中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

アフリカだけで売れている中国携帯メーカー「伝音」

アフリカの携帯電話市場の70%以上のシェアを持っているのはTranssion。これは中国携帯電話メーカー「伝音」のグローバル名だ。伝音は中国やアジア市場では販売をせず、アフリカ市場に特化して成功した。その要因は、徹底したアフリカ仕様を研究したことだと爆米花科技が報じた。

 

アフリカで7割のシェアを握る中国携帯電話メーカーTranssion

世界市場でのスマートフォンシェアと言えば、以前はサムスンとアップルが首位を競っていたが、この数年でファーウェイが食い込んできている。また、途上国などフィーチャーフォンがまだ強い地域では、ノキアも上位に入ってくる。

ところがアフリカでは、まったく様相が違う。調査会社Counterpointの2019年第1四半期の統計によると、1位はItel(36%)、以下Tecno(35%)、ノキア(10%)、サムスン(2%)と続く。ItelとTecnoは、いずれもTranssionのブランドなので、Transsionがアフリカ市場の71%を握っていることになる。

このTranssionは、中国の携帯電話メーカーで、アフリカ市場に特化をし、2018年には1.24億台の携帯電話を販売している。これだけで、世界市場のシェアは7.04%となり、あとわずかで世界市場統計の「その他」から脱出して、名前がランキングに登場することになる。

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▲調査会社Counterpointの2019年第1四半期の携帯電話シェア。左がグローバル市場、右がアフリカ市場。アフリカ市場では伝音のItelとTecnoが圧倒的に強い。グローバル市場でも、Tecno、Itelは「その他」を抜け出し、ランキングに名前が登場するようになっている。ほとんどがアフリカでの販売台数だ。

 

アフリカ市場に特化した中国メーカー「伝音」

このTranssionは、広州市に拠点を置く携帯電話メーカー「伝音」。創業者の竺兆江(ジュー・ジァオジャン)は、2006年まで中国の携帯電話メーカー「BIRD」で、海外市場販売の責任者をしていた。BIRDは日本ではあまり名前が知られていないが、フィーチャーフォンの時代である2000年から2005年の間、中国市場でのトップメーカーだった。

ところが、深圳を中心にした山寨メーカー(権利関係を無視して携帯電話のコピー、改造を行うメーカー)が技術力をあげ、市場を蚕食され、一方でスマートフォンが登場し始めて、BIRDの業績は急落をした。そこで、竺兆江は離職をして、起業をすることにした。

竺兆江は、中国国内市場以外に活路を求めようと考えた。中国市場には、サムスンなどの海外メーカーの機種が中国市場に入ってきて、とても太刀打ちできないと感じたからだ。

竺兆江が目をつけたのはアフリカ市場だった。アフリカの携帯電話市場は、5年前の中国市場とよく似た状況だった。アフリカ市場にも、中国の山寨機が大挙して進出を図ったが、品質にバラツキがあり、アフリカ各国の政府も規制をかけたため、中国産の携帯電話は伸び悩んでいた。竺兆江の目には、山寨機が存在せず、スマートフォンもまだ入っていない市場に見えたのだ。

竺兆江は、価格などでターゲットを変えたtecno、Itel、Infinixの3つのブランドを立ち上げ、アフリカ市場に本格的に進出をすることにした。このうち、tecnoが最初に受け入れられ、それ以来、伝音はアフリカ市場に特化している。

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▲アフリカの街中にはTecnoの広告が並んでいる。サムスンの広告もあるが、シェアは2%程度でしかない。

 

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▲伝音の創業者、竺兆江氏。競争の厳しい中国市場を避け、空白地帯だったアフリカ市場に特化したことが成功の要因となった。

 

アフリカ市場向け機能を徹底研究

竺兆江が力を入れたのは、「低価格」「ローカライズ」「営業力」の3つだった。自らアフリカに常駐し、販売網を構築していった。特にローカライズでは、専門の研究チームを立ち上げ、アフリカ人に歓迎される機能改善を行っていった。

例えば、起動した時の音楽は長い方が歓迎される。呼び出し音は大きくなければならない。それがアフリカ人の好みだった。

さらに、暑いアフリカでは、防水よりも、防汗が重要だった。携帯電話の表面が汗で濡れるため、滑り止め仕上げをすることも重要だった。電源がどこにでもあるわけではないアフリカでは、バッテリー容量も重要で、20日間は充電なしで使えるようにした。さらに、懐中電灯の機能も大いに歓迎された。

さらに、カメラには、美白効果ではなく「美黒効果」を搭載した。アフリカ人の肌の色は深いので、逆光の時に自撮りをすると、顔が暗くなりつぶれてしまうことがある。この美黒効果は、初期の顔認証技術を使って、目の位置と歯の位置を認識し、そこから顔の部分を推定し、その部分の明度を上げるというものだ。

また、アフリカでは複数のキャリアが入り乱れて、ある場所ではこのキャリアしか使えない、移動すると別のキャリアしか使えないということが多かった。そこで、伝音は、最高4枚のSIMカードを装着し、4枚同時に待ち受けできる機種も開発した。

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▲アフリカで受けている「美黒効果」。アフリカ人は肌の色が深いので、逆光で撮影すると顔が潰れてしまう。顔認識をして、顔の部分の明度をあげる機能が歓迎されている。

 

アフリカでは「国産機」扱いされているtecno

このようなローカライズの努力が実って、アフリカでナンバーワンの携帯電話になったのだ。伝音の強さの秘密は徹底したローカライズにある。アフリカ国内に生産拠点ももち、アフリカの多くの国では「国産」と認識されてもいる。中国ブランド、グローバルブランドがそのままの仕様でアフリカ市場に入ろうとしても、まったく寄せ付けない地位を伝音は築いている。

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▲Tecnoは中国メーカーだが、アフリカ各地に現地工場を設立し、現地生産も始めている。アフリカでの雇用にも寄与し、多くのアフリカ人から「国産スマホ」と認識されている。

 

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▲竺兆江は、アフリカ市場に進出するために、自ら竺兆江に駐在し、販売網を築いていった。各都市にTecno専用ショップができている。