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美術展覧会に、マイクロソフトの人工知能が描いた絵画が出品

毎年5月と6月に北京市の中央美術学院で開催される「卒業展」に人工知能が描いた絵画が出展され話題になっていると中国新聞網が報じた。

 

歌って、話せて、絵もかける人工知能「小氷」

中央美術学院は、中国で最高峰の美術大学。その卒業展は、美術愛好者から毎年注目されている。そこに卒業生に混ざって、人工知能が描いた絵画が出展され話題になっている。

そのアーティストの名前は「夏語氷」。しかし、人間ではなく、正体はマイクロソフトアジアインターネット工程院が開発した人工知能「微軟小氷」(シャオビン)だ。元々はSNSで会話をするチャットボットだったが、現在では歌を歌うようになり、さらには絵画まで描くようになった。

 


【好想你 I Miss U】Joyce Chu 四葉草 ft. Microsoft Xiaoice 微軟小冰 (Audio Version)

▲マレーシア出身のジョイス・チューのヒット曲をデュエットする小氷。ボーカロイドのように、人が入力するのではなく、音楽を聞かせることで、学習をして歌えるようになるという。

 

アーティストが先生となって、人工知能に絵画指導

中央美術学院実験芸術学院の邱志傑院長は、中国新聞網の取材に応えた。「今回、彼女の作品を展示したのはユーモアの一種ですが、実験でもあり、中央美術学院の先見性を示したものです」。

邱志傑院長は、数ヶ月前から小氷の絵画指導に関わっており、次第に人工知能というよりは、美術学生に教えているような感覚になったという。それで、卒業展に出展させることにした。

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北京市の中央美術学院で開催された「卒業展」。ここに人工知能「小氷」が描いた絵画が出品された。

 

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▲小氷が描いた絵画。「ピカソの立体主義を使ったが、完全ではないので星4つ」などと自分で自分の絵画を批評している。

 

模倣の果てに創作性が生まれた

小氷に絵画創作を学習させる秘密プロジェクトは22ヶ月前に始まっている。その具体的な学習過程は公開されていないが、400年間にわたる236名のアーティストの絵画を学習させ、結果を検討し、次の方針を決めるというサイクルを繰り返してきたという。

最終的に小氷に「中国の都市化過程」というテーマを与え、連作させてみたところ、ボナール、ゴッホ、ベルナールの3人の画家によく似た技法の絵画を創作した。それだけでなく、中国の暮らしが農村から都市に変化し、都会での孤独感をよく表現した絵画になっている。ただ模倣するだけでなく、「創作」を誰もが感じたのだ。

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▲小氷が描いた「中国の都市化過程」の連作。タッチは学習をした過去のアーティストの模倣だが、構図などに創作性が見られたという。

 

人間のアーティストに刺激やヒントを与える

マイクロソフトアジアインターネット工程院の人工知能創造事業部の責任者、徐元春総経理は言う。「これで、小氷が芸術家だというつもりはありません。しかし、同じテーマで創作をするアーティストたちは、彼女の作品から大きなヒントを得たり、考えさせられたりするでしょう。それが小氷の芸術上の意義だと考えています」。

この小氷の創作は、すでにWeChatミニプログラム「少女画家小氷」として、誰でも利用できるようになっている。情景やテーマをテキストで入力すると、だいたい3分程度で絵画を創作してくれるというものだ。

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▲小氷はマイクロソフトアジアインターネット工程院が開発した人工知能。最初はチャットボットから始まった。多くのSNSから利用ができる。

 

デザインへの応用が始まっている「小氷」

この小氷の創作能力は、すでに商業化への模索が始まっている。徐元春総経理は半年間で、10数社の紡績、アパレル企業を訪問し、小氷の創作能力が応用できないかを共に検討した。

例えば、あるアパレル企業では28人のデザイナーがいて、毎日4種類の新しいデザインを完成させることが求められている。「28人で4種類」ではなく、「1人4種類」で、合計毎日112の新デザインが求められている。その中から製品化するものが選ばれていく。大多数のデザイナーが2年持たずに辞職してしまうという。疲弊して、創造力が枯渇してしまうのだ。

ここに小氷の能力を応用できないかと考え、シルクスカーフなどのデザインに挑戦をしている。その成果は、3月に杭州市の中国シルク博物館に収蔵されることになり、6月にはアパレル企業SELECTEDと共同で、シルクスカーフの生産準備を始めている。

人工知能は、もはや実験やデモをする段階は終えている。具体的な産業への応用が始まっている。

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杭州市のシルク博物館に収蔵された小氷デザイン作品。

 

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▲シルク博物館のショップで販売されているしおり。これも小氷がデザインしたもの。

 

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