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中国を中心にしたアジアのテック最新事情

スマホ決済が急速に普及する東南アジア。約8割がキャッシュレス決済の利用経験あり

VISAが「デジタル消費者の勃興」と題したレポートを公開した。東南アジア各国では、スマホ決済の利用経験者が8割に登っているという。その理由は銀行口座がまだ普及をしていないことと、ライドシェア、フードデリバリーなどのオンデマンド経済が日常的なものになっていることだ。

 

約8割がキャッシュレス決済の利用経験あり

このVISAが公開したレポートは「Rise of the Digitally Engaged Consumer」(デジタル消費者の勃興)と題したもので、2017年7月に、インドネシア、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムの東南アジア各国の消費者4000名に対する調査をまとめたもの。

国によって違いはあるが、東南アジアの消費者のほぼ1/3がスマートフォンを使い、急速にスマホ決済が普及をしてきている。すでに約8割の人が端末決済(キャッシュレス決済)の利用経験がある。

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すでに約8割の人がキャッシュレス決済の経験がある。その背景にはVISAコンタクトレス、VISAチェックアウト、VISAトークンなどのプラットフォームサービスの普及があった。

 

ベトナム人の57%が「3日間キャッシュレス決済だけで暮らせる」

驚くべきは、消費者たちのスマホ決済に対する意識の高さだ。この調査では「24時間キャッシュレス決済だけで暮らせるか」「3日間をキャッシュレス決済だけで暮らせるか」との問いに、24時間では最高のインドネシアで76%の人が、3日間ではベトナムの人の57%が「はい」と答えている。

さらに「5年以内に自国がキャッシュレス化100%になると思うか」という問いには、43%の人が「そう思う」と答えている。

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▲24時間キャッシュレスで暮らせるか(左)、3日間キャッシュレスで暮らせるか(右)の回答。多くの国で半数前後の人がキャッシュレスだけで暮らせると答えている。

 

日本では利便性よりもお得感が牽引するキャッシュレス決済

同じ質問を日本でしたら、ここまで高い数字にはならないのではないだろうか。コンビニやチェーン飲食店だけを使うのであればともかく、いわゆる日常消費にあたるスーパー、個人飲食店、個人商店ではキャッシュレス化がまだまだ進んでいない。

やはり問題は3%から5%の決済手数料を商店が負担をするというところにあるようだ。面白いのは、多くのスーパーでクレジットカードなどにも対応をしているが、客寄せのための「ポイント5倍デー」などでは「現金のお客様のみ」とすることがけっこうあり、多くの消費者は「ポイントもらった方が得か、キャッシュレス決済のポイントを貯めた方が得か」と考え、時と場合によって現金とキャッシュレスを使い分けている。

日本の場合、キャッシュレスの利便性よりも、お得感が先行している。

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▲1ヶ月に1回以上、ECを利用した人の割合。ECが生活に定着していることがわかる。

 

キャッシュレス決済を牽引したのはオンデマンド経済

VISAのレポートでは、東南アジアのスマホ決済が進展したのは、オンデマンド経済が成長したからだとしている。オンデマンド経済とは、「必要な時にどこでもいつでもサービスが提供される」もので、「ライドシェア」「ミールデリバリー」「ストリーミングサービス」の3つが主なものだ。

このようなオンデマンド経済を利用するには、スマホ決済が最も相性がいい。オンデマンド経済の成長とともに、スマホ決済が普及をしていっている。

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東南アジアで普及するオンデマンド経済に対するニーズ。ライドシェア、フードデリバリー、ストリーミングサービスへの需要が強く、これがスマホ決済を普及させる原動力になっている。

 

「走るATM」GO-PAYのユニークな展開

その最たるものが、インドネシアスマホ決済「GO-PAY」だ。このGO-PAYを運営しているのはGO-JEKというライドシェア企業。2010年に創業したGO-JEKは、当初バイクタクシーの配車サービスだった。バイクの後部座席に客を乗せるタクシーだったのだ。これが渋滞の多いインドネシアで受け、自動車のタクシーに手を広げるだけでなく、飲食、荷物のデリバリーから果てはネイル師やマッサージ師のデリバリーまで行うようになった。

2016年から、GO-JEKのサービスの決済用にスマホ決済「GO-PAY」を始め、これが他の業種にまで拡大している。

普及の理由は「走るATM」だ。チャージ(トップアップと呼ばれる)や現金化は、GO-JEKのドライバーが行ってくれる。現金しかなくても、GO-JEKのサービスを利用する時に現金で支払って、ついでにチャージをしてもらうことができるのだ。逆に現金が必要な時は、ドライバーを見つければ現金化をしてくれる。

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バイクのライドシェアGO-JEK。ドライバーがATMとなり、チャージ、現金化を行なってくれる。「走るATM」として有名になっている。

 

銀行口座がなくてもコンビニチャージが可能

また、スマホ決済OVOは、コンビニ「アルファマート」でチャージができる。レジで現金を渡し、専用端末に自分の電話番号を入力するだけという簡単さだ。

通信キャリアTelkomselが運営するスマホ決済「t-cash」もコンビニでチャージができ、銀行ATMで銀行口座がなくても現金化ができる。さらに、中国のアリペイを運営するアントフィナンシャルがインドネシア版アリペイ「Dana」で参入している。

インドネシアでは銀行口座を持っている人が50%程度、クレジットカードを持っている人は5%以下と言われている。そのため、身近なところでチャージができ、簡単に現金にも戻せるスマホ決済が受け入れられている。

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スマホ決済「OVO」は、コンビニ「アルファマート」でチャージが可能。

 


TCASH - T-WALLET

インドネシアスマホ決済t-cashのプロモーションビデオ。コンビニでチャージができ、銀行のAMTで銀行口座を持っていなくても現金化ができる。銀行口座が普及していないインドネシアでは、身近なところでチャージ、現金化ができることが鍵になっている。

 

課題があるから普及する。オンデマンドサービスがあるから普及する

キャッシュレス決済が爆発に普及するのは、お金に関する課題が大きいからだ。クレジットカードが限定的にしか普及していない。高額紙幣の額が小さく、現金の持ち運びが不便。決済のベースとなる銀行口座を持っている市民が少ないなどだ。そう考えると、東南アジアでキャッシュレス決済が急速に普及をするのは不思議なことではないのかもしれない。

アジア圏は、中国、韓国を筆頭に、東南アジア各国もキャッシュレス社会となり、日本だけが「現金を使い続ける国」になるかもしれない。現在の日本のキャッシュレス決済推進はポイント誘導でしかなく、日本には解決すべき決済上の課題がさほどないからだ。それは喜ぶべきことなのだろうか、憂慮すべきことなのだろうか。