったため、昼時でも客は2、3人しかいない。どうやって高額の家賃を支払っているのが不思議だったという。これで生き残っていくには、出前をするしかないと感じていた。

それから李さんは北京に移り、コックとして働きながら資金を貯め、2011年、28歳の時に北京市大鐘寺に自分の食堂「小厨小菜」を開いた。しかし、好立地ではなかった。それまで4店の食堂が営業して、4店とも倒産していたような場所だ。北京市の下町の外れで、しかも裏通りに面している。近所のお客しかやってこない場所だ。しかも家賃は1ヶ月1万6000元もするのに、150平米しかなかった。厨房を除いた店舗スペースには10卓を並べるのがせいぜいで、これでは1日5000元の売上を上げるのがやっとになる。

そこで、李さんはチラシ広告を使って、電話での出前を取ることにした。出前注文が1日60件ほどある。それは決して悪くない数字だった。

 

出前は効率が悪すぎて大赤字

しかし、まったく効率が悪かった。1件の出前の処理に20分も時間がかかるのだ。電話を受け、配達をし、戻ってくる。近所であっても20分かかる。1日の出前が60件ということは、1人でやったら20時間もかかることになる。

李さんは15人もの従業員を雇って、シフト勤務させていたが、出前はまったくの赤字だった。中国の多くの飲食店が出前ではなく、外売をしている。外売とはテイクアウトのことで、自宅で食べたい客は飲食店まで赴き、自分で持って帰る必要がある。これであれば、出前のように効率は悪くならない。李さんが子どもの頃、映画の中で見た出前は、まったく効率の悪い、儲からないビジネスだったのだ。

今普及している外売サービスとは、このような飲食店の外売を買いに行く代行をしてくれるサービスなのだ。

 

外売に活路を見出した店主

悩んでいた李さんが、北京の五道口でフライドチキンとハンバーガーの店を開いている経営者にその話をしてみると、その店では昼間だけで300件の出前を受けているという。驚いた李さんがどうしてそんなことができるのだと尋ねると、そのファストフード店の経営者は、ウーラマの存在を教えてくれた。

李さんはすぐにウーラマと契約をした。すると、1件の出前が1秒ですむ。電話を受ける必要はなく、スマートフォンにどんどん注文が入ってくる。それを見て料理を作れば、あとはウーラマの配送員が取りにきてくれ、届けてくれる。お店の負担は、1件の出前が1秒程度。配送手数料は取られるが、これは安いと感じた。しかも、ウーラマのアプリで検索されるため、小厨小菜の1日の出前件数は、あっという間に200件に増えた。

 

外売を使うことで、出前が利益の出るビジネスになった

李さんは、当初、外売の注文量を全体の20%に抑えるようにしていたが、すぐに50%になり、今では90%が外売となり、あたかも外売専門店であるかのようになっている。外売りの注文は1日に1000件を超え、休日には注文が増えるので、1月では5万件になる。これで年商500万元を達成した。

以前の出前時代は、自分で宣伝をしても、消費者は知らない食堂にはなかなか出前を頼まない。結局、お店にくる人が、出前を頼むことが多く、利益を生み出す施策というよりは、常連客へのサービスのひとつでしかなかった。それがウーラマを利用することで、外売が利益を生み出す主力の事業となることができた。

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▲小厨小菜がある通り。観光客はまず行かない裏通り。近くに大きなマンションもオフィスビルもない。この通りにある他の食堂も、小厨小菜を見習ってウーラマや美団の外売サービスを始めている。

 

勉強家になった店主

それでも、ただウーラマと契約すれば売上が伸びてきたわけではない。ある大雨の日に、50件以上もの注文の料理が、1時間半経っても配達されないということがあった。多くの顧客が途中でキャンセルをしてきたが、料理はすでに作ってしまっているため、李さんはそれだけで3000元の損失を出してしまった。

この痛い経験をして以来、李さんは勉強家になった。いつもスマホを開いて、ウーラマの注文データの動きを把握する。同時に、飲食関係の業界ニュースに目を通し、ネット業界のニュースについても読むようにした。わからないことがあると、本を買ってきたり、ネットの資料を見て、暇さえあれば勉強をした。

 

料理作業を標準化することで、品質と効率を上げる

そして、李さんは、どうして遅配が起きてしまったのかを分析した。そもそも、料理を作るのにかなりの時間がかかっていた。それまで、料理はすべて李さんが作っていたが、それをやめて、複数のコックに任せるようにした。ただ複数のコックに作らせたのでは、味も量もばらつきが出てしまうので、材料の分量、調味料、火を通す時間、温度などを厳格に標準化した。材料は、一人分を作るのに必要な量を小皿に用意しておいて、作るときはそれを鍋に入れればいいだけにした。

李さんは「工場化した」という言葉を使っている。経験のないコックが作っても、決められた時間内に作ることができ、仕上がりの味と量も同じになる。李さんは、仕込んだ原材料の品質を管理し、プロセスが正しく行われているかを管理する。これで厨房内の無駄な時間がなくなり、最短時間で料理が作れるようになり、同時に品質も挙げることができた。

 

ウーラマと共同で、配達体制もシステム化

さらに、李さんはウーラマと協議をして、小厨小菜の専門チームを作ってもらった。ピーク時には20名が配送を行う。

20名にただ配送させるのではなく、配達先のヒートマップを作り、配送が多い地域には配送員を常駐させ、ゾーン制を取り入れた。店舗周辺の近隣地区担当者は、近隣への配達も行うが、「ゾーン」への配送も行う。ゾーンで待機している担当者は、料理を受け取って、各戸に配送するというリレー方式で配達をする。

配送する件数は昼と夕方にピークがあり、時間により異なっていく。さらに、企業の多い地域では平日の夜に注文が多く、大学が多い地域では週末の昼から夜にかけて注文が多い。これも過去のデータを参考に、必要な人員を割り出し、どのゾーンであっても25分に1回はリレーが行われるようにしている。

 

新しい仕組みに対応をしていく。それは商売の基本

昨2018年の実績は、利用者がウーラマアプリで注文をしてから、自宅に届くまでの平均時間は55分だった。今年2019年は平均47分で推移しているという。また、料理のパッケージも、以前はごく普通のプラスティックパックだったが、これでは空間ができ、かさばることもわかったので、料理がぴったりと収まるものに変えた。

小厨小菜の隣には、モツ煮込み料理の店がある。その向こう側には成都料理の店がある。そこの経営者も、小厨小菜の繁盛ぶりを見て、外売をやってみたいと教えを請いにきた。李さんの知り合いの同業者の7割ほどは外売に対応している。

外売に対応したために、ウーラマなどに手数料を支払わなければならくなり、利益率が悪化したため、価格を値上げする。それが常連客が離れる原因となり、倒産をするという料理店も多く存在する。しかし、それは外売という新しいスタイルに対応することを怠り、来店する客だけで商売が成り立っているかのような錯覚をしているからだ。

李さんは言う。注文スタイルが変われば、それに合わせて消費者の考え方も変わっていく。料理店を経営していくためには、その変化を捉えて、自分が変わっていかなければならないのだと。それができない、あるいはしない経営者は、いつの時代であっても、時代から取り残され、消えていくしかない。それは今の時代特有のことではなく、長い歴史の中で、繰り返されてきた商売の歴史なのだ。

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