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「SNS映え」する網紅食品は、あだ花か、それとも長期トレンドか

中国で若者向けのスイーツ、ドリンクを中心に「SNS映え」する網紅食品が人気になっている。これは一時の流行だろうか、それとも長期トレンドとなるのだろうか。SNSによる拡散は、断片化されたブルーオーシャン市場を発見するツールであると人人都是産品経理が解説した。

 

ネットから火がつく「網紅」商品

網紅食品とは、日本でも流行するタピオカミルクティーのように、味もさることながら「SNS映え」することで、拡散をし、人気となっているスイーツ、ドリンクなどのこと。網紅とは元々、ユーチューバーなどネットで人気を得た人のことを指すが、SNSで拡散することにより人気になった食品にも、この網紅という言葉が使われるようになっている。この他、網紅レストラン、網紅カフェ、網紅ホテルなどの言葉も使われる。

 

業界人も無視できない網紅食品の爆発的流行

中国でも、このような網紅現象が、単なる一時的な流行であるのか、それとも若者の消費トレンドの軸になっていくのは議論されている。業界が無視できないのは、その爆発的な売れ行きがあるからだ。

2019年、「咸蛋黄雪糕」というバーアイスが登場した。食品各社が同類製品を発売するというブームになっている。本格的なものは、卵の黄身を使い、周りをアイスクリームで覆ったもので、アイスクリームとケーキの中間のような味わいだ。今まで食べたことがない味わいと、見た目の可愛さから爆発的なブームになっている。2019年上半期の売上は4000万元(約6億円)を超えている。

しかも、このような網紅食品は、中小企業やスタートアップが考案をし、それを大手が追いかけるという構図になることが多く、業界地図を様変わりさせるきっかけにもなる。食品業界にとっては無視ができない存在になっている。

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▲卵の黄身を使ったアイス「咸蛋黄雪糕」。見た目の可愛さと、アイスとケーキの中間のような味の不思議さでヒット商品となっている。

 

続々と登場する網紅食品

喜茶(ヘイティー)の成長が、大きく注目されている。2012年に創業された喜茶は、岩塩入りクリームチーズをトッピングしたアイスティーで人気となり、どの店でも数時間の行列となり、並ぶ若者たちはその行列すら楽しんでいると言われるほどブームが過熱している。

また、あまりにも臭いという話題の螺粉(ルオシーフェン)もブームになっている。麺料理だが、タニシのスープで出汁をとる広西省の料理だ。タニシ独特の臭みがあるため、大量の香辛料をうまく使わないと、臭くてまずく食べられないものになってしまうという。そのため、美味しく仕上げている店、インスタント出汁などが話題となり、「臭いけれど病みつきになる美味しさ」なのだそうだ。

また無糖の飲料を専門に販売するブランド「元気森林」の「元気水」(無糖スパークリングサイダー)、見た目がユニークで、口あたりが優しいアイスクリーム「鐘薛高」(ジョンシュエガオ)などが網紅食品と呼ばれる。

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▲若者に人気のカフェ「喜茶」のドリンク。岩塩入りクリームチーズ入りアイスティーで有名になったが、パッケージの可愛さも人気の秘密。これを飲んでいるセルフィーをSNSに投稿することがブームになっている。

 

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▲見た目はどうと言うことのない麺だが、タニシの出汁が使われた螺粉。独特の臭みがクセになると、SNSで話題になりヒットをした。

 

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▲「元気森林」の「元気水」。無糖のゼロカロリースパークリングサイダー。中国の公式サイトでも、なぜか日本語が使われている。中国人にとって、日本は健康的で添加物や化学調味料を使わない食品を口にしているというイメージがあるようだ。

 

今までになかった新奇型網紅食品

人人都是産品経理では、このような網紅食品を2つに分類している。1つは新奇型、もうひとつはアップグレード型だ。

新奇型の特徴は3つ。

1)味や見た目が明らかに今までとは違う

2)価格は高くなく、気軽に買って試してみることができる

3)ターゲットは若者で、魅力的でSNSで拡散したくなるパッケージ、ロゴを使う

ヘイティー、咸蛋黄雪糕、元気森林などがそうで、昨年では「椰子灰」などがある。

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▲見た目がモノトーンとインパクトのある「椰子灰」。香料、着色料を一切使っていないことを表現するために、このルックスになっている。見た目が面白いだけでなく、健康的なアイスであるということからも人気になっている。

 

健康志向のアップグレード型網紅食品

アップグレード型は、既存の食品の問題点を解決したものだ。例えば、元気水は「糖分を使わない飲料」として、健康志向の若者に訴えかけている。椰子灰は新奇性があるだけではなく、添加物を一切使用していないことも売りにしている。着色料を使っていないということを表現するために、モノトーンという奇抜なアイスクリームになっているのだ。

アップグレード型の特徴は4つ。

1)既存の消費傾向に沿った食品だが、主に無添加、無糖など健康面が大きく異なっている

2)既存の食品よりも価格が高くなる傾向がある

3)パッケージは清潔で高級感があることが多く、材質についてもエコを意識している。

4)ターゲットは新興中産階級で、消費力が高めの人たち

つまり、アップグレード型は、日本のトクホ食品に近いイメージだ。ネスレの一般のアイスクリームは100gあたり6.8元だが、網紅食品である鐘薛高は15.4元と2倍以上する。それでもよく売れている。

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▲アイスが層構造になっているので、食感が面白い「鐘薛高」。高級アイスで、贈答品にも使われている。

 

網紅食品は一時の流行でも、網紅経済は長期のトレンドとなる

このような網紅経済は一時のあだ花ですぐに消えてしまうものなのだろうか、それとも今後の長期的なトレンドとなっていくものなのだろうか。確かに、網紅食品のひとつひとつを見れば短期で消えてしまうものも少なくない。しかし、網紅経済という考え方は、これから必須のものになっていくと人人都是産品経理は言う。なぜなら、商品企画の基本は差別化であり、他者との違いを消費者に伝えることによって製品が売れている。SNSは、その差別化内容を伝えるのにもっとも適したメディアであるからだ。

 

SNS拡散は断片化された市場を発見するツール

創業2年で3000店舗展開に迫り、ナスダック上場を果たしたカフェチェーン「ラッキンコーヒー」は、網紅食品ではないが、モバイルオーダーという利便性が高い方式がSNSで拡散し、人気を得ることに成功した。専用アプリにも、「1杯購入で1杯無料」クーポンなど、ソーシャルマップを利用して、ラッキンコーヒーのブランドが拡散していくような仕掛けが施されている。

そのラッキンコーヒーの銭治亜CEOは、こう述べている「どのような業種でもネットを活用することをもう一度考えてみるべきです。食品業界で言えば、どの製品であっても、網紅食品という方式を考えてみる価値があります」。

網紅食品というのは、伝統的な産業で古くから行われてきた「差別化」の現代的な手法のひとつなのだと言う。レッドオーシャンと考えられている伝統的な食品であっても、網紅食品の視点で考えることで、断片化されたブルーオーシャンを発見できる。それが小さな市場であれば、すぐにレッドオーシャン化して、短命で終わってしまうかもしれないが、そこから広大な市場につながっていたり、あるいは広大な市場を創り出すことができるかもしれない。

網紅食品は決して一時の現象ではなく、今後もさまざまな網紅食品が登場してくることになる。