中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

農村の壁にITサービスの広告。変わり始めている農村の経済

近年、農村の壁面広告にITサービスの広告が目立つようになっている。従来は、共産主義スローガンなどが描かれていた場所だ。農村にITサービスが浸透し始め、同時に現金収入のある仕事ももたらし、農村の経済を変えようとしていると天下網商が報じた。

 

・ECの2つの成長空間ーー生鮮食料品と地方都市

中国の農村にいくと見ることができる壁面広告。壁に大きな文字を描いた広告だ。改革開放以前には、「毛主席に従い前進だ!」のような共産党スローガンが描かれていた。しかし、現在はIT企業の広告が描かれるようになっている。

その理由は、ITサービスは、都市市場ではすでに飽和をしていることだ。特に都市部のECはすでに飽和状態で、これ以上の成長は厳しい。そのため、2つの成長空間が注目をされている。1つは日用の生鮮食料品への進出、もうひとつは地方都市への進出だ。

ECは生鮮食料品を扱うために、配送拠点を住宅地の中に置く毎日優鮮(テンセント系)、ディンドン(スタートアップ)などの生鮮EC、あるいは店舗と配送拠点を兼ねる「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ、アリババ)などの新小売スーパーなど、今までになかったビジネスが生まれてきている。

もうひとつが地方都市、農村への浸透だ。中国の3級以下の都市の人口は6億人を超えている。この広大な市場を取るために、壁面広告が有効な手段だと考えられている。

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▲アリペイの広告。「列車の切符を買うのに、アリペイを使えば行列をする必要がない。スマホで無料でダウンロードして、使うことができる」というもの。

 

農村に生まれた壁面広告制作業

天下網商は、河南省安徽省などで、このような壁面広告を制作している馬龍さんを取材した。朝5時に起きて、ペンキなどの調合をし、それをトラックに乗せて、目的地まで200kmほどを走る。朝早く出発するのは、トランクのナンバーにペンキが被り、見づらくなっているため、交通警察に止められて切符を切られることを避けるためだ。違反を取られると、200元(約3000円)の罰金になる。

3時間ほど走って、あらかじめ持ち主に許可を得ている壁を探し、広告主から指定された文字を描いていく。文字は型紙を使って、ペンキを塗っていくだけなので、壁の場所を確認と準備に30分、描くのに30分程度で済む。その地区の広告をまとめて作業するので、1日10時間ほど働いて、15カ所程度を完成させるのが標準だ。意外に忙しい。

収入は、1平米10元程度が標準で、1日の収入は1000元(約1万5000円)ほどになるという。しかし、そこからアシスタントに200元の日当、その他、ガソリン代、高速代、食事代などの支払わなければならない。決して生活は楽ではない。

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▲仕事に出かける馬龍さん。トラックはペンキだらけだが、貴重な現金収入が得られる仕事になっている。

 

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▲壁面広告は、あらかじめ型紙を作り、その上からペンキを塗っていく。30分ほどで作業は終わる。

 

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▲作業中の馬龍さんたち。農村では儲かる職業のひとつだが、ペンキまみれになるのがつらいところ。まとめ買いECサイト「蘇寧拼購」の広告。

 

農村への浸透へは壁面広告が鍵

このような壁面広告は、元々村人たちが共産主義に対する忠誠度を示すために、共産主義スローガンを壁に描いことが始まりだ。

しかし、改革開放以後、この壁面広告を企業広告に利用する企業が現れた。1994年に、三株集団が自社の乳酸菌などが配合された栄養補助ドリンク「三株口服液」を宣伝するために、壁面広告を使い、さらには電柱、ガードレール、トイレの壁面にまで広告を出しまくった。

これにより三株口服液は売れに売れ、1996年には80億元(約1200億円)の売上をあげた。購入者の60%は農村の住人だったという。しかし、その年に、湖南省常徳市のある老人が、頻尿を直そうと三株口服液を10本買って、そのうちの8本を一気に飲んでしまい、たんぱく質アレルギーを起こして死亡するという事件が起きた。その後も虚偽広告の問題が指摘されるなど、三株集団は最終的に破産をしている。しかし、「農村に売るには壁面広告」という事実は残った。

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▲三株口服液のポスター。健康補助飲料である三株口服液は、当初、農村の壁面広告を利用することで、農村で爆発的に売れるという成功をした。

 

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▲三株口服液の壁面広告。90年代には農村のあちこちにこの広告があった。シンプルな広告だが、名前が知れ渡り、ヒット商品となった。

 

IT企業が注目する農村の壁面

この過去の事例に目をつけたのが、農村市場に浸透しなければならないIT企業だった。

広告を制作している仕事をする馬龍さんによると、今、農村で話題になっている広告は小米と蘇寧併購の広告だという。このようなIT企業の壁面広告は、昨2018年から急激に需要が増え、餓了麼(ウーラマ、フードデリバリー)、農村タオバオ(農産品EC)、今日頭条(ニュースアプリ)、快手(動画共有)、天天快報(ニュースアプリ)などが積極的に壁面広告を出しているという。

壁面広告を扱う企業、河南地平線伝媒によると、中国全土には31万カ所の壁面広告に適した壁が存在し、2018年には地平線の売上は6000万元(約9.1億円)を超えたという。壁面広告を扱う企業も増えており、今年2019年初めの農村タオバオの広告では、6業者のコンペになったという。

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▲農村タオバオの広告。豚舎の管理用のカメラを宣伝している。

 

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ECサイト「Tmall国際」の広告。Tmall国際は輸入品に特化したEC。農村でも輸入品をECで購入する人がいるということだ。農村もゆっくりとだが、経済的な余裕が生まれ始めている。

 

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▲小米の壁面広告。小米(シャオミー)のテレビは、よく売れている。農村でも経済的に余裕のある人はスマートテレビを購入している。

 

ウーラマは人材募集の広告で成功

このような壁面広告は、商品広告だけではない。外売(フードデリバリー)のウーラマでは、今年2019年の春節時に、人材募集の壁面広告を出して成功している。「ウーラマの配達員になると、家にいる奥さんも安心」というもので、安定した収入が得られることをアピールした。このような広告を、4月にようやく貧困県から脱出することができた安徽省阜陽市の潁上県に集中をして掲示した。

この広告を出すと、ウーラマの潁上ステーションでは電話が鳴り止まず、多くの農民がウーラマの配送員に応募してきた。潁上ステーションでは、新規に220人を雇用する計画だったが、それが達成できる見込みが立ったという。

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▲外売「ウーラマ」の人材募集広告。「ウーラマの配達員になると、家の奥さんももう機嫌が悪くならない」というもの。

 

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▲ウーラマの潁上県のステーションでは、サービスの拡大に伴い、人手が必要となっていた。農村に壁面広告を出すことで人材を確保することができた。

 

ITサービスが農村に浸透し、仕事も持ってくる

農村は食物は豊富にあるものの、現金収入の道がほとんどない。しかし、子どもを学校に通わせるのには現金がいる。そこで、90年代は、多くの農民が都市に出稼ぎに出て、農民工として働いた。

しかし、5年ほど前から都市への流れが緩やかになっている。今の農民は、農村に住みながら、農業の他に、現金収入が得られる副業を探すようになっている。そのようなニーズに対して、ウーラマの配送員はうってつけの仕事なのだ。

今後、ITサービスが農村にも浸透していくことで、農村近くの地方都市では、このようなIT関連の仕事が増えていくことになる。農民の現金収入が増えることで、ますますITサービスは農村に浸透していく傾向が強まる。このサイクルが、農村の貧困問題を解決する道のひとつになるのではないかと期待されている。壁面広告はそのきっかけを作るメディアとして機能している。

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