中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

台湾から中国への人材流出が止まらない。理由は高報酬、高待遇、やりがい。

台湾から中国へのエンジニア人材流出が止まらない。すでに台湾人の9%が中国を生活拠点にしているという。流出の理由は高報酬、高待遇だけでなく、成長空間が広大な産業構造により、やりがいを感じながら働けるからだと聯合新聞網が報じた。

 

台湾のシリコンバレーからエンジニアが大量流出

台湾の半導体関係のエンジニアが、中国へ流出している。台湾のシリコンバレーとも言われる新竹サイエンスパークにある企業で、シニアエンジニアをしていた41歳のジェームズ・チェン氏は、一生、この新竹サイエンスパークで仕事をしていくのだと考えていた。なぜなら、ここには400ものハイテク企業が集まっているからだ。

ところが、現在は広東省にある中国企業で働いて6年目になる。台湾に帰ることは今のところ考えていないという。そういう台湾のエンジニアは多い。なぜなら、「大陸で3年働くと、台湾の8年分の報酬がもらえる」というのが常識になっているからだ。

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▲新竹サイエンスパークでは7000人の人材不足であるのに、100人ほどが中国企業に移籍をしたという問題を報じる台湾の報道番組。この番組では、中国の報酬は台湾の5倍と報道されている。

 

業務提携で出向、そのまま人材流出へ

どのくらいの台湾のエンジニアが中国企業に移籍をしているか、正確な統計資料は存在していない。しかし、エンジニアだけでなく、一般の人、学生など、台湾の人口の9%が中国を生活の拠点にしている。これは200万人になる。

台湾のエンジニアが中国企業に移籍をするのは、最近始まったことではない。以前からその傾向はあったが、この数年、それが顕著になり、目立つようになってきた。

中国は外資系企業への依存度を減らすために、戦略的に海外の人材を採用している。特に半導体産業ではその傾向が強く、以前から台湾企業との業務提携を進めていた。聯発科技(メディアテック)、威盛科技(VIAテクノロジー)、瑞昱(リアルテック)、台積電(TSMC)などの台湾の主要な半導体製造企業が、中国企業と業務提携、資本提携を進め、優秀な人材を出向させていた。

その次の段階として、中国企業は人材を直接雇用するようになっている。

中国企業は、日本や韓国の企業に対しても「提携→人材」という戦略を進めているが、台湾企業に対してはその進み方が速い。言葉の問題や文化の問題から、中国企業にとっても採用しやすいからだ。

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台北市から1時間ほどで行ける新竹市には、大規模な新竹サイエンスパークがあり、ここに台湾のハイテク企業が集合している。台湾のシリコンバレーとも呼ばれる。しかし、最近は中国への人材流出が大きな問題となっている。

 

高報酬、高待遇、やりがい

中国企業が台湾のエンジニアを引き抜く武器としているのが高報酬だ。台湾の人材リソース企業「104人力銀行」が、2018年に行った調査では、台湾の半導体製造企業の中間管理職の平均年収は200万台湾ドル(約700万円)だったが、中国企業で働く同程度の台湾人エンジニアの平均年収は450万台湾ドル(約1570万円)だった。「大陸で3年働くと、台湾の8年分の報酬がもらえる」という話は大げさではないことが裏付けられた。

陳さんの場合は、月に1回、台湾に帰り、家族に会うことも認められている。台湾に帰った時に、元同僚のエンジニアと会って、情報交換をし、中国企業へ誘う活動もしているため、出張扱いとなる。旅費宿泊費活動費などは経費扱いとなる。また、中国企業の株も報酬の一部としてもらっているという。

台湾のエンジニアにとって、このような高報酬、高待遇はもちろん魅力だが、それとともに、中国企業の方が働きがいがあるのだという。陳さんは言う。「台湾は大企業によって市場が占有されていて、新興企業が成長する空間はとても小さくなっています。しかし、大陸では成長空間が広大なのです」。


人民幣挖角戰!? 竹科職缺逾7000 守不住人才?!│中視新聞 20170915

▲この報道は2017年のもの。すでに大きな問題になっていたが、中国への人材流出はますます加速している。言葉や文化の問題で、中国企業も採用しやすいのだという。

 

台湾では大きな社会問題となっている

台湾のエンジニアたちは、自分の人生設計や仕事のやりがいを求めて、中国企業に移籍することを選択しているが、台湾メディアはこれを社会問題として捉えている。数年前から「優秀な人材の不足」が台湾産業の大きな問題となっていて、その理由は中国企業に人材が流出しているからだとしている。「台湾の人材流出は世界一」と報道している例もある。

台湾政府は、人材流出を止めるために、ハイテク産業の魅力を創造する政策を進めているが、これといった有効策がないのが現状だ。アジアのハイテク産業は、完全に中国を中心に回り始めている。