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ケンタッキー、スターバックス、カルフールの中年の危機。救うのは新小売テクノロジー(中)スターバックス編

中国に進出した外資系企業の多くが、中年の危機に陥いり、伸び悩んでいる。これを打ち破るには、中国法人で決断ができる自律性と新小売テクノロジーを取り入れていくことが重要だと媒介360が報じた。

 

中年の危機を脱出するには新小売テクノロジー

中国に進出した外資系企業は例外なく、いつか中年の危機を迎える。中国市場で生き残るには、変化の速さに追従していくことが条件となるが、外資系企業の場合は、海外にある本社の判断を仰がなければならないため、決断のスピードがどうしても遅くなるからだ。中国企業でも市場の変化についていくのに必死であるのに、決断ができない中国支社を置いても、無数の龍がうねっているような中国市場で、埋没して終わってしまう。

ケンタッキー、スターバックスカルフールは、中国市場で地位を築いた「成功組」だが、この数年、やはり中年の危機を迎えている。この危機を脱出するために、3社ともテクノロジーを活用した新小売手法を取り入れている。

 

グローバル経営をしていたスターバックス

スターバックスは、1999年に北京市故宮博物館の中に1号店を開店して以来、次々と店舗を拡大していき、現在では148都市、3500店舗を展開している。中国に「コーヒーを飲む」という習慣を定着させたカフェチェーンだ。

しかし、中国で起き始めたテクノロジーの変化からは、距離を置いていた。以前、中国の人は、アリペイ、WeChatペイのスマホ決済について「スターバックス以外どこでも使える」と言うことが多かった(現在は、もちろん対応している)。また、急速に普及した外売(出前)にも対応していなかった。スターバックスにとって、中国市場は米国市場の次に大きな市場になっていたのに、中国の動向よりも、グローバル基準での経営を優先させていたのだ。

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▲1999年に開店したスターバックスの中国1号店。北京の故宮博物館の中にあり、気をつけていないと見逃してしまうほど地味な店舗。故宮博物館を訪れる外国人観光客のために開店したのだと思われる。現在は、故宮の景観と合わないとして批判が出たため、閉店している。

 

ラッキンコーヒーという強力なライバル出現

ところが2018年になって、唐突に中国スターバックスの経営が悪化する。2018年第2四半期には、中国での売上が昨年同時期の-2%成長となり、利益率も26.6%から19%に下落をした。マイナス成長になったのは初めてのことではないが、今回のマイナス成長は深刻だった。トレンドとして成長から縮小に変化したことがはっきりとしていたからだ。

その理由は明らかだった。2018年に創業したスタートアップ「ラッキンコーヒー」が異常な勢いで成長して、市場を蚕食されてしまったからだ。2018年1月1日に北京と上海で開店したラッキンコーヒーは、5月には500店舗を超え、500万杯のコーヒーを販売した。9月には1000店舗を突破、年末には2000店舗を突破している。2019年中に2500店舗を展開し、2020年にはスターバックスの店舗数を超える予定。さらに、2021年までに1万店舗を展開する計画を発表している。

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▲異常な成長をし、創業3年足らずでナスダック上場を果たしたラッキンコーヒー。スタンド店が基本になっていて、事前にスマホで注文決済して、取りに行く。コーヒーをテイクアウトして飲むという中国の習慣にもマッチして、急成長し、スターバックスを脅かしている。

 

行列しなくていいモバイルオーダーで急成長したラッキンコーヒー

異常とも言える拡大スピードだが、決して無謀ではない。その武器は、スマートフォンを活用したスマートオーダーにある。カフェでは注文をするのに行列をし、商品をもらうのに行列をし、コーヒーを手にしたまま空いている席を探さなければならない。この悪いユーザー体験を、スマートオーダーによって一新した。

店舗に行った場合は、最初に空いている席を探して座る。それからスマホでコーヒーを注文する。この時にスマホ決済で支払いも済んでしまう。できあがるとプッシュ通知が送られてくるので、カウンターに取りに行けばいい。

また、これから店に行くという時に、路上で注文しておいてもいい。店に着いた時にはコーヒーができあがっている。もちろん、外売(出前)にも対応している。

ユーザー体験を一新しただけでなく、レジ要員、接客要員がほとんど不要になり、人件費も削減できた。その分を豆の品質を上げることに使い、世界的に有名なバリスタと契約して、中国人好みのコーヒーの味を研究している。

ラッキンコーヒーは「行列ができない人気店」で、忙しい都市部のビジネス客、若者たちの心をつかむことに成功した。

 

スターバックスはアリババと業務提携

スターバックスが選んだ道は、アリババとの業務提携だった。アリババのもつ新小売テクノロジーを活用し、餓了麼(ウーラマ、外売)、盒馬鮮生(フーマフレッシュ、新小売スーパー)、タオバオECサイト)、アリペイ(スマホ決済)、口碑(コウベイ、グルメ案内)などのアリババの持つサービスとの全面提携を図っていった。

最大のメリットは、来店客の身分がわかるようになったことだ。それまでの店舗にくる客は「匿名」だった。しかし、スマホ決済やスマホ注文を使うことで、利用客の属性がわかる。このビッグデータを解析することにより、決め細い施策が打てるようになった。

 

中国人の7割はコーヒーをテイクアウトする

さらに大きいのが、出前に対応したことだ。それまでスターバックスのコーヒーは、店舗に行くしか手に入らなかった。それがウーラマによる出前だけでなく、新小売スーパー「フーマフレッシュ」にも店舗を展開し、「外送星厨」として、出前にも対応した。これにより、店舗ではカバーできなかった地域にもスターバックスコーヒーを届けることができるようになった。

中国人の7割はコーヒーをテイクアウトする。店舗内で飲みたいと思う人は3割でしかない。オフィスや自宅、公園などにテイクアウトして飲むというのが主流の習慣なのだ。居心地のいいインテリアを入れて、快適な空間でコーヒーを楽しんでほしいというスターバックスの考え方は、中国ではミスマッチを起こしていたことになる。アリババとの提携によって、このミスマッチが解消されつつある。

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▲中国で普及をしている外売(デリバリー)にもスターバックスは対応した。ラッキンコーヒーの登場により、危機感を持ったスターバックスは急速に中国式を取り入れるようになった。

 

中国の消費者に寄り添い始めたスターバックス

スターバックスはグローバル感覚から、完全に中国感覚に変わった。2019年2月、スターバックスECサイト「Tmall」を通じて、「スターバックス猫の手グラス」を発売した。二重構造の保温グラスで、内側が猫の手の形をしているというものだ。従来の意識が高く、おしゃれなスターバックスとは相容れない、中国的な可愛いルックスのグラスだ。これを3000個発売したところ、1分で完売してしまった。

また、コーヒーをカスタマイズしたいけど、注文が面倒、よくわからないというスターバックス初心者のために、スマホ用オーダーカードの配布も始めた。コーヒーのサイズ、種類、ミルクや砂糖の量などをあらかじめカードに登録しておくと、それを提示するだけで、自分好みのコーヒーがオーダーできるというものだ。カスタマイズコーヒーを楽しんでみたいけど、注文が面倒、よくわからないと避けていた人たち、スターバックスの最大のセールスポイントである「パーソナライズされたコーヒー」を楽しんでもらおうというものだ。

スターバックスは、グローバル経営を中国に押し付けるのではなく、中国の消費者を理解し、中国式を取り入れることで、再び成長する道を探っている。

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スターバックスオフィシャルの猫の手グラス。二重の保温グラスだが、内側が猫の手の形になっている。スターバックスのイメージとは合わないデザインだが、大人気商品となり、3000個限定が1分で完売した。