中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

BAT時代が終わり、HAT時代が始まる。百度が凋落した理由

中国ではIT企業の「三巨頭」を表す言葉としてBATという言い方が使われる。百度バイドゥ)、アリババ、テンセントの3社のことだ。しかし、最近メディアでは百度を外して、ファーウェイを入れたHATという言い方が使われるようになっていると蜡筆小新的窩が報じた。

 

中国のプラットフォーマーBAT

中国では以前から、IT企業の3強を表すのに、BATという言葉が使われている。百度バイドゥ)、アリババ、テンセントの3社のことだ。

この3社は、企業価値が大きいだけでなく、新しいテクノロジー、ビジネスを生み出し、数多くのスタートアップ、ベンチャーに投資をしてきたことでも「三巨頭」だった。

それができたのは、3社ともプラットフォーマーだからだった。百度百度検索、アリババはEC「タオバオ」「Tmall」、スマホ決済「アリペイ」、テンセントはSNS「WeChat」を基盤とし、そのプラットフォーム上でビジネスを展開してきた。イメージとして、私たちがよく知っている企業に置き換えると、百度はグーグル型、アリババは楽天型、テンセントはLINE型になる。

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▲2019年第1四半期の決算報告書に基づいた企業価値ランキング。百度が大きく後退をした。Tik Tokで知られるバイトダンスが上位に進出をしてきている。3位のアントフィナンシャルはアリババ傘下で、スマホ決済「アリペイ」を運営している。

 

BATが終わり、HATの時代がやってきた

その百度が苦しんでいる。2019年第1四半期では、9.36億元(約146億円)の赤字となった。その影響で株価が下がり、企業価値を大きく落とし、美団(グルメ評価サービス+外売)、網易(エンタメポータル)、京東(ECサイト)にも抜かれ、第6位のIT企業に後退をした。

「BAT時代が終わるのではないか」というところに、にわかに注目を浴びたのが、美団創業者の王興のSNS「飯否」での発言だった。

「HAT(ファーウェイ、アリババ、テンセント)がBATに置き換わる時がやってきた。ファーウェイは間違いなく中国屈指のテクノロジー企業であり、メディアはBATの代わりにHATを使うべきだ」というものだ。

この影響力のある王興の発言により、メディアでもHATの文字をよく見かけるようになっている。

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▲美団の創業者、王興は、ファーウェイを入れて、「BATの代わりにHATを使うべきだ」と発言した。ファーウェイは非上場企業であるため、企業価値ランキングには顔を出さないが、売上高ではアリババとテンセントの合計を超えている。

 

ファーウェイの売上は「アリババ+テンセント」を超えている

ファーウェイの2018年のグローバル売上高は1052億ドル(約11.3兆円)、2017年から20%の成長をした。この売上高は、アリババとテンセントの売上の総和を超えている。

ファーウェイは戦略的に上場をしない企業なので、企業価値などのランキングには登場をしないが、売上高を見る限り、ランキング1位の企業で、HATが新しい三巨頭という王興の発言には誰もがうなづける。

 

プラットフォーマーとして拡大をするアリババとテンセント

一方の百度はどうしたのだろうか。中国のIT企業は大きくなっても、新規事業を興し、成長をしていかなければ、倒れるだけだ。そのため、新規事業の戦略が極めて重要になる。アリババとテンセントは、合理的な新規事業展開戦略を持っていた。

例えば、アリババはEC→EC内通貨→スマホ決済とプラットフォームを拡大してきて、そこから得られるビッグデータを活用して、外売や新小売スーパーといったO2O、OMOビジネスを展開している。

テンセントはSNS→ゲーム→SNS内通貨→スマホ決済とプラットフォームを拡大し、現在では、SNS「WeChat」内からさまざまな生活サービスを利用できるミニプログラム(アプリ内アプリ)でO2Oのプラットフォームとなっている。

いずれも、過去の成功を利用して、次の段階に進むという合理的な戦略で新規事業に進出をし、企業を成長させてきた。

 

テック志向が強すぎる百度

ところが百度は、よくも悪くもテック志向が強すぎる企業だ。アリババやテンセントのように戦略的にプラットフォームを拡大していくのではなく、テクノロジー的に面白みのある新規事業に手を出してしまう。

例えば、百度は2014年に唐突に出前サービス「百度外売」を始めて、O2Oビジネスに進出をした。しかし、この時、セキュリティ企業「360」の創業者、周鴻禕は疑問を表明した。「なぜ百度が外売ビジネスを始めるのか。百度のエンジニアたちは、外売を利用する消費者のことを理解していないだろうに」。

百度が出前ビジネスに強い興味があったとは思えない。百度は「百度地図」というマップアプリを提供していて、マップアプリを活用するサービスに進出をしたがっていた。外売サービスは百度地図の活用事例としてうってつけに見えただろうし、また、配送員を適正に動的配置するアルゴリズム開発にも興味があったのかもしれない。百度はビジネスよりもテック的な興味から新規サービスに参入してしまう。

周鴻禕の言葉通りに、百度外売は売上が芳しくなく、2017年8月に餓了麼(ウーラマ)に買収されることになった。

周鴻禕の発言は批判というよりも、助言だった。百度のテック能力を高く評価していて、百度が次にやるべきことは料理の出前ではないだろうという意味だった。

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百度の創業者、李彦宏CEO。米インフォシーク検索エンジンの開発に携わった後、中国に帰国して百度を創業した。BATの中で、百度はテック志向が強く、相対的にビジネス志向が薄い。ネット広告収入に頼っていたが、近年バイトダンスのTik Tokなどに大きく蚕食されている。

 

百度の大きな挑戦「自動運転」の収益化には時間がかかる

百度は現在AIテクノロジーにシフトをしている。そこから自動運転プラットフォーム「アポロ」などが生まれ、L4自動運転車などの生産も始まっているが、まだまだ売り先は限定的で、百度という大きくなった企業を支えるだけの事業には育っていない。百度の李彦宏CEOはAIと自動運転技術に注力をしているが、成果が出て、売上に寄与するようになるまでは時間がかかると見られている。

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百度人工知能、自動運転に集中をしていて、すでに北京市の海淀公園を人工知能のテーマパークとし、L4無人運転のバスを走らせている。しかし、自動運転で収益が上がるまでにはまだ時間がかかると見られている。

 

Tik Tokこそ百度がやるべきサービスだった

百度がAIに舵切りをしたところに、バイトダンスがニュースアプリ「今日頭条」、ショートムービーアプリ「Tik Tok」で急成長をした。実は、これこそが、百度が次にやるべき新規事業だった。ショートムービーはトレンドとなり、続々と追従するサービスが登場し、中国のネット民はウェブからショートムービーに大挙して移動した。

この影響で、百度のネット広告収入が大きく蚕食されてしまった。これが百度が損失を出した大きな原因になっている。

もちろん、百度の自動運転プラットフォーム「アポロ」は有望視されていて、軌道に乗れば、百度に莫大な収入をもたらすことになる。しかし、それには時間がかかる。その間、苦しい時期を過ごさなければならないことは李彦宏CEOにとっては織り込み済みのことなのかもしれないが、しばらくはBATではなく、HATという言葉を使うのが適切な時代が続きそうだ。

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