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5G普及により自動運転バスの試験運行、営業運行が続々と始まる

大容量だけでなく、遅延が少ない5G通信の特性を活かして、L4自動運転バスの運行が本格化している。各地で試験運行が行われているが、その多くが乗客を乗せたもので、安全性確認後、営業運行に移行することを見据えたものになっていると深圳新聞網が報じた。

 

閉鎖区間または人の乗務が必要なL4自動運転

5G携帯電話ネットワークの普及が進み、中国では自動運転バスの試験運行が相次いでいる。

自動運転で現在最も開発が進んでいるのがL4(レベル4)のもの。一定の条件下での自動運転は可能だが、予測できない事態には人間が対処しなければならないというもの。その上がL5の完全自動運転になる。

このため、L4の運行には、閉鎖区間を走らせる方法と、監視員が乗務する方法がある。閉鎖区間方式は人や車が入れないようにして、一定条件下から外れないようにするという考え方だ。空港などの大規模施設のシャトル便などへの応用が考えられている。

監視員が乗務する方法は、人は乗務するものの運転はしない。しかし、突発事態を察知したら、すぐに手動運転に切り替えて、危険を回避するというもの。ロボットタクシーや物流トラックなどへの応用が考えられているが、人の作業負担は軽くなるものの、人件費の節約にはならないという課題がある。

 

5Gによるリモート監視で、人の乗務が不要になる

そこで注目をされているのが5Gによるリモート監視だ。人は乗務しないが、リモートで監視をし、突発事態にはリモートで回避操作を行う(一般的には緊急停車)。これであれば、一般道などの開放区間の専用レーンなどを、人の乗務なしに運行できるため、自動運転バスの営業運転が可能になってくる。

5Gは4Gと比べて大容量であるだけではなく、遅延時間も短い。そのため、大容量の映像によるリモート監視を行い、緊急時にはタイムラグなしで緊急停止の信号をリモートで送ることができる。

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▲張家界を走った中国中車の自動運転バスの運転席。監視員が乗務して、緊急時には人が手動操作をすることが想定されていたため、運転席は一般車両とほぼ同じだったが、5Gを使えば、リモート監視、リモート操作が可能になるため、運転席そのものが不要になる。

 

すでに市民を乗せて走っている巡回バス

河南省鄭州市の龍子湖智慧島では、島内をめぐる自動運転バスの試験運行が始まっている。智慧島は龍子湖の中にある島で、IT企業などを誘致し、最先端テクノロジーを整備したモデル地区。この島内を巡回するバスに宇通が開発した自動運転バスが走っている。バスの優先レーンはあるものの、一般の自動車に混ざり、一般道を走行している。8人乗りであるため、現在は予約制だが、一般の市民が利用することができる。年内には試験運行を経て、営業運行に移行する予定だ。

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河南省鄭州市の龍子湖智慧島は、IT企業などを誘致したスマート地区。この地域を巡回する自動運転ミニバスが試験運行を始めている。バス優先レーンが設置されているものの、一般車両と混交して走行する。すでに予約した市民を乗せていて、安全性に問題がなければ、このまま年内には営業運行に移行する。

 

準閉鎖区間+リモート監視で営業運行を始めている公園巡回バス

福建省福州市の飛鳳智能公園では、公園内の巡回バスとして、金龍客車が開発をした自動運転バスが営業運転をしている。ベースになっているのは、百度のアポロだ。

公園内の道路という準閉鎖区間ではあるものの、歩行者が道路を歩いている。人を察知して自動で停止をする。公園内の移動に、座席が空いてれば、誰でも乗ることができる。

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福建省福州市の飛鳳智能公園で、公園内を移動するために使われている自動運転バス。百度が開発したアポロがベースになっている。歩行者のいる路上を走行するが、すでに営業運行を始めている。

 

ガラスの吊り橋を渡るスリリングな観光自動運転バスも

湖南省にある秘境、張家界では、5.5トンという中型の自動運転バスが観光客を乗せて走った。張家界には430mのガラスの吊り橋が設けられていて、バスはこのガラスの吊り橋を通るというスリリングなものだ。

こちらは、吊り橋の重量制限などとの関係を検証するための走行だったが、この走行結果により安全性が確認できたとして、早い段階で、観光客向けの営業運転を始めたいという。

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湖南省景勝地、張家界では、ガラスの吊り橋の上を中型の自動運転観光バスの試験運行が行われた。安全性が確認できたとして、観光客を乗せたエンターテイメントとして営業運行の準備に入っている。

 

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▲ガラスの吊り橋を渡る自動運転バス。どのような車体になるかは未定だが、中国のいつものパターンでは、床がシースルーになるスリリングなものになると予測されている。

 

必要な地域に集中して基地局を設置していく

5Gは、4Gに比べて、高速、大容量、遅延が小さい、接続数を大きくできるという利点があるが、その反面、アンテナのカバー範囲が小さい。そのため、4Gと同じように広域をカバーするには、より多くのアンテナ施設が必要になる。この設置場所の確保が、5G普及の課題になっている。

中国では、全域カバーを目指す前に、自動運転などの5Gを必要としているエリアに集中して5G施設を設置する戦略を立てている。そこで5Gが支えるサービスの利便性を市民に体感してもらうことで、5Gへ移行する気運を盛り上げていくようだ。