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中国を中心にしたアジアのテック最新事情

旅行好きな大学生たちは、交通費をケチって、ホテルにお金を使う

95年以降生まれのZ世代は、インドア派であり、あまり旅行にいかない。ところが、同じZ世代でありながら、大学生は旅行好きだ。しかし、交通費は節約をし、その分、滞在先にお金を使うという面白い傾向がわかったと21世紀経済報道が報じた。

 

消費傾向ががらりと変わるZ世代

世界的にミレニアル世代(80年以降生まれ)とZ世代(95年以降生まれ)では、考え方や消費傾向が大きく変わることが指摘されている。ミレニアル世代はPCを使うデジタルパイオニア世代、Z世代はスマートフォンを使うデジタルネイティブ世代。

Z世代は、SNSを使って社交をし、自分のプライバシーを大切にする。また、米国の場合、子ども時代に9.11同時多発テロを経験し、大きなショックを受けているため、社会課題への関心が高い。消費では、他人が認めるブランドではなく、本質的な価値を重要視するなど、それ以前の世代とは大きく異なる世代であると言われている。

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マーケティングでは世代をXYZの3世代に分けることが多い。それぞれに消費傾向が大きく異なっている。特にZ世代は傾向が大きく変わると指摘されている。

 

精神的な充足を追求する中国のZ世代

中国でも状況はよく似ていて、特にミレニアル世代は「貧しい中国の体験があってから豊かになった」世代だが、Z世代は「豊かな中国しか知らない」世代であると指摘されている。

そのため、ミレニアル世代は「消費=幸福」だった。消費に積極的であり、新しいものに飛びつき、外食好き、旅行好き。人と対面で付き合うことを好む。急成長する中国の個人消費の原動力となってきた。

しかし、Z世代は「消費≠幸福」であり、精神的な充足感を求める。消費は合理的であり、自分の個性を表現できるもの、自分が独自に発見した価値が感じられる商品を購入する。家の中で過ごすことを好み、外売(フードデリバリー)、ストリーミングなどのサービスをよく利用する。人とはSNSを介して交際する。外売、配達してくれる新小売スーパー、SNSと組み合わされたEC、ショートムービーといった新しいサービスの普及の原動力となっている。

Z世代もすでに20-25歳になり、そろそろ消費の主役になろうとしている。この影響で、中国の消費傾向はこれから大きく変わっていくとみられている。

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▲Z世代は自室を自分好みに飾り、家の中で過ごすことを好む。すでにPCは使わなくなり、スマホタブレットを使う。自分の好きなものに対しては積極的に消費をする。

 

旅行に行かないZ世代。しかし、大学生は旅行好き

Z世代は旅行にあまり行かない。家の中で過ごすことを好む。旅行予約サイト「

去哪児網」が公開した「2019大学生出行データ報告」によると、全世代の平均では年間3.45回飛行機を利用した国内外の旅行をしている。Z世代の平均は2回でしかない。

ところが、この報告書で世間が驚いたのは、同じZ世代でも大学生だけに限ったデータを見ると4.4回になる。Z世代は旅行に行かない世代なのに、同じ世代でも大学生だけは他の世代よりも旅行に行くということがわかったのだ。

21世紀経済報道は、その理由を卒業旅行の習慣が定着したことにあると分析している。調査でも大学生の9割以上が「卒業旅行に行きたい」と答えている。

就職をしてしまうとしばらくは旅行に行く暇もないことがわかっているため、最後の自由時間だと考えているのだと思われる。

 

格安の移動手段を好む大学生

面白いのは、大学生は確かにZ世代の傾向とは異なり、旅行に積極的だが、その旅行の内容がいかにもZ世代的なのだ。

まず、交通費は徹底的に節約をする。飛行機も、午前0時から2時、早朝5時から9時、夜20時から22時という便に集中をする。大学生は、この時間帯は他の時間帯の3倍利用している。夜行便や早朝便は一般旅行客やビジネス客にとって使いづらいため、運賃が安めに設定をされているからだ。

また、国内でも中国版新幹線「高鉄」ではなく、一般鉄道の寝台列車、特急などを利用する傾向にある。2018年、去哪児網ではZ世代の一般鉄道のチケット購入が26.3%増加した。こちらも高鉄よりも安上がりだからだ。

つまり、大学生は旅行に行くといっても、交通費は節約をする。

 

滞在先ホテルにはお金を惜しまない「窮路富住」

ところが宿泊するホテルに関してはお金を使う。中国には「窮家富路」という成語がある。これは「家では質素に暮らしても、旅にはお金を使う」という意味で、旅は何があるかわからないので、普段は節約していてもお金をたくさん持っていけという戒めのひとつだ。

交通費は節約するのに、ホテルにはお金を使う大学生の旅行スタイルは、この成語をもじって、「窮路富住」(交通はケチって、宿泊にはお金を使う)と評されている。

大学生はもちろん半数以上が宿泊費の安いビジネスホテルを利用するが、その割合は減少し、リゾートホテル、高級ホテルの割合が増えている。

Z世代特有の「インドアで快適にすごしたい」という感覚が表れている。

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▲大学生は経済的余裕はあまりないので、海外でも格安のビジネスホテルを利用する人が多い。しかし、ビジネスホテル利用者は減少し、リゾートホテル、高級ホテルの利用者が伸び始めている。

 

人気渡航先は都市よりもリゾート

この「快適にすごしたい」は、人気渡航先にも表れている。国内の場合は、歴史的な観光スポットが多い、北京、上海、西安などが上位にきて、一般の旅行者と大きな違いはないが、海外となるとガラリと変わる。ほとんどが東南アジアのリゾート地で、大都市というとソウル、東京、シンガポールのみ。渡航先についても、滞在先でのんびりとすごせる場所を好んでいるのだ。

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▲大学生に人気の渡航先。全世代では日本が人気の渡航先の1位になるが、大学生のランキングでは東京は9位。圧倒的に南国リゾート地に人気がある。

 

Z世代が消費の主役になり、変わる消費傾向

現在、中国の大学生は約3700万人。この大学生たちが、卒業後に同じように旅行をすることになるのか、それとも同世代のZ世代と同じく旅行に消極的になるのかはまだわからない。

中国の旅行会社は、Z世代が消費の中心になるに従い、旅行産業の成長空間が小さくなっていくのではないかという危機感を抱いている。現在は、大学生の「窮路富住」スタイルを理解して、高級ホテル+格安夜行便という組み合わせの学生向けパック商品を販売するようになっている。

Z世代が消費の主役になるにつれ、海外旅行も都市型からリゾート型へ、買物・観光型から滞在型へと変化していくことが予想される。アジア圏の観光地では、この変化を意識した観光開発も必要になるのかもしれない。