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弾幕動画共有サイト「ビリビリ」で独学する若者が急増中

アニメの違法共有、萌え、サブカル系の動画が多く共有されている「ビリビリ」のユーザー意識が変わりつつある。学習系の動画が増え、人工知能や受験、資格試験のための独学に使う人が増えていると央視新聞が報じた。

 

ナスダックに上場した弾幕動画「ビリビリ」

ビリビリは、2009年に始まった動画共有サイトニコニコ動画のわかりやすいほどのパクリサイトであり、動画の上に弾幕が流れるのが特徴だ。

元々はボーカロイド初音ミク」のファンサイトから始まったが、すぐにアニメの違法配信が増え、若い世代なら誰でも知っている動画共有サイトになった。中国ではビリビリと呼ぶ人は少なく「Bサイト」(B站)と呼ぶことが多い。

開発元の「ビリビリ」が米ナスダック市場に上場するのに合わせて、違法配信を排除し、テレビ局や映画会社などのIPホルダーと契約を結び、公式の動画配信が増えている。今でも、毎月1億人のアクティブユーザーがいて、若者の動画プラットフォームとして影響力を保っている。

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▲ビリビリの典型的な動画。おそらく元はテレビ放送などを違法供給したもの。動画の上に、笑い声やツッコミの弾幕が流れる。現在でもこのような動画が主流だが、徐々に変わってきている。

 

ビリビリは人工知能を学ぶための聖地

もはやビリビリは、アニメや萌え関連の動画ばかりではない。ビリビリの動画によって高校の学科や大学の講義、資格試験の学習をする若者が増えているのだという。

金曜日の午後4時、明君は、ビリビリのアプリを開き、機械学習の講座を見て勉強をする時間にあてている。明君は文系の大学生だが、将来を考え、人工知能の知識を身に付けたいと考えた。しかし、大学にはそのような講義がない。そこでビリビリで独学を始めて、もう半年になる。「Bサイトはもはや人工知能を学ぶ聖地のひとつになっています」と言う。

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▲高校生のための数学復習講座。先生の「円瞼妹妹」先生が可愛いと、男子高校生から人気の動画シリーズになっている。弾幕があることによって、みんなで勉強している感覚が得られる。

 

受験、資格試験対策に使われるビリビリ

この他、大学入試のための共通試験(高考)の準備をする高校生、専攻科目以外の分野を学びたい大学生、資格試験のための学習などにビリビリが使われている。2018年、このような学習系動画を見たユーザー数は、ビリビリによると1827万人に達するという。公開された動画は合計146万時間になり、103万回のライブ配信があった。

ビリビリというと、アニメが違法に共有されているというイメージが強かったが、もはやまったく変わっている。アニメは公式に配信され、その他、グルメ、化粧、デジタルテクノロジー、学習動画などが人気になっている。法律の講義動画も多く、地方の若者が独学で司法試験に挑戦する例もあるという。中国政法刑事司法学院の教授の講義動画が、身近な例を用い、しかもこの教授が湖南地方の方言が強く、わかりやすくて面白いと評判になった例もある。

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清華大学が公式で配信しているビジネス系の公開授業。さすがに弾幕でツッコミを入れる人は少ないが、独学をしたい人から大学の公式動画は人気がある。

 

若者にとってビリビリは動画プラットフォーム

このような状況になったのは、95年代生まれ(20代前半)にとって、ビリビリが高校生の頃にはもはや存在していて、弾幕を特色とするサブカル動画共有サイトというよりも、ごく当たり前にある動画共有プラットフォームになっていることだ。

このような状況を見て、清華大学北京大学などの一流校、資格試験の専門学校、政府機関などが続々と公式チャンネルを開設し、若者を意識した動画を配信するようになった。その中でも、学習系動画の再生数が高いことから、公開講座あるいは授業内容をビリビリで配信するようになっている。

また、第一財経済週刊が公開した「2018年中国Z世代理想生活報告」によると、「1週間の時間があったらどう過ごすか」という質問に対して、95年以降生まれ(20代半ば以上)では「趣味」が最も高く55.51%であったのに、95年以降生まれ(20代半ば以下)では、「学習、自己投資」が74%と際立って高い。

このような3つの要因が重なり合って、ビリビリはサブカルのイメージを脱している。

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▲若者が余暇時間をどのように過ごしているかを調査した結果。95年以降生まれ世代では「学習、自己投資」が圧倒的に高くなる。中国が豊かになった時代の一人っ子世代であることが関係していると考えられている。「2018年中国Z世代理想生活報告」(第一財経済週刊)より作成。

 

Z世代は一人っ子。一人遊びを好み、独学を楽しむ

なぜZ世代がここまで学習を好むのか、その理由は明らかではない。しかし、多くの専門家が指摘するのは、中国のZ世代は一人っ子であるということだ。兄弟と一緒に遊んだ経験がなく、同年代の子どもと遊ぶ経験に乏しい。一人遊びを好むのようになり、その延長線上で独学を楽しんでいるのではないかという。Z世代の独学に悲壮感や打算はなく、学ぶことを楽しんでいるようだ。

ビリビリでは、生徒が弾幕でツッコミを入れたりすることができ、時間的には非同期であるものの、他の生徒と一緒に学んでいる感覚が得られる。そのようなことからビリビリでの独学が増えているのではないかという。

 

サブカル世代が卒業しても、独学世代が流入してくるビリビリ

これはビリビリにとってもありがたいことだった。サブカル感覚のままでは、最初にファンになった90年代生まれ世代以外のファンを獲得することは難しく、90年代生まれ世代が年をとるとともに、ビリビリも年をとっていくことになる。大人になる過程のどこかで、ユーザーがサブカルを卒業してしまい、サイト運営は苦しくなるばかりだったはずだ。しかし、ビリビリは新しい世代のニーズに対応して、若い世代をうまくつかむことに成功した。今後も、ビリビリは新しい世代の流入とともに変化をし続けながら生き残っていくことになる。