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人工知能搭載の偵察衛星「吉林1号」が10機となり、本格運用が始まる

中国の偵察衛星吉林1号」は人工知能を搭載し、船舶、航空機の映像を撮影するだけでなく、瞬時に識別まで行う。今回の打ち上げで衛星は10機となり、本格運用が始まったと大水が報じた。

 

航空機では水平線の影響で400km先までしか見通せない

中国の偵察衛星吉林1号」が合計10機となった。2015年から打ち上げが始まったこの一連の衛星は、バージョンアップが随時行われ、現在は第3世代になっている。人工知能が搭載され、瞬時に空母の種類などを識別する能力がある。

この吉林1号の目的は、早期警戒だ。一般に領海侵犯、領海侵犯の発見には、航空機が使われるが、地球は丸いため、水平線の影響で、高度が10kmであったとしても、400kmほど先までしか見通すことができない。この問題を解決するために、衛星に早期警戒をさせるという発想が生まれた。

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吉林1号の打ち上げ風景。最終的に138機の衛星ネットワークを作り、地球上どこであっても10分以内に撮影、解析ができるようにするという。

 

https://www.bilibili.com/video/av55784573/

吉林1号偵察衛星の仕組みをCGで紹介したテレビ番組「すごいぞ!中国製造」の一部。

 

衛星による早期警戒には時間がかかるという問題

しかし、衛星による早期警戒にも大きな問題がある。地上から指令を出して、それから撮影を行い、映像を地上に転送する。そして、地上のチームが画像を解析してようやく領海侵犯を把握できるのだ。従来の方法では数カ月かかる作業であり、自動化を進めても数時間はかかる。これでは意味がない。

なぜこのようなことになるかというと、衛星はただのカメラにすぎず、何が写っているかの解析は、地上で行わなければならないからだ。そこで、人工知能を使って、衛星に解析機能を持たせてしまえばいいという発想が生まれてくる。

2015年に打ち上げられた第1世代衛星は、DSP(デジタルシングルプロセッサ)を搭載していた。ちょうどコンパクトカメラなどに搭載されている顔認識と似たようなもので、船舶を自動認識して、外形を把握し、速度と方向を地上に伝える。

2017年に打ち上げられた第2世代衛星、2018年に打ち上げられた第3世代衛星では、GPUが搭載され、深層学習された人工知能が、船舶、航空機を認識し、識別をする。

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吉林1号が撮影した船舶。人工知能がこの映像から、船舶の種類などを判別する。

 

1000km以上先まで警戒、ステルス機も発見可能

この吉林1号は、1000kmから2000km先まで補足することができる。一般的な航空機の早期警戒機の400kmと比べると、いち早く発見することが可能になる。

また、大きいのがF-22などのステルス戦闘機の発見にも対応していることだ。ステルス戦闘機は、レーダーなどの電波を吸収し、熱源からの赤外線も分散させるなどして補足させない。あくまでもステルス機は「センサーから姿を消す」技術だ。しかし、人間の目には見える。光学ステルスは研究はされているが実用化されていない。吉林1号は、カメラ、つまり光学的に目標を捉え、識別をするので、ステルス機も問題なく発見できる。

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吉林1号は、衛星に人工知能が搭載され、衛星内で画像解析も行う。赤外線映像などから、火器が使用されたことを察知し、地上にアラートを送信する。


吉林一号视频星拍摄的视频影像 墨西哥杜兰戈

吉林1号が撮影したメキシコの映像。よく見ると、道路上の自動車が動いており、写真ではなく、動画であることがわかる。

 

世界が驚いたフィラデルフィア造船所の写真

2015年頃まで、中国政府は、吉林1号は商用衛星だと説明をしていた。地質などを観測して、土地利用を促進するためのものだということだった。しかし、2016年5月に、吉林1号が撮影した米国海軍のフィラデルフィア造船所の写真に世界が驚いた。軍艦の形もはっきりと分かるほど解像度が高い写真で、商業用の観測衛星のレベルを超えている。それ以来、中国のメディアでも「吉林1号は偵察衛星」と報道されるようになっている。

吉林1号の計画では、60機の衛星でネットワークを作り、目標とする800地域に30分以内に偵察ができるようにすることが目標だ。その後、138機の衛星ネットワークが構築され、地球上のどこの地点であっても10分以内に偵察ができるようにすることが最終目標になっているという。

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▲問題となったフィラデルフィア造船所の写真。それまで商業衛星だとされていた吉林1号が撮影したもの。船の形もはっきりとわかる。これ以降、中国政府は偵察衛星であることを隠さないようになった。