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中国の交通カード「一卡通」がようやく全国統一へ

中国の交通カードは現在都市ごとに発行されていて、互換性がほとんどない。別の都市に行った時は、その都市の交通カードを買わなければならなかった。この煩わしさから、スマホ決済の乗車用QRコードが使われるようになった。これが2020年までに全国で統一されることになったと中国新聞網が報じた。

 

ようやく全国統一が実現する交通カード

中国交通運輸部は、2019年内に260都市で交通カードが相互利用できるようにすると公表した。すでに245都市で相互利用が可能になっており、残りの15都市を年内に実現する。2020年には全国すべての都市で同じ交通カードが利用できるようにするという。実現すると、1枚の交通カードを使って、中国のどこでも地下鉄やバスに乗れるようになる。ようやく、日本のIC乗車券Suicaに近い状況になる。

最も大きな問題は、首都北京市がこの相互利用の仕組みに参加せず、独自に50都市との相互利用を進めていたことだった。これにより、交通カードの全国統一がなかなか進まなかった。しかし、北京市も今回は、全国での統一規格「交通連合」に対応するための試験を始めている。

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▲交通聯合のロゴ。今後は、このロゴがついている交通カードであれば、中国どこの都市でも地下鉄やバスに乗車することができるようになる。

 

都市間の互換性がなかった以前の交通カード

交通カードの全国統一は、交通連合のシステムに接続することで行われる。各地の交通カード間の精算などこの交通連合のシステムが担う。この交通連合のロゴがついた交通カードであれば、260都市どこでも利用できるようになる。

この交通連合の仕組みは、交通カードが登場した頃から計画されていたものだが、全国統一が遅れに遅れた。そのため、市が発行する交通カードは購入した市の地下鉄、バスにしか乗車することができず、他都市に行った場合は、その都市の交通カードを購入してチャージする必要があった。統一が遅れた理由は明らかにされていないが、メディアによると各都市間の利害関係の衝突だとされている。

 

出張、旅行では駅から出られなく現象も

これが中国の公共交通の決済を複雑にした。他都市に出張や旅行で行った場合、その都市の交通カードを購入するのが相当の手間になっていたのだ。中国では膨大な数の人が移動をしているため、空港や中国版新幹線「高鉄」駅に接続した地下鉄の駅は常に混雑をしている。紙の切符を買うにも、交通カードを買うにも、タクシーに乗るにも長時間行列に並ばなければならないというのが普通だ。せっかく、飛行機や高鉄で速く移動できても、空港や駅から脱出できなくなることがよくあった。

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▲2019年5月に南京市の地下鉄で起きたトラブル。通信障害により乗車用QRコードが表示されなくなり、誰も改札を通ることができなくなった。表示をするのに外部通信を必要とするQRコードは、このような事態が起きるリスクがある。NFC系ではデバイスと改札間の通信だけなので、このような大規模トラブルが起きるリスクは小さい。

 

交通カードの非互換がQRコード乗車を普及させた

この問題が、QRコード乗車コードを生んだ。アリペイ、WeChatペイなどでは、各都市の乗車カードが追加できるようになっていて、これを事前に追加しておけば、表示されるQRコードを改札にかざすだけで、乗車ができるようになっている。深圳市の場合、QRコード乗車利用者の45%は深圳市以外の居住者であるという。

「交通カードを持たなくてもいい」ということから、自分が居住している都市でもスマホQRコード乗車を使う人が増えているが、数々の問題も起きている。

最も大きな問題は、改札が渋滞をすることだ。QRコード乗車を使うには、スマホを取り出して、アリペイなどのアプリを起動し、QRコードを表示してから、改札にかざさなければならない。この操作を、改札の前まできて立ち止まってする人がけっこういる。これが渋滞の原因になっている。QRコード表示のショートカットを設定しておけばいいのだが、やり方を知らない人が多い。

また、QRコード決済では、各乗客のスマホが一斉に認証のための通信をするために、ラッシュ時には通信遅延が起こり、QRコードの表示に数秒かかるようなこともある。

さらに、今年2019年の5月には、南京市の地下鉄2号線、馬群駅で、朝8時半というラッシュ時に、アリペイ系のQRコードが表示されなくなるというトラブルが発生し、混乱が起きている。

QRコード乗車は、全国どこでもで利用できるという利便性はあるが、技術的には地下鉄改札のように処理速度を必要とする処理には不向きだ。それでも、QRコード乗車が普及をしたのは、「交通カードが統一されていない」という大問題があったからだ。

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スマホ決済「アリペイ」の中にある電子交通カード。乗車用QRコードでどこの都市でも乗れるわけではなく、事前に使う都市の乗車カードをオンにしておく必要がある。一度、オンにすれば、GPSでどこにいるかを判断して、適切な乗車用QRコードが表示されるようになる。この利便性からQRコード乗車をする人が増加した。

 

「交通カードorNFCスマホ」という日本スタイルがようやく実現

この問題がようやく解決される。交通連合ロゴのある交通カードが1枚あれば、中国どこの公共交通でも乗れるようになる。外国人旅行者は、このカードを1枚持っておけば、空港に接続している地下鉄駅などでも、直接改札に向かって乗車することができるようになる。

また、交通連合ではすでにNFC搭載スマホへの対応も始めている。Apple Pay、Google Pay、サムスンペイ、ファーウェイペイ、ミーペイ(小米)などのウォレットに交通カードを登録すると、スマホを起動することなく、タッチするだけで決済ができるようになる。

日本では多くの人がSuicaなどのIC乗車券を使うか、Apple Pay、Google PayなどにIC乗車券を登録して、スマホで改札にタッチをするかし、それで全国どこでも公共交通が利用できている。中国もようやく日本と同じ状況になる。

日本は、1億人以上いるそこそこの規模の国でありながら、1枚の交通カードで全国どこでも移動できるというのは、世界的にもあまり例がない。中国が遅れているというよりも、この点では日本が素晴らしく進んでいるのだ。

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▲交通聯合のロゴがついた交通カード。このカードであれば、全国どこでも使えるようになる。現在使っている交通カードを新しくする必要はあるが、これでようやく中国も、日本と同じように1枚の交通カードでどこでも移動できる環境が整った。