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原告と被告、裁判官がネットで繋がる遠隔裁判。書記官は人工知能

杭州市西湖区人民法廷で、裁判官一人だけの裁判が開かれた。原告と被告は遠隔地にいて、テレビ通話で結んで裁判が行われた。アリババDAMOアカデミーでは、判例を深層学習させたAI裁判官の試験運用も始めていると中国新聞網が報じた。

 

原告、被告、裁判官をネットでつなぐ遠隔裁判

2018年4月、浙江省杭州市西湖区人民法廷で、奇妙な裁判が行われた。商取引に関する紛争の一審が行われたが、原告は自宅におり、被告は1200kmも離れた弁護士の事務所にいて、双方は法廷にオンラインで接続して対面をした。法廷には書記官もいない。人工知能が代替している。法廷にいるのは裁判官一人だけの「一人法廷」がアリババの技術により可能になった。

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杭州市で開かれた「一人法廷」。原告と被告は遠隔地からテレビ通話システムで出廷をした。書記官はAI。アリババでは和解案や判決案を提示するAIの試験運用を始めている。

 

人工知能裁判官も試験運用中

この一人法廷が「スマート法廷1.0」だとすると、すでにアリババの技術は2.0にアップグレードされている。アリババDAMOアカデミーは、法廷の記録と証拠の関連付けを人工知能で処理し、矛盾がない真実を判定する「副裁判官」を務められる技術を開発した。このAI副裁判官が、2018年7月から杭州ネット法廷で、試験運用されている。

その成果をまとめた論文は、チューリング賞などを主催している国際的なコンピュータ科学学会ACM(Association for Computing Machinery)のSIGIR(Special Interest Group on Information Retrieval)公式サイトで発表される予定だ。

 

人工知能が争点を指摘し、和解案や判決案を裁判官に提示

この裁判官AIは、数万件の判例、数千件の民間取引に関する条文を深層学習し、裁判に関連する条文と判例を裁判官に提示をし、マッピングをして視覚化、被告、原告の法律的な事実を紐付けする。類似した裁判を参考に、争点を指摘し、裁判官に対して、和解案あるいは判決案を提示するというものだ。

 

2時間かかる裁判の手順がわずか1秒で終了

従来の法廷では、訴状を読み、双方の取引記録などの証拠を調べ、争点を絞り、それに関する条文や判例を調べるという準備が必要になる。簡単な裁判でも、2時間はかかる作業になる。

しかし、アリババDAMOアカデミーが開発したAIでは、この作業を1秒以内に終えてくれる。裁判官の負担を減らし、裁判にかかる日程を大幅に短縮できるようになる。

 

デジタル記録が残されているネット取引裁判を人工知能が担当

現在、アリババDAMOアカデミーが開発したAIは、ネット取引に関する紛争に特化をしている。ひとつの理由は、この領域の紛争は、デジタル記録が詳細に残されているため、裁判官が証拠調べをするのには、普通の裁判よりも労力がかかる。こういう領域こそ、AIがやるべき仕事だとアリババDAMOアカデミーは考えた。

もうひとつの理由は、この分野の訴訟が年々増加していることがある。2018年には、杭州ネット法廷で扱った裁判のうち、約20%がネット取引に関する紛争だった。杭州ネット法廷によると、裁判官はすでに年に300件の裁判をこなさなければならない状態になっているため、人間の労力の限界を超えているという。AI裁判官を導入することで、人間の裁判官の負担を減らすことが目的だとしている。