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弟子に教えて、師匠が飢える。フォロワーに蚕食される無印良品。鍵は新小売か

無印良品が中国市場で苦しんでいる。コンセプトは都市の中産階級に受け入れられたが、続々とフォロワーが登場して、売上を蚕食されている。中国市場では、オンラインの活用が弱いとして、オンラインとオフラインを融合する新小売手法を取り入れることが復活の鍵だと零售老板内参が報じた。

 

「弟子に教えて、師匠が飢える」無印良品

中国の無印良品が苦しんでいる。「MUJI」で知られる無印良品は、2005年に上海に1号店を出店。当時は、まだ日本製品に対する憧れが強く、しかも次第にエコな生活を求める感覚が生まれてきているところもあって、シンプルなデザインで良質な日用品を提供する無印良品は、上海の中産階級の人たちに受け入れられた。

2012年頃から、無印良品は、毎年30店から50店ペースで店舗を拡大、それに伴って売上も大幅に増加していき、成長期を迎える。2014年末には、38都市121店舗に成長した。現在は約250店舗を展開している。

しかし、2016年頃から、無印良品の売上は頭打ちとなり、2019年第2四半期には初めて既存店前年割れとなった。

ひとつには、ECと実体小売を融合した新小売の拡大もあるが、もうひとつ指摘をされているのが、無印良品のビジネスモデルを真似したライバルが登場し、市場を蚕食されたことも大きい。中国には「弟子に教えて、師匠が飢える」という言葉があり、無印良品は、中国の弟子によって飢えてしまったのではないかとも言われている。

 

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▲中国人の多くは無印良品の真似をしたチェーンが登場していることも、無印良品の品質が高いことも理解しているが、価格を求めて真似をしている店舗に行ってしまう。

 

真似られる無印良品のコンセプト

無印良品は、価格の改定を行い、値下げすることでライバルたちに対抗しようとしている。しかし、そのためには中国での製造コストや流通コストを下げる必要があり、価格面ではライバルになかなか対抗できていない状況だ。

ライバルの代表格は「名創優品」(メイソウ)だ。日本にも出店しているので、ご存知の方も多いが、一言で言えば、「ダイソーのビジネスモデルを、無印良品の品揃えと店舗デザインで、ユニクロそっくりのロゴを使った」日用品小売だ。2013年に創業し、当時は実在の日本人デザイナーが共同創業者だとうたい、あたかも日本の製品を扱っているかのような誤解を与えるプロモーションを行っていた。製品の品質は、100円均一ショップと同じで、無印良品とはまったく異なるが、それでもほとんどの製品が10元から100元と安く、人気を得ている。すでに1100店舗を展開し、中国だけでなくアジア各国にも展開。すでに86の国に3600店舗を展開し、米国と香港で上場する準備に入るほど成長している。

また、エンタメポータルサイト「網易」は、2016年からECサイト「網易厳選」をスタートしている。これも、「いいものをシンプルなデザインで、お手頃な価格で」提供するという無印良品と同じコンセプトであり、成長を続けている。

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▲問題の「メイソウ」。無印良品の露骨なパクリとして、日本ではお笑いネタ的に報道されているが、世界86カ国に3600店舗を展開し、中国では無印良品の売上を蚕食し、メイソウ自体は香港あるいはナスダック上場を計画するところまで成長している。

 

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▲エンタメポータル「網易」が展開している雑貨店「網易厳選」。露骨なパクリではないものの、ロゴや店舗デザイン、商品ラインナップなど無印良品の影響を強く受けている。

 

支持される無印良品のコンセプト。それでも低価格には勝てにない

無印良品は、都市の中産階級に受け入れられた。しかし、それは大都市のある程度経済的余裕のある人々で、MUJIは、ハイブランドのような高級品ではないが、エコや合理性といった都市型のライフスタイルを表現できる製品として中国人には映っている。そのため、価格は高めだ。無印良品を10とすれば、網易厳選が6、メイソウが3ぐらいの感覚だ。

都市の若い層は、日本発信の「合理的なシンプルライフ」ということに共感はしたが、実際に購入する段になると、価格を見て躊躇をしてしまう。そういう人々が網易厳選やメイソウに流れている。多くの中国人が無印良品とメイソウの品質に差があることは理解している。しかし、圧倒的に価格が安いことから、対価格品質比を考えて、網易厳選やメイソウを選んでいるのだ。

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無印良品が中国に進出する前から、タオルや寝具などの商品で「無印良品」の商標が海南南華によって取得されていた。商標譲渡を受けて、北京棉田がタオル、寝具などの販売店無印良品Natural Mill」を展開。このため、本家の無印良品はタオル、寝具などでは「無印良品」を名乗れなくなっている。理不尽な話だが合法。

 

活路はオンラインとオフラインを融合する新小売手法

このことは早くから無印良品は気がついていて、2014年から10回も価格改定を行ってきた。さらに店舗も、陳列から体験を重視するようになっている。カフェ、ホテル、レストランなどを店舗内に設置をし、無印良品の提唱するシンプルなライフスタイルを実際に体験できる場所を増やそうとしている。

しかし、零售老板内参はECの活用が薄いことを指摘している。無印良品は、店舗を基本にし、その他のプロモーションも体験型というオフラインのものを主体にしている。このまま価格で対抗をしようとしても、コスト削減には限界がある。

無印良品が「シンプルライフ」を啓蒙すればするほど、人々は網易厳選やメイソウに行ってしまうのだ。まさに「弟子に教えて、師匠が飢える」状況になっている。

零售老板内参は、ECを強化してオンラインとオフラインを融合した新小売手法の施策を打たずに、このまま店舗中心の施策に終始するのであれば、もはやこれ以上打つ手はなく、中国市場から撤退へのカウントダウンが始まると警告している。

無印良品は、その考え方がグローバル市場でも受け入れられ、日本が誇る雑貨ブランドだと言える。中国でのビジネスが苦しいといっても、無印良品のエラーというより理不尽な要因も大きい。しかし、それが中国市場なのだ。世界最大級の消費市場には、どんな手を使ってでも市場を取りにくる企業が無数に現れてくる。無印良品の底力が試されているだけではない。日本企業の底力が試されている。

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無印良品は、レストラン「ムジダイナー」を中国でも展開する。商品ではなく、ライフスタイルの展示をするのが狙いだ。