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5G通信を利用して、救急車内でICUレベルの治療を。遅延のない映像で医師団がアドバイス

中国科学技術大学付属第一病院(安徽省立病院)は、5G通信技術を使って、救急車を移動ICUに改造したと発表した。音声と映像をリアルタイムでリンクし、高品位映像、医療機器データ、電子カルテなどのデータを移動しながら病院とやりとりできる。

 

移動体でも遅延のない大容量通信が可能になる5G

5G通信の最大のメリットは、「映画が何秒でスマホにダウンロードできる」というようなものよりも、どこでも遅延のない大容量通信ができるということの方が大きい。例えば、高度な3D顔認証決済端末は、従来は有線接続をしなければならなかった。しかし、5Gであればワイヤレスでもじゅうぶんとなり、さまざまな場所に顔認証決済端末を置けるようになる。

さらに、監視カメラなども従来は設置に手間がかかったが、高画質のワイヤレス監視カメラが簡単に設置できるようになる。しかも、映像はクラウドに集まるので、複数の映像を横断的に画像解析することも簡単になる。また、バス、鉄道、タクシーなどの公共交通でも、リモート監視、さらにはリモート操縦なども可能になる。

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中国科学技術大学付属第一病院の移動ICU救急車。現在は5G通信エリアが限られているが、エリアの拡大とともに本領を発揮するようになる。

 

リアルタイムで医師がアドバイスできる「移動ICU

中国科学技術大学付属第一病院は、5G通信技術を使って、救急車をICU(集中治療室)にする計画を進めている。この移動ICU救急車には、車内に360度4Kカメラが備えられ、リアルタイムで車内の処置状況を指揮センターに伝えることができる。5G通信を利用するため、遅延が起きることはなく、指揮センターで待機する医師たちが適切な処置方法を指示することができる。

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▲移動ICU救急車内のバイタルモニター。このデータはリアルタイムで指揮センターにも送信されている。また、360度高精細カメラの映像も5G通信を使って、リアルタイムで指揮センターに送られる。

 

すでに80名以上の命を救っている移動ICU救急車

移動ICUは、救急通報を受けた時点で、一刻一秒を争う重篤な病気、怪我であることが予想される場合に出動をする。到着した時点で、ICUとほぼ同等の処置が行えるため、患者の死亡率を大きく下げると期待されている。

中国科大付属第一病院では、2016年に国内で最初に移動ICUを導入し、すでに80人以上の命を救い、累積走行距離は3万kmに達している。これに5G通信が加わり、指揮センターの医師団が適切なアドバイスができるようになり、より多くの患者の命を救えると期待されている。

2018年には、淮南の17歳の女子高校生が急性心筋炎の疑いで、移動ICUが出動し、VA-ECMO(人工肺とポンプを使って、呼吸と血液循環を外部化する応急処置)を施し、彼女の命を救った。彼女は、現在、再び通学できるところまで回復しているという。

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▲移動ICU救急車の車内。ICU並みの医療機器が備えられている。5Gに対応することで、指揮センターに待機している医師団のアドバイスを受けることができるようになる。

 

鍵は5G通信エリアの拡大

2019年1月に中国科大付第一病院は、中国電信安徽支社と共同して、「スマート病院5G実験室」を設立。移動ICUでの治療にどのように5G通信が利用できるかを検討し、今回の5Gを使った新型の移動ICU救急車を開発した。

現在は、5G通信が可能なエリアが限られているため、5G移動ICU救急車は、その本領を発揮することができず、通常の移動ICUとして、あるいは5G通信可能なエリアでの試験運用という段階だが、5G通信エリアが整備されるにつれ、指揮センターの医師団と協力して、大きな成果を上げられると期待されている。