中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

「アリペイ」「WeChatペイ」「銀聯」のスマホ決済10年史(上)

中国には267種類ものスマホ決済が存在し、日本以上に乱立をしている。しかし、現在主流となっているのは「アリペイ」「WeChatペイ」「銀聯」の3つに絞られている。それはこの3サービスが激しい競争をして、消費者を惹きつける施策を矢継ぎ早に行っていったからだと電商報が解説している。

 

中国でもスマホ決済は乱立をしていた

中国でも、スマホ決済は乱立している。現在でも267種類ものスマートフォン決済が存在しているのだ。しかし、その多くは特定のサービスの中だけで使えるものだ。例えば、ECサイトの中だけで使える決済や、特定のスーパーチェーンの買い物、加盟している病院でのみ使える決済などだ。現在、ほぼどこでも利用ができるアリペイ(アリババ系)、WeChatペイ(テンセント)の2つも、元々はこのようなクローズドな決済システムだった。では、なぜ「アリペイ」「WeChatペイ」は、現在主流のスマホ決済に成長できたのだろうか。それは、銀聯を加えた3サービスが、競争をして、次々と消費者を惹きつけるサービスを追加し、消費者にとっての利便性を高めていったからだ。

電商報は、そのスマホ決済三国志の10年を振り返っている。

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▲2019年第1四半期のスマホ決済シェア。アリペイとWeChatペイが2強であることは間違いないが、その他に無数のスマホ決済が存在する。登録されているのは全部で267種類にものぼる。その中から、アリペイとWeChatペイが競争の結果、大きなシェアを握った。

 

SARSアウトブレイクから始まった中国のEC革命

中国にECサイトが登場したのは1998年だが、本格的な普及が始まったのは2003年だった。きっかけは2002年に起きた中国南部でのSARSアウトブレイクだ。香港がその中心地となり、8096人が感染をし、中国内外で774人が死亡した。これにより人々は街に出るのを控えるようになった。そこで注目をされたのが自宅で買い物ができるECだった。アリババはこの2003年にECサイトタオバオ」をスタートさせている。

タオバオとは「宝探し」の意味で、すぐに爆発的な人気となった。従来のECサイトと異なり、売りたい人と買いたい人をマッチングさせる仕組みであったために、商店から個人までが出品をしたため、大量の商品が驚くほどの低価格で出品されている。近所では買えない珍しい商品も出品されている。利便性よりもエンターテイメント性に多くの人が惹かれたのだ。

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タオバオの公式サイト。中国のキャッシュレス決済革命は、このアリババが運営するECサイトタオバオ」から始まった。

 

偽物、粗悪品問題を解決するために生まれた「アリペイ」

しかし、個人でも出品ができるため、当然ながら、偽物商品、不良商品なども混ざっている。この問題を解決するために2004年12月に生まれたのが、タオバオ内で使える通貨「アリペイ」だった。

購入者はまず必要な額のアリペイを購入し、商品を購入するときは、このアリペイを業者に送金する。しかし、業者はアリペイをすぐには受け取れない。商品が発送され、購入者の手元に届き、内容に問題がないことを確認して、業者はようやくアリペイを受け取ることができる。いい加減な商品を出品して、騙そうとしても、お金を受け取ることができないのでは意味がない。タオバオは、アリペイが導入されることで、安心して買い物ができるECサイトになった。

 

他社サイトまでネット決済を広げたアリペイ

当時、中国にはネット決済手段は事実上、銀行振込ぐらいしかなかった。クレジットカードはごく一部にしか普及をしていなかったし、銀聯デビットカードもネット決済には対応していなかった。

そこで、アリババは2005年から、タオバオ専用の決済システム「アリペイ」を他社のネット決済にも広げていった。中国工商銀行、中国農行銀行などと提携し、銀行口座から簡単にチャージができる仕組みを用意し、他社の旅行サイト、航空会社などのネット決済にも対応、さらには光熱費や通信費などのネット支払いもアリペイで決済できるようにしていった。

さらに、この時から、全額保証制度を始めている。利用者の落ち度があった場合を除き、システム上の問題などで損害を被った場合はアリペイが全額保証をする制度だ。

このような施策により、2008年8月にアリペイ利用者は1億人を突破した。当時のタオバオ利用者が8000万人であったので、アリペイはすでにタオバオの外でも使われるようになっていたことがわかる。

しかも、当時はまだスマートフォンを使っている人はごく少数で、アリペイはPCのみの対応だった。この当時の中国のインターネット人口はわずか2億人にすぎず、ネット利用者の半数がアリペイを使っている状況になっていた。ネット民にとって、アリペイはもはや「常識」になっていたのだ。

 

テンセントもネット決済に参入

アリペイから2年遅れた2005年に、テンセントもネット決済「財付通」をスタートさせ、当時中国人の多くが使っていたPC版SNS「QQ」の中で利用できる「QQ幣」のサービスが始まった。しかし、これはQQの中でのゲーム用アイテムなどを購入する通貨で、アリペイのようにQQの外に出ていく気配はまったくなかった。QQ利用者の間では有名で身近な決済システムだったが、ネットを使わない人にとってはまったく存在感がない状態だった。

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▲ペンギンのキャラクターが有名なテンセントのQQ。一時は14億人のユーザー数を誇る世界最大のSNSだったが、スマホ化に失敗をし、現在もPC中心に使われている。テンセントがすごいのは、QQをあっさりと諦めて、スマホSNS「WeChat」を始め、成功させたことだ。

 

銀聯もネット決済に参入、アリペイはワンクリック決済で対抗

この当時のアリペイの強力なライバルは、銀聯だった。銀聯は銀行が発行するデビットカードで、特に中国人が行きそうな海外の店舗での導入に力を入れたため、海外旅行をする時には必携のカードになっていた。中国国内でも利用できる商店が増えていき、中国のオフラインでのキャッシュレス決済の中心にいた。さらに、アリペイがネット決済に進出するのを見て、銀聯もネット決済に対応をしていった。

このライバルに勝つため、アリペイは2010年に「快捷支付」という機能を追加した。簡単に言えば、ほぼワンクリックで支払いが完了する仕組みだ。銀聯のネット決済は、銀行系らしく、認証をするためにアカウント名やパスコードを何度も入力しなければならなかった。利用者からは煩わしいという不満が多かった。その煩わしさから、決済の離脱率が35%もあったと言われる。つまり、35%の人は決済手続きの途中で面倒になってやめてしまうのだ。

アリペイの快捷支付は、IEChromeFirefoxOperaSafariなどの主要なブラウザーに対応し、最小限の情報を入力するだけで決済が完了できるようにしたものだ。決済の離脱率は7%程度だったと言われる。

多くのネット民が銀行口座に直結した銀聯カードによるネット決済よりも、銀行口座をアリペイに紐づけて、アリペイでネット決済をするようになった。

PCのネット決済の世界では、アリペイが競争を勝ち抜き、市場を支配していた。しかし、アリペイの地位を脅かす環境の変化が起きる。スマートフォンが普及し始めたのだ。ネットはPCからモバイルに移り、再度、ネット決済でもシャッフルが起こることになる。

(下に続く)

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▲2019年第1四半期のオンライン決済シェア。オンライン決済では、銀聯も一定のシェアを握っている。

 

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