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ケンタッキー、スターバックス、カルフールの中年の危機。救うのは新小売テクノロジー(上)ケンタッキー編

中国に進出した外資系企業の多くが、中年の危機に陥いり、伸び悩んでいる。これを打ち破るには、中国法人で決断ができる自律性と新小売テクノロジーを取り入れていくことが重要だと媒介360が報じた。

 

中年の危機を脱出するには新小売テクノロジー

中国に進出した外資系企業は例外なく、いつか中年の危機を迎える。中国市場で生き残るには、変化の速さに追従していくことが条件となるが、外資系企業の場合は、海外にある本社の判断を仰がなければならないため、決断のスピードがどうしても遅くなるからだ。中国企業でも市場の変化についていくのに必死であるのに、決断ができない中国支社を置いても、無数の龍がうねっているような中国市場で、埋没して終わってしまう。

ケンタッキー、スターバックスカルフールは、中国市場で地位を築いた「成功組」だが、この数年、やはり中年の危機を迎えている。この危機を脱出するために、3社ともテクノロジーを活用した新小売手法を取り入れている。

 

2012年から停滞するKFC

ケンタッキーフライドチキン(KFC)は、1987年11月に北京市の前門に1号店を開店して以来、大きな成功をして、現在では全土に5000店舗を展開している。中国に西洋式のファストフードを本格的に定着させた。ハンバーガーという中国人に馴染みのない食べ物ではなく、馴染みのあるチキンでありながら、調理法、味付けは西洋風というところが成功の要因だった。

しかし、2012年に唐突に転換点を迎える。2012年、中国での売上は68.98億ドル(約7500億円)だったが、ここから停滞時期に入り、2015年になっても69.09億ドルとほとんど伸びなかった。KFC、ピザハット、タコベルなどを運営する米ヤム・ブランズ本体の売上も中国売上の停滞などもあり、下落し始めた。

ヤム・ブランズはこの局面を打開するため、成長の可能性が感じられなくなったヤム・ブランズ中国を売却し、投資先を見つけ、中国資本の現地企業として独立させることにした。結果的にこれが中国のKFCを復活させることになる。

2016年9月、アリババ傘下のアントフィナンシャルと春華集団が4.6億ドル(約500億円)を出資することになった。これはつまりKFCもアリババ傘下に入ることになる。

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▲1987年、北京市前門のKFC1号店の開店式典。当時は「アメリカ式田舎鳥」という売り方で、中国人にも馴染みのある揚げ鳥でありながら、味付けがアメリカ風というところから人気になった。

 

アリババの出資を受け、中国独自路線が始まる

KFCはアリババ傘下に入ることにより、アリババが推進している新小売のテクノロジーや考え方を導入して、新たな成長空間を見出している。

2017年、KFCはアリババのECサイト「Tmall」に出店している旗艦店で、一年クーポンを1999元で販売して、話題づくりをした。これは365個分のチキンがどの店でも購入できるクーポンで、有効期限は1年というもの。定価の半額程度になる。発売日には40分で売り切れるという人気になった。

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▲爆発的に売れた一年クーポン。有効期限は1年で、365個のチキンが購入できる。価格は1999元(約3万1000円)だが、定価の半額程度でチキンが買える。わずか40分で完売したという。

 

会員制度を磁気カードからスマホ決済連動の電子化へ

さらに大きかったのが、アリババのプラットフォームを使って、KFC会員制度を刷新したことだ。従来は紙のカードや磁気カードでポイント還元を行なっていた程度だったが、スマホ決済「アリペイ」と連動するスマホ会員に移行した。利用者は、アリペイで支払いをするだけで、自動的にポイント還元やクーポン優待が受けられるようになった。キャッシュレス決済とポイントカードを一緒にしたのだ。

これにより、利用者の利便性が上がっただけでなく、決め細いクーポンの配信ができるようになった。さらに、ネットでも商品そのものやクーポンを購入できるようになった。

最も大きいのは、会員の個人情報と購入履歴が明確になったため、ビッグデータ解析による経営が可能になったことだ。

 

顔認証決済などのテクノロジーを取り入れた高級業態「KPRO」

アリババの新小売テクノロジーを使って、異なる業態への進出も成功させた。2017年11月に浙江省杭州市慶春路に開店したKPROだ。新小売テクノロジーを応用した未来型店舗になっている。

入り口付近に大型のタッチパネルがあり、来店者はまずここからメニューを選び、選択する。そのまま、顔認証でアリペイ決済ができる。それから空いている席の一覧図が出るので、席を選び、そこで待っていると料理が運ばれてくる。食べ終わったらそのまま帰ればいいだけというものだ(現在は、注文後に小さなデバイスを持って、空いている席に座っていると、そのデバイスの位置を目指して、スタッフが料理を運んでくれるように改められている)。

メニュー内容もKFCとは大きく異なり、野菜を中心にしたヘルシーメニューだ。健康のために油物を食べたくないというヘルシー志向の若者に受けている高級業態になる。

KPROは杭州だけでなく、北京、上海にも展開をしている。

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▲KFCの高級業態「KPRO」。いち早く顔認証決済を取り入れたことで話題になった。料理は有機野菜を中心としたヘルシーメニュー。

 

決済と会員制度を連動させたことが復活の鍵に

KFCが復活できたポイントは、O2O(オンラインtoオフライン)の風通しがよくなったことだ。店舗に行ってチキンを買うだけでなく、スマホから注文、購入、出前などができるようになったことで、購入チャンネルが広がった。

特にスマホ決済と会員制度を連動させたことが大きい。利用者はごく普通にアリペイで決済をするだけで、会員になっていれば、ポイント還元やクーポン優待が受けられる。支払いをして、会員カードを提示するという面倒がなくなった。会員カードを忘れた、持ってこなかったということがなくなったのだ。

 

中国独自のキャンペーンも展開

Tmallのセール期間、KFCはゲームによって店舗に人を引き寄せるゲームイベントも行っている。Tmallアプリの中からゲームにアクセスすると、GPS情報に基づいて、近くにいるTmallのマスコットの猫のいる近くのKFC店舗がわかる。KFCの店内に入ると、カメラを通してAR技術によって猫が表示され、その猫を捕まえると景品がもらえたり、お得なクーポンがもらえるというものだ。

オフラインの店舗、オンラインの注文の2本立てでではなく、会員制度とゲームイベントなどで、オフラインとオンラインを連結、融合させようという試みが功を奏している。

このようなO2O施策により、KFCは再び成長をし始めている。

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▲アリババのECサイト「Tmall」のセール期間中に行ったARゲーム。店舗内でスマホARを使ってTmallのマスコットの猫を見つけると景品やクーポンなどがもらえるというもの。

 

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▲Tmallのセール中に行った街頭広告。パネルにはハンバーガーの黄色、ポテトの赤、コーラの黒が回転して現れ、図形や文字を描く。パネルが回転していく様が面白い。

 

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