中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

杭州市の渋滞を5位から57位までに改善した「都市ブレイン」が他都市展開へ

人工知能が交通信号の明滅時間を制御することで渋滞を解消する。杭州市で展開していたアリクラウドの「都市ブレイン」が大きな成果を上げ、クアラルンプールやマカオ、蘇州など国内外の10都市への横展開を始めていると都市快報が報じた。

 

交通信号を人工知能が制御して渋滞を解消する「都市ブレイン」

中国の多くの都市が交通渋滞に頭を悩ませている。都市への人口流入の速度が速すぎて、公共交通の整備が追いつかないのだ。全国の人口上位32都市のうち、27都市が、一人当たりの道路面積が全国平均以下となっている。

この問題の決め手として注目をされているのが、アリババ傘下のアリクラウドが開発をした「都市ブレイン」だ。

都市ブレインは、交通監視カメラ映像を画像解析することで、各道路の交通量を算出し、人工知能が各交差点の交通信号の明滅時間を制御することで、渋滞を解消しようというものだ。簡単に言えば、交通量が多い道路の信号の青の時間を長くして、車の流れをよくするというもの。

また、交通事故なども画像解析から把握をし、救急、警察に、その被害程度も概算して、自動的に通知する。また、緊急車両に対しては、最短経路が示され、移動中の信号はすべて青になり、ノンストップで現場に到着できる。

f:id:tamakino:20190520115519p:plain

▲道路に設置された交通監視カメラの映像から、車両を認識し、交通量を算出する。これに基づいて、信号の明滅時間を制御する。

 

f:id:tamakino:20190520115525p:plain

▲赤枠は停止車両。ここから追突事故であることを判別し、事故の程度を推測し、救急、交通警察などに通知を送る。市民からの通報が入る前に、緊急車両が出動できる。

 

渋滞ランキングは5位から57位まで改善

杭州市が、この都市ブレインの導入を決めたのが2016年。まず蕭山区の渋滞の激しい区間に導入してみたところ、車両の平均速度が最大で11%上昇することを確認。翌2017年7月には、蕭山区の128カ所の交通信号を人工知能で制御してみると、試験区間の通過時間は15.3%減少し、救急車の現場到着時間は半分以下となった。

2018年には、都市ブレインの提供区域を大幅に拡大した。面積で420平方キロの地域をカバーする。

2016年、導入前の杭州市の渋滞度ランキングは、全国5位だったが、2018年末には全国57位まで下がっている。杭州市の渋滞は大幅に改善をし、もはや「渋滞の街」ではなくなっている。

f:id:tamakino:20190520115530p:plain

▲緊急車両には、事故現場まで、渋滞などを考慮した最短経路を提示する。緊急車両の走行に合わせて、交通信号はすべて青になる。現場到着時間は半分以下に短縮された。

 


ET大脑详情页 城市大脑

▲都市ブレインの公式プロモーションビデオ。どんな機能があるか、わかりやすく1分30秒にまとめられている。

 

杭州市全域に拡大。国内外10都市にも横展開

2019年、杭州市は都市ブレインの提供地域を市中心部から郊外市区へと大幅に拡大する。臨安区、富陽区、建徳市、桐盧県、淳安県にも拡大し、杭州市全域の交通信号の制御を都市ブレインに任せる。

一方、開発元のアリクラウドでは、杭州市での都市ブレインの成果を元に、他都市展開を進めていく。蘇州市、衢州マカオ、クアラルンプールなど国内外の10数都市が、導入を検討、決定している。

クアラルンプールではすでに試験導入が始まっていて、試験導入地域では、救急車の現場到着時間が48.9%に短縮されるという成果が上がっている。

f:id:tamakino:20190520115535p:plain

杭州市は東側の数字で示されている4区が中心地。都市ブレインは今年、杭州市全域に拡大される。

 

f:id:tamakino:20190520115516p:plain

▲すでにマレーシアのクアラルンプールで、都市ブレインの試験導入が始まっている。アリクラウドは、中国を代表する輸出品に育てたいとしている。

 

都市ブレインを中国の戦略輸出品に育てる

アリクラウドでは、中国各都市に横展開をしていくのはもちろん、海外への戦略的な輸出品にも育てたいという。ロンドンは世界に地下鉄を輸出した。パリは下水道を輸出した。ニューヨークは電気網を輸出した。中国は都市ブレインを輸出するというわけだ。

渋滞は都市の病気だ。渋滞に悩まない都市は存在しない。それを、人工知能が交通信号を制御するというシンプルなアイディアで杭州市は大きな成果をあげた。都市ブレインそのものが採用されるかどうかは別として、海外の都市でも交通信号を人工知能が制御することが当たり前になっていくだろう。